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異世界転職: 『流者はつらいよ』  作者: 息忌忠心
【王都編】Ⅱ つぼみの流者 と ジミュコーネ
21/51

別れはつらいよ

 闇の眷属と化した獣の肉は体に悪いということで、ジャイアント・クレイブは諦めざるを得なかった。

 ……残念。あんなに大きい肉の塊なのに。

 代わりに狩猟士の新規獲得スキル『縄罠』を試すことに決定する。


 獲物がかかるのを待つ間は、ひたすら食草・薬草・毒草の鑑定を続けた。

 多少の失敗は薬毒士の『毒見★★★★』が中毒緩和でフォローしてくれるが、さすがに猛毒草を毒見しようとした時には師匠が止めてくれた。

 ……ちょっとお腹いたい。


 罠にかかったチグリラビットのお命を頂戴し、焚き火の兎肉が焼き上がるのを待つ間、本日の修行の成果を確認する。


〇就業ジョブ一覧 (CAP999)

 花葉装飾師 LV24(マスター)

 軽業師 LV24(マスター)

 蹴球士 LV23 (↑1)

 脱捨士 LV23 (↑1)

 狩猟士 LV11 (↑↑4)

 警備士 LV7 (↑2)

 裁縫士 LV7

 洗濯士 LV6

 薬毒士 LV6 (↑1)

 配達士 LV5 (↑2)

 皿洗士 LV5

 浮流士(フローター) LV5 (↑1)

 地図士 LV3 (↑1)

 曲芸士 LV3 (↑2)

 占い士(ギャンブラー) LV3 (new↑2)

 保育士 LV2 (↑1)

 物語士 LV1


予備職(リザーブ)

 暴食士(フードファイター)LV1


『トピックス:暴食士(フードファイター)LV1を獲得しました』

 ここへ走って来るまで以上に、戦闘から得られる経験は大きいようだった。


『足跡鑑定』『糞鑑定』『ナイフ』『獣気検索』『網罠』……

 兎肉を野草で包んで食みながら、この狩猟士のスキルがあったらマリアンナとの野営や眷属戦ももっと楽だったのにと思う。


 けれどもそれは、卵が先か鶏が先か、でしかない。

 悪夢の卵の眷属戦の木の槍で、必死に苦戦したからこそ狩猟士のLVが上がったのだから。

 何の苦戦もなければ、それほどLVは上がらなかったはずだ。


 新規獲得の暴食士(フードファイター)は『早食い』『胃拡張』『皿積み』『給水』『腹下し』『皿投げ』などのスキルが取れるのか。


「暴食士ですか……薬士の『毒味』より強い中毒緩和の『腹下し』が有用ですが……少し心配です」

「中毒緩和なのに腹を下すんですか?」

「中毒を緩和するために、腹を下して体外へ排出するスキルなのです」

「それなら大丈夫ですよ。使わなければいいんですよね?」

「心配なのは腹下しではなく、異能の『ジョブ飽食』パッシブです」

 ???

「手当たり次第に新規ジョブを獲得してしまうのですよ」


「ジョブが多ければ多いほど、シナジーが増えるんですよね?」

「そうなのですが……しばらくは目標と系統を定めて、整理した方がいい気がしてきました」

「脱捨士なんかを外すのがいいんですかね?」


「うーん。さっきジャイアント・クレイブに睨まれても動けたのは、脱捨士の眼力耐性が主でしたし。瞬間脱衣でプレート・メイルを脱いで逃げるなど、ユニークなスキルもあるので……せっかくですから脱捨士はLV24(マスター)まで保留にしてみませんか?」

「分かりました。師匠がそう言うなら脱捨士は、もう少し続けてみます」



 シュッドの森全体が精気を失ったように静まり返っている。

「師匠……悪夢の卵(デビル・エッグ)って、いったい何なんですか?」

「せっかくですから、ちょっと見ていきますか?」

 探索スキルで位置を探るジミュコ師匠に連れられ、さらに深く森を分け入る。



「うへぇ、気持ち悪い!」

 漆黒色の卵の抜け殻に、ぐじゅぐしゅした紫色の菌糸がへばりついていた。

「流者が……魔王になるために召喚されるって噂、本当ですか?」

「本当です。正確には魔王候補の『魔者』なのですがね。この卵が生き物を精核として魔者が誕生するのです」


「……どうして流者なんですか?」

「精核は別に流者に限りません。現に三日前の悪夢の卵は森の獣だったそうですから。けれども流者は存在自体が精核にうってつけなのです」

 ???

「流者は不安定な生活から『外道士』となりやすいのです。そうなれば深い恨みや絶望を取り込んで、より強力な『魔者』を産み堕とすことができますから」

 …………。

「心の闇を取り込まなかった先日の悪夢の卵(デビル・エッグ)は、ほぼ『無精卵』に近い最弱レベルなのですよ?」

「あれで最弱ですか……しかも俺が戦ったのはただの眷属」


 もしかして、もしかしなくても。マリアンナとシュッドの森に入ったあの時、卵に取り込まれるデッドラインの間際だったのではないだろうか。

「大丈夫、そんな顔しないで下さい。孤独や絶望に陥らなければ何とかなりますから」

 ………………。

「並みの魔者なら私が職人武具で殴り倒して、悪夢から解放してあげます!」

 師匠。それ、大丈夫とか何とかなるの基準がおかしいです。


「そろそろ帰りましょうか。帰り道もしごいていきますよ!」

 うえぇぇ。


    *


 こうしてジミュコーネ師匠と俺の短い修行の旅は終わった。

「別に会えなくなるわけではないのだし」と彼女は王都の広場で、少し寂しげに手を振った。

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