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異世界転職: 『流者はつらいよ』  作者: 息忌忠心
【王都編】Ⅱ つぼみの流者 と ジミュコーネ
19/51

ふるさとはつらいよ

 翌日は朝からジミュコーネ先生と野原へ出かけた。

 野原とは言ってもハイキングやピクニックと呼べるような代物ではない。


 俺は当然のように訓練がてら全力で、足を酷使させられているし、昼食も現地調達だ。

 ……いつの日かリリベル姫の白馬になるため、今日は馬車馬のごとく走り抜いてみせよう。


 活力発奮剤と葉緑苦汁でドーピングしながら二~三時間。見たことのある風景が目の前に広がった。この家がここで……

「ジミュコ先生、この先です」


 二人で向かっているのは、最初に俺がこの世界に漂流した地点。

 何をしにかといえば、本来俺が持っているハズだった『漂泊の職歴書』を探しにだ。

 あれからかれこれ5日間、つまりこの世界での一週間近くが経つのだが、冒険の職歴書は魔術でコーティングされているから多少の雨風で風化してしまうことはないらしい。


 漂泊の職歴書を探す理由は二つ。

 一つはその書が『流者』のパスポート、身分証がわりになるからだ。

 それさえあれば別世界出身と言っても信じてもらえるし、記憶喪失などと偽る必要がなくなる。

 二つ目も重要だ。こちらの世界へ『持ち込むはずだったジョブ』が、まだとり残されている可能性があるというのだ。

「ドラゴン版で登録をすれば自動的に引っ越されるはずなので、可能性はとても薄いのですが……」


「ここだ、このあたりです」

 草原が広がっていて、その先に花畑があり泉があるはず。


 泉はわりとすぐに見つかった。

 けれども辺りはもちろん、泉の水の中にも漂泊の職歴書は落ちていなかった。

「誰かが拾って行ったとして、俺のジョブを抜き取ることって可能ですか?」


「原則不可能です。ただし、違法職歴書士が裏技を使って闇市に卸したのだとしたら、諦めるしかないのですが。ここに漂流してからハンター・センターに来るまでの一日の間に、違法職歴書士の手に渡るというのも早すぎる気がします。やはり私のせいかも知れません」


「ないものはないのでスパッと諦めますよ。漂流した時に気づかなかった俺が悪いんです。今日も外勤だなんて言って、ここまで時間を割いてくれただけでも大感謝ですから」

「そう言ってくれるのは有難いのですが……」

「振り返りタイムは終了、ぶっ壊れ能力に感謝してますよ、先生!」


 などとやり取りしているうちに俺はようやく気付いた。

「ここってもしかして悪夢の卵が孵化したシュッドの森の辺りですか?」

 地図士のLVが上がったのだろう。職歴書がブルンと震えて正解だと言っている。

「そうですね。割と近いかも知れませんね」

 道順などから予想した通り、泉のあった場所はマリアンナと共に眷属らと闘った場所と、森を挟んだ裏と表の位置関係にあった。


「タイガさん、軽く狩りでもしてお昼にしましょうか?」

「はい、俺ももう腹がペコペコです」


 ジミュコ先生はスーツが汚れないよう、ローブを具象化して身に纏った。

 余分に出して貰ったローブを俺も着込むと、何だか師と弟子のようでサマになる。

「俺にも『隠密』があれば、こういう時に楽なんですが」

「あと幾つかLVが上がれば『狩猟士』か『浮流士(フローター)』で隠密が取れると思いますよ」


「師匠は何のジョブで隠密を使っているんですか?」

「家政士です。スパイ活動にうってつけの職ですから」

 ジミュコ師匠の隠密にあずかり、シュッドの森の奥へと踏み込んでゆく。


「思った以上に悪夢の卵の被害が大きかったようですね。獣の気配をあまり感じません」

 スキルがないから良く判らないが、確かに森全体が精気を失っているような感じがする。

 枯れかけた木々の隙間にウルフニードルの走る姿が見えた。どうやらチグリラビットを追っているようだ。


 ジミュコ師匠が手ごろな木の枝を折り、俺に握らせて言った。

「チグリラビットを狩ってみて下さい。いけそうならウルフニードルも」

「行ってきます!」

 逃げる兎と追う狼、さらにそれを追跡する俺の多重鬼ごっこ。

 チグリラビットは六本の足でトリッキーに跳ね回るが、ウルフニードルも何とかして噛り付こうと諦めない。


 各種パッシブスキルの恩恵で、俺は苦も無く二匹の尻に張り付いた。ウルフニードルは獲物を追うのに夢中で、こちらに全く気付いていないようだ。

 腹が減ってるのはお前だけじゃないんだよ!


 ウルフニードルが木を回り込もうと微かに横腹を覗かせた瞬間、すかさず渾身の速さで木の槍を突いた。

 反射的に尻尾が膨張し、針がイガグリのように毛羽立つ。

 フレイルのように振り回された棘の球を、払い落としてもう一撃。たった二撃でウルフニードルは枯れ葉の上に横たわった。

 間違いない。速く、しかも強くなってる!

 走力だけではなく、槍の技量も段違いに伸びている。


「で、チグリラビットは?」

 ……すみません。狩りに夢中で、ウルフニードルが筋ばって食べられないのを忘れていました。


 昼食を求めてさらに森の奥深くへ潜るうちに、師匠がピタリと足を止めた。

「しっ。この先に大きな禍々しい気配がします。三日前の眷属の生き残りかもしれません」

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