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異世界転職: 『流者はつらいよ』  作者: 息忌忠心
【王都編】Ⅱ つぼみの流者 と ジミュコーネ
20/51

食べ残しはつらいよ

「悪夢の卵の眷属?三日前の?」

 緊張でかすかに喉が渇いてくる。

 姫とガルベラ親衛騎士団が討伐し損ねていたのか?


「威圧に呑まれないよう、脱捨士の『凝視平気』をアクティブにして下さい」

「準備できました。いつでも行けます」

「身の危険を感じたら、迷わず逃げて下さいね」

「……師匠を置いては逃げませんよ」


 師匠が気配を感じるという場所には大きな穴があった。

「親衛騎士団の人たち、どうしてこれほど大きな気配を見逃したのかしら?」

「いったん引いて増援を呼びますか?」

「いいえ、もう出てきてしまいました」


 穴から出てきたのは紫色の闇を纏った馬鹿でかい熊だった。

 本来のものなのか悪夢の卵の影響なのか、10本の長い爪と鋭利な牙を暗く光らせている。毛並みなどはほぼ熊だが胴が異様に長く、背丈も3mはある巨大イタチのような怪物だ。


「ジャイアント・クレイブです。『空間』系アクティブスキルを追加して間合いを大きめに。攻撃は私がしますのでスピードで挑発・攪乱して下さい」

「了解です」

「弱点は喉ですが、無理はしないで。それから念のため軽業師の職人武具(マスター・ウェポン)、『眼力耐性の空間棒スペーシャルポール・オブ・アイガード』を具象化して下さい」


 グフォオオオオオン!!

 ジャイアント・クレイブの雄叫びが枯れ葉を吹き飛ばし、戦闘が始まる。

 よし。熊に恨みはないがここであったが百年目、三日前の雪辱戦の開始だ! 冒険の職歴書を開いて軽業師の職人武具(マスター・ウェポン)、『★★★眼力耐性の空間棒スペーシャルポール・オブ・アイガード☆☆』を具象化し、俺は散開した。


 森の獣にでもなったかと思うほどの身のこなしで、あっという間にジャイアント・クレイブの背後を盗る。

 ここ最近取った各職スキルの力と相乗効果を全身で感じる。


 蹴球士・狩猟士・警備士・保育士などの『短距離俊敏』系のスピードと、軽業師・脱捨士・蹴球士・狩猟士・配達士・地図士など『空間』系による枝避けで、前後左右を自在に攪乱する。


 間合いを大きく取り過ぎたのかジャイアント・クレイブはジミュコ師匠へと向き直り、力任せに豪快に爪を振るった。

 細い枝などいとも容易く裁断しながら、ゆっくりと彼女へ接近している。

 けれども彼女もひらりひらりと攻撃を躱し攻撃はかすりもしない。


 俺は蹴球士の『大声★』を使ったり、『警笛(ホイッスル)☆』を具象化してクレイブの注意を引いた。

 けれどもますます師匠に向かって進んで行ってしまう。

 それならそれで作戦変更だ。


 ジャイアント・クレイブが師匠へ夢中になっている隙に、俺は背後から一気に距離を縮め、クマ型眷属の広い背を眼力耐性の空間棒で突く。

 棒は意外なほど速く深く、鋭くジャイアント・クレイブの肉に刺さった。

 ただの棒なのにこれほどとは、さすがは職人武具(マスター・ウェポン)だ。

 狂暴な怒りを帯びた遠吠えが森じゅうにこだまする。


 いったん離脱し離れた位置で職歴書を開き直し、二本目の空間棒を携える。

 ジャイアント・クレイブの苦し紛れの猛反撃を太い木の幹で遮りながら、ジミュコ師匠がナイフを投擲している。よし、この隙に波状攻撃だ。

 蹴球士のアクティブスキル『監視剥がし(マーク・リムーバー)★★』と『猛疾駆(ダッシュ)★★★』で一気に勝負を決めてやる。


 ローブを着ていると空間棒が微妙に引っかかり邪魔だった。俺はすかさずローブを外してスピードを上げる。


 怒りに我を忘れたクマの背後を盗るのは簡単だった。

 木などに隠れる必要もなく、瞬発力で一直線に間合いを詰める。

「二丁目、貰ったぁあ!」


 ジャイアント・クレイブと目が合った。


 長い胴体がぬらりと捻じれている。

 走馬灯のようにスローモーションで振り下ろされる爪の、一枚一枚までハッキリと見える。


 ヒュウゥ。


 鼻先を爪が掠めていくと同時に、闇の獣の手足の動きが固まる。

 技後硬直か???

 爪の二撃目を躱して俺は眼力耐性の空間棒スペーシャルポール・オブ・アイガードを、ジャイアント・クレイブの喉元に突き立てた。

 ゴボッと音がして濃紫の血があふれ出してくる。

 やったか!

 師匠が背後から追撃を加えると、地響きを立ててクマ型眷属の巨体が沈んだ。



「間合いを取っての攪乱をお願いしたのに、調子に乗り過ぎです」

 ……すみません。『大声★』を切り忘れていました。

「投擲スキルもないのに足の速さを過信して。おまけに隠密のローブまで脱いで。一瞬死んだかと思いましたよ」

 はい……走馬灯が見えそうになりました。


 もし軽業師の職人武具に『眼力耐性★★★』がついていなかったら、クレイブと目が合った瞬間に呑まれ、動けずにいたかも知れない。

 そう考えるとゾッとしてくる。


 冒険の職歴書がいつも以上にブルブル震えている。


『トピックス:多数のジョブLVが上がりました』

『トピックス:占い士(ギャンブラー)LV1を獲得しました』

『トピックス:軽業師のEXスキル<受身即転攻(バンプ・カウンター)>を獲得しました』


 占い士ってチグリガルドじゃギャンブラーなのか。

 ざっと見た獲得スキルの、『表情読み』『表情隠し(ポーカーフェイス)』『虚偽成功』『カード』『球』『棒』『蛮勇引力』『冷静沈着』『猛疾駆』……というラインナップが笑えるような笑えないような。占いのお姉さんが布で顔を隠すのは、ミステリアスな雰囲気作りの為だけじゃないのかも知れない。


「占い士に軽業師のEX(25)スキル獲得ですか……そろそろ本当にカードが揃ってしまいそうですね……ここまで引きが強いとなると、もしかしたら天運? それとも……」

「あのー。師匠? 俺、ホッとしたら腹が減って仕方ないのですが」

「ごめんなさい。タイガさんの成長加速(ブースト)の速さに驚いていたもので」


 俺は師匠から借りて脱ぎ捨てた『隠密のローブ』を再び着込み、昼食の準備に取りかかった。

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