伝説の剣はつらいよ
俺は新規獲得した『香具士』を冒険の歴書で検索した。
入門用のドラゴン版はこういう時に便利だ。
『香具士(上級職):大道芸で客を集めながら、薬や香を売り歩く仕事です。
着火・扇・語り上手・香具・魅了眼・香木・鞄などのスキルが獲得できます。
下位職で所得済のスキルへ相乗効果が乗りますが、スキルそのものは下位職で取らなければならないものがほとんどです。
下位職:浮流士、配達士、薬毒士、貴金士、物語士、保育士、絵本士、のほか道化士と同様の下位職での下積みが可能です』
なんと、香具師とは物売りジョブだったか。
旅暮らしも何だか楽しそうだ……と思ってしまうが故に獲得したのだろう。
問題は、その一因となった『発酵薬効ドリンク』の販売成果だ。
そりゃ……実演販売で飲みすぎたような気もするよ。
それにしたって、またもや0Gってどういうこと?
*メグは どんびきしている
メグは空になりつつある花籠を抱え、目を丸くしている。
「メグも……最初はお花売るの……上手じゃなかったよ」
ぐぬぬ。メグさん、そんな目で見ないで下さい。
その後ジョブ屋GJを覗いたが、こちらも収穫なし。
なにせ『剣術士LV3』が118万Gときたもんだ。ジミュコ師匠の言った通り、武具専門ジョブが滅茶苦茶な値上がり方をしている。
もっと早くに買っておけばよかったのかもしれないが、後悔先に立たず。
次なる策を打つため、俺はめばえ公園へ帰って来た。
『あきらめなければ、再び芽は生えいずる』
万年樹の石碑の前に立ち、獲れたての『隠密★★』を使って封じられた剣の束を握りしめた。
……力任せに引き抜こうと試みるのだが、剣はビクリともしない。
でも、やっぱり剣術士があきらめられない。
俺は石碑に足をかけ、さらに力をこめた。
「抜けそうですか?」
うわっ、ビクッとした!!
剣の束からサッと手を引き振り返ると、夕陽を背にした人影が立っていた。
!!!!!
マスケット帽の少女が目をキラキラさせて、俺を見ていた。
「いや……あの……姫……これはですね……先日はありがとうごoz」
「しっ。ここでは姫とは呼ばないで下さい。お忍びなんです」
「はいっ……失礼しました」
姫はマスケット帽を深く被り直して微笑む。
「あれから随分と修行を積まれたようですね」
ああああああ。緊張して言葉が出ない。
「私の双子の兄も、昔同じことをして爺やに怒られていました」
「そうなんですか? いや、封じられた剣ってロマンが掻き立てry」
「せーのでやってみましょうか?」
えっ!? いやいやいや。
返事をする間もなく、姫は俺の手をとり、一緒に剣の束を握り込んだ。
無理、無理です。姫の手肌の感触が心地よすぎて力が全然入りません。
「もう一回、せーーーのっ!」
!!!!!!!
マジですかーーー!!?
グラッと手ごたえを感じた次の瞬間、一息に剣が石碑から抜けた。
……が、二人で尻もちをついて唖然とする。
剣は途中から折れ、通常の半分の長さも無かったからだ。
「そういえば、『剣を折って鍬に打ち直した』って伝説でしたね」
……デスヨネ。はい、入刀、入刀。共同作業です。
「でも兄へのいい土産話ができました! お互いあきらめずにファイトです!」
「はいっ……あの……」
「ではまた、ごきげんよう~」
リリベル姫はマスケット帽をかぶり直し、小走りに新王通りへと消えていった。
一瞬、何かの気配を感じたが、この時の俺はそれ以上察知することができなかった。
後から考えるに、おそらく『脱捨士』のパッシブ全開で視線に対してかなり鈍感になっていたのだろうが……。
一人取り残されためばえ公園で、鞄の中の歴書がブルンと震えた。
『剣術士』キタコレ!?
