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異世界転職: 『流者はつらいよ』  作者: 息忌忠心
【王都編】Ⅲ 百花繚乱の流者 と メグと
27/51

乱戦はつらいよ

 乱戦は、もはや容易に引き返せないほどに入り乱れ、混迷しながら鋭い金属音を飛び散らせていた。


 盾持ちのぶん商工会が優位かと思いきや、白髪ゴブリンの見えない投擲に頭を殴られ戦線が揺らぐ。

 何で負けているかといえば、戦闘経験がどうにも向こうのほうが上なのだ。


 俺は『猛疾駆★★★』を繰り返し唱えながら、『癒水如雨露★★★』をかけては退き、退いては見回し、見回しては撃たれた仲間のもとへ駆け寄った。


 しかし繰り返しの中で、持久戦だと思っていた戦況がいつの間にか変化していることに気づく。

 こちらが押している……と思ったポイントが複数の小石投擲により崩される事態が起こり始めていた。

 つまり、押しているのではなく、巧妙におびき出されて撃破されているのだ。


 こいつら、本当にゴブリンなのか?

 ゴブリン、ゴブリン・グリガル、ゴブリン・ゴブラナイという名が仲間から漏れ聞こえるが、各々の特徴がつかめないまま釣られるのを止められない。


 振り回され、回復の追いつかなくなる瞬間はもうすぐそこまで来ている。


 医術師と薬毒師へ分かり切った指示を出しているだけのリーダーを捕まえ、耳を引っ張った。


「『戦線掌握』は?」


「はぁ?なんだって?」


「『戦線掌握』は持ってないですか!?」


「せっ、『製造線管理』と『商戦進退』なら……」


「どっちか使って、単独で引き抜かれないようにして下さい」


「わかった」


 商の字のリーダーが『各個が突出しないよう』指示を出したことで、戦列が多少は整い、釣られ撃破はいくぶん減ったが。どこもかしこも乱戦に熱くのめり込み過ぎていて、端の方まで声は届いていない。

 木々の壁とシダ草に指示が吸収されているのかも知れない。


 ライン中央へフェイクの釣りが仕掛けられ、堪える指示をリーダーが出す隙に、一番遠い端の方が崩されていく。

 チグリガルドのゴブリン、頭良すぎるだろ!!?


 左右の回復に往復させられるのを止め、俺は再びリーダーの脇に駆け寄った。


「リーダー。大声は!?」


「なんら~~???」


 ザブーン

 冷水をぶっかけてから、自分で『大声★』スキルを使って繰り返す。

「おおごえ、スキルはないんですか!?」


「ある!あるに決まってらぁ!」


「タクミ!釣られるな!」と、どいつの事かは分からないが随分遠くまで指示が通り始めた。

 戦況を把握した薬毒師と医術師が両翼付近の後方に陣取り、戦線が持ち直してくる。

 あと少し、もう一息なのだか……。


 赤毛の少女をはじめとした意思の疎通が浅い傭兵や、リーダーとライバル関係にでもあるのか、『キッ』と睨んで指示を無視する工の字が釣られてはダメージを受け続けている。

 場馴れしたリーダーが的確な指示を出しつつあるのに、なかなか通ってゆかない。


 決断し、賭ける他なかった。

 『今』を失えば『先』などない。


 冒険の歴書を開き、蹴球師の職人武具(マスターウェポン)を『戦線掌握』と『警笛』に定めて具象化する。

戦線掌握の警笛!ホイッスル・オブ・ラインコントロール

 

 職人武具の効果は抜群だった。

 俺が警笛を鳴らし、リーダーが大声で指示を出すことで、ゴブリンの仕掛けてくるオフサイド・トラップに釣られるメンバーが激減した。


 ここが押しどころ、正念場だ。

「リーダー、突破してきますんで、後を頼んます」


 俺は『戦線掌握の警笛』を手渡し、軽業師の『眼力耐性の空間棒』を具象化しなおす。


「おい!待ってくれ!」


「具象化が切れたら戻ってきます!」


「いや……新しい笛を具象化し直してくれないか?」



 ……こんな時にウルセエヨバカヤロウ、とボヤキながらも新しい警笛を作って走り出した。

 なにが関節接吻はちょっと……だよ。こっちまで気になっちまうだろうが!!



 戦線掌握など知ったことかと飛び込んでは剣を振るう、赤毛の少女の隣へ馳せた。俺が突っ込むぶんヒーラーが一枚減るからだけではなく、突破力が一番高そうなポイントもまた少女の辺りだったからだ。


(あん)ちゃんアリガト!」

 自由奔放、天真爛漫にゴブリンを薙ぎ払う少女の、脇と背中を固めると一点突破が成功する。


 今さら気づいたが、何故だかゴブリンは赤毛の少女にだけは投石してこない。『石頭』と自己治癒で痛みと腹立ちを紛らせながら一発、俺も石を拾って投げ返す。

 …………投擲スキルが欲しいです、師匠。


 ゴブリンが慌て始めたことで、逆に俺に余裕が生まれはじめた。

 人形士の『変声』を使ってゴブリンの声を適当に真似て叫ぶと、途端に混乱し始める。


 グギャラゴギュロッ! ゲガラグロロ!

 ????????



 あとは商工会が押して押して押しまくり、総崩れした三種混合ゴブリンは森の奥へと退き返していった。

 リーダーの勝鬨(かちどき)が森に響き渡り、汗と熱気にまみれたハンマーが高く振り上げられた。



 火照り湿ったいくつもの腕に背中を張られながら、比較的に見通しのよい空き地に皆で腰を降ろした。医術師と薬毒師も治癒剤を渡しながら、自らも飲み干していた。


 ホッと一息、「ストリング・フェスミーダどうするよ?」と呟きが交わされた。



 かすかな羽音に誰一人きづけなかったのは、誰のせいでもなかった。


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