修行開始はつらいよ
翌朝、目覚めるとジミュコ先生はスーツを着て、出勤直前の様相だった。
「ではタイガさん、今日からLV上げの特訓をしましょう」
「え。ジョブの入れたい放題なんじゃないんですか?」
「どこにそんなお金があるんですか?」
「17万Gぐらいなら持ってますが……」
「まともなジョブをお金で買うなら50万Gは必要です」
……はい。頑張って修行します。
ジミュコ先生は、王都の地図を出し、その街路にジグザグした線を書いた。
「この地図の通り走ってきてください。ゴールはハンターセンターです」
ひぃいいマジですか。
「ではでは行ってみましょう!」
「ぇぃぇぃぉ-」
背を押されて地図を片手に彼女の部屋を出た。が、今どこにいるのかすら分からず、地図をぐるりと回す。
中央広場がここでこれが新王通りで……ああ、これか。
冒険の職歴書の振動がブルルッと、鞄から響いてくる。
開いてみると『地図士LV1』を獲得していた。
なんだか俄然やる気がでてきた!俺は地図を見ながら迷いながらも、がむしゃらに走り出した。
ひぃ、ひぃ、はぁ……
クタクタになりながらも王都一周を終え、ハンター・センターに無事到着する。
ジミュコーネ先生は薬臭い緑色のドリンクボトルを片手に、満面の笑みを浮かべている。
「お疲れ様でした。鞄の中で冒険の職歴書がブルブル震えていたでしょう?」
「それはもうブルンブルンでした」
「さっそく見てみましょうか」
俺は青臭い飲み物で喉を潤しながら、職歴書を開いて見せた。
〇就業ジョブ一覧 (CAP999)
花葉装飾師 LV24
軽業師 LV24
脱捨士 LV22
蹴球士 LV21 (↑1)
狩猟士 LV6 (↑1)
皿洗士 LV5
浮流士 LV4
警備士 LV4 (↑1)
薬毒士 LV3 (↑1)
配達士 LV2 (↑1)
保育士 LV1
洗濯士 LV1
物語士 LV1
地図士 LV1(new)
予備職
なし
「結構な距離だったとはいえ、走ってきただけでこんなに上がるんですか?」
「キャパが999もあるタイガさんは特別です。『親戚ジョブ』を同時に兼業すればするほど、その系統のスキルが早く成長するのです」
おぉおおお!
「ただ、早く成長できるに越したことはないんですが。最終的に器用貧乏に終わりませんか?」
「早いだけじゃないですよ。親戚ジョブは能力的にもシナジーが乗りますから」
ジミュコ先生は、冒険の職歴書を捲って、少し先のページを俺に見せた。
〇親戚ジョブ、成長加速・相乗効果一覧
+短距離俊敏★★
・蹴球士、狩猟士、警備士、保育士
+長距離持続★
・蹴球士、浮流士、配達士、地図士、狩猟士
「この星の数が相乗効果の度合いなんですよね?」
「そうですね。なおかつジョブLVの成長も早いのです」
+体術★★
・軽業師、脱捨士、蹴球士、警備士、保育士、
+手技★★
・花葉装飾師、狩猟士、皿洗士、配達士、保育士、洗濯士、物語士
+話術★
・保育士、物語士
「あれ? 手技に軽業師が入ってないですね」
「手技は曲芸士のジャンルです。軽業士はおもに跳んだり跳ねたりするほう」
+特効&耐性(水)★★★
・花葉装飾師、脱捨士、蹴球士、狩猟士、浮流士、配達士、皿洗士、洗濯士、地図士
+薬効&耐性(薬毒)★★★
・花葉装飾師、狩猟士、薬毒士、洗濯士
+空間★★★
・軽業師、脱捨士、蹴球士、狩猟士、配達士、地図士
+魅了眼★★★★
・脱捨士、配達士、物語士
+鑑定眼★★
・花葉装飾師、狩猟士、薬毒士、洗濯士
+隠密★★
・狩猟士、蹴球士、浮流士、配達士
+眼力耐性★★★
・軽業師、脱捨士、浮流士、配達士
「隠密と眼力耐性の違いがよく分からないのですが」
「隠密は見られにくくて隠れやすい、眼力をかわしやすい。眼力耐性は見られても影響を受けにくい、の違いです」
+武具(棒) ☆☆
・軽業師、脱捨士、警備士
+武具(旗) ☆☆☆
・軽業師、脱捨士、蹴球士、狩猟士、警備士
+武具(槍) ☆☆
・軽業師、脱捨士、狩猟士、警備士
+武具(鋏)☆
・花葉装飾士、保育士
+武具(球) ☆
・軽業師、蹴球士
+武具(足) ☆☆
・軽業師、蹴球士、警備士
「いろいろ聞きたいのですが、配達士ってそんなに強いですか?」
「配達士はあちこちに名前があがっていますが、幅広いステータスをちょっとずつ底上げしているイメージですね。プロ仕様じゃないので貢献度が表示されていませんが」
確かにジョブ名の横並びだけだと、何がどのくらい上げているのか掴みにくい。
「ただ、これでも姫のガルベラ親衛騎士を超えられる気が……しないんですけど」
「そこは問題ですね。このまま行けば全体的には強くなっていきますが、決定的な攻撃力になりそうなのが『棒』か『槍』ぐらいですから」
「武具(足)では強くなれませんか?」
「『蹴り』で戦うには限度があります。この☆もあくまで相乗効果の底上げ量であって、武具そのものの力ではないのです。棒は旗や槍などにも乗るのである意味最強なのですが、いずれは『武具専門職』も欲しいですね」
剣・ナイフ・鎌・斧・棒・竿・槍・ハサミ・スコップ・ハンマー・鞭・弓・拳・手・足・フォーク・球・カード・皿・輪・針・旗・雑具・鎧・ローブ・肩当・盾……
長所から選ぶか好きこそモノの上手なれでいくか、自由すぎて迷うが。
悪夢の卵戦でのあの強さを考えれば、やはりウルフニードルを真っ二つにした『剣』が欲しい。
「ということで休憩はおしまいです。午後からは『配達』で修行を兼ねたバイトをしてもらいます」
うへぇ、またですか。
『蹴球士』『狩猟士』『警備士』『配達士』などの走力系パッシブは充実してきているが、それでも1000通などとは、日暮れ前に配り終えられるのだろうか。
不安を覚えながらも走り出すと、ダッシュの速度が体感できるほど上がっていた。走るほどに、鞄の中で冒険の職歴書がブルンと震える。
疲れた時は活力発奮剤を一服。乱用は良くないと言われたが、なにせリリベル姫から貰った花葉装飾士のスキルだ。元気が出ないわけがない。
一日も早くゴールを目指すため、俺はさらに自分へ負荷をかけることにした。
何をするかって?ドリブルしながら配達するんだよ!
花葉装飾士のスキルで草の球を具象化し、蹴球士のスキルで蹴りながら走る。
もちろん地図を片手にポスティングしながらだ。これは絶対LV上げが捗るはず。
……途中でドリブルなんか始めた俺も馬鹿ではあったが。あまりの量の多さにチラシを水路へ流してしまいたい気分になる。
しかも1枚3Gとかマジあり得ない。
なにくそ、修行、修行。蹴球士の『猛疾駆★★』で乗り切ってやる!