『トピックス:窃盗士LV1を獲得しました』
……まずい!何かヤバ気なジョブがきやがった!
俺は走力系スキルを全てONにし、酒場『アヴァンチュール』を目指した。
走り回った末、ジミュコーネ師匠を捉まえられたのは、彼女の部屋の前だった。
「窃盗士って……ついにやってしまったのですか?」
…………剣術士が欲しかっただけなのです。
「このままでは『外道士』に一直線ですから、必要のない時は暴食士は外して下さい」
……わかりました。窃盗士も外道士もまっぴら御免です。
「そういう意味では『香具士』も微妙かしら……? 魔術士の獲得は当然にしても、火のシナジーがきてないのはオカシイですね」
……あの、師匠?
窃盗士LV1を削除しながら、師匠は狩りの情報を知らせてくれた。
「明日は朝の花屋が終わったら、ハントに行ってください」
「待ってました! どんなハントですか?」
「商工会主催の狩りがグロッテの森であるのです。詳細は明日」
ジミュコーネ師匠はパタンと冒険の歴書を閉じた。
「師匠、もったいぶらずに!」
「メグさんのお迎えの時間ですよ!?」
……あ。少し時間を過ぎている。
待ちぼうけを食わせてしまったメグを、ガルガル串飴でなだめながら、帰宅の途についた。
「失敗は成功のもとですわよ、アナタ」
……ちびっこに慰められるなんて正直悔しくて凹むが、夕暮れの王都を手を繋いで歩くと、なぜだか半端なプライドなんてどうでも良くなってくる。
夕食を食べた後、メグが風呂に入っている間のこと。
メグ母が例の『ピカピカのメダル』をテーブルに置いた。
「これ、やっぱり貰えないわ」
「いや、いいんですよ」
「タイガ君が良くても、私が嫌なの」
メグ母の切れ長の目が、キリリと真剣さを帯びる。
「わけを聞かせて貰ってもいいですか?」
「もちろん。……理由は、『メダル』じゃなく『金貨』だってことをタイガ君が知らないからよ」
「はい???」
姫が俺にくれたのは、お守りの類じゃなかった。
一枚が25万G相当のチグリガルド金貨なるものなのだという。
その事実を知って、絶望しそうなほど打ちのめされる。
「それを知った上でなら。私がタイガ君から貰えないわけがわかるでしょう?」
「………………はい。申し訳ありませんでした」
そう。俺はメグ母に、滅茶苦茶失礼なことをしてしまったのだ。
「くれたのがジャブジャブお金を持て余している貴族か王族なら、プライドより生活の潤いを選んだかもしれないけれど。相手が金貨の価値を知らない人なんだって分かってしまった以上、どうにも受け取れないのよ」
「はい…………痛いほど……わかります」
「じゃあ今晩もよろしくね。このことは済んだこととして忘れて、かわりにメグと楽しい時間を過ごして欲しいの」
「はい…………はい…………そうします」
メグが風呂から飛び出してきたので、話はそこまでとなった。
メグ母を夜の仕事へ送り出した後、今日も飯ごとをして遊んだのだが、結局『調理士』は獲得しなかった。
金貨の件があまりにもショックで、半ばぼんやりしていたからかも知れない。
それでも上級職『家政士』への下積みは積んでおこうと、破れた衣類の修繕を試みる。
裁縫は実益を兼ねた修行のつもりだったが、収穫はあった。
衣服の修繕に『操紐糸』や『針』を使うのはよいが、具象化した『糸』を使ってはならない。
理由は簡単で、糸の具象化が切れた瞬間にハラリと捲れ落ちてしまうのでは困るからだ。
つまり、恒常的に長時間使う物は具象化に向いていないのだ。
……とメグに教わった。
メグに物語を読んで聞かせ、寝かしつけ終えたあと。
俺は泣きたい程の悔しさをこらえて、冒険の歴書を開いた。
明日のハントに向けて、現在所持しているスキルの確認を始めよう……。




