異母兄弟はつらいよ
「あなた流者ですか?」
眼鏡の奥で、ジミ子さんの目が真剣さを帯びている。
あまりにも突然ふられた話題に、とっさの返答ができない。
「その……記憶喪失なんで分からないですが、流者だったらどうして減衰しないんですか? そういう特別な力がある?」
「流者にそんな能力はありません」
残念。チート能力とかはないのか。
「……記憶にないかも知れませんが、現チグリガルド国王が流者だからです」
だから何だというのだ?
いや待てよ。
「国王っていつごろチグリガルドに来たんですか?」
「うーん。前回だからかれこれ20~21年前ですね」
「国王の名前は??」
いってぇぇぇぇ。
ジミュコさんにグーで鉄拳制裁をうけた。
「おととい『チグリガルド死ね!』って叫んで衛兵に捕まったばかりでしょう? 記憶喪失にもほどがあります!」
あああああ、そうだった。
「……でも国王の本名は一応調べてみます」
やっぱり名前あるんじゃないですか。殴られ損ですか。
「しかし国王なのに本名も知られていないんですか?」
「前回の勇者選抜の儀が途中で終了したので、私が知らないだけです。勇者でもないのに王妃に婿入りできたのは、花の品種改良の才能と、その商売で成したの財力のおかげだそうですから」
年数的には合わないから違うだろうが、いや待てよ。
「一年って何日でしたっけ?」
「……288日ですよ」
それなら合わなくもないか……。
ん?ってことはジミュコさんは22で……17才くらいなのか?
「タイガさん今『国王』が自分の『別世界での父親』なのではないかって考えてたりします?」
「え? いや、ジミュコさんの年齢とボディ・サイズの関係を……」
サッと防御態勢をとったが、鉄拳パンチは飛んでこない。
「イヤかもしれませんが、今だけは逸らさないでください」
ちっ、バレてるか。どういう洞察力してんだ?この人。
彼女は、ゆーっくりと拳を流し、俺の額に当てて止める。
「アナタの記憶が戻らなかったとしても、断定する方法があるのです」
「そんな方法があるんですか?」
「職歴書が『血縁』を忘れることは決してありませんから」
冒険の職歴書には血縁を記すページが存在するらしい。
血縁の濃さによる減衰システムがある以上、当然といえば当然だ。
けれどもそのページはロックがかけられていて、法的手続きなしには開示できないのだという。
「……その方法はやめておきます」
16年もなしで過ごしてきた親父なんてものが、今さら発生しても困る。おそらく、こういうことが起こるからロックされているのだ。
それに姫と異母兄妹とかはもっと嫌だ。
姫は俺がこの世界で生きる希望の源なのに……。
「もしリリベル姫と異母兄妹だったら俺、すごく困ります」
「大丈夫。困る人が王都中に溢れますから、あなただけ一人じゃありません」
それって慰めのつもりですか???
ジミュコーネさんはソファを立ち、狭い部屋の中をウロウロし始める。
「先生なんとかして下さい、お願いします!」
「可能性というだけなら、他にも無いわけではないのですが」
「先生、もったいぶらずに!」
「①姫を含めた王家の隠されし能力。②発見されたばかりで未公開の、譲渡に係る新職スキル。それを姫が持っていた。③タイガさんの特殊能力。④悪夢の卵戦に向かったのは、姫の影武者だった。……あまり期待はできませんが、潰せる可能性から潰してみますか?」
「はい、よろしくお願いします!」
「よろしいです。まずは④の影武者の可能性から。これは冒険の職歴書の導入・譲渡の履歴ページを見れば、すぐに分かります」
俺は速攻で職歴書をジミュコーネ先生へ提出した。
「うーーーーーーーん」
俺の職歴書を見るなり、先生は顔色も変えずに低く唸った。
〇就業ジョブ一覧 (CAP999)
花葉装飾師 LV24
狩猟士 LV5
浮流士 LV4(↑1)
警備士 LV3
皿洗士 LV1
保育士 LV1
洗濯士 LV1
予備職
蹴球士LV20 (new)
薬毒士 LV2 (new↑1)
配達士 LV1 (new)
脱捨士 LV1 (new)
物語士 LV1 (new)
『トピックス:物語士LV1を獲得しました』
「ひとつ確認できました。姫との異母兄妹の線はありませんね」
「待ってください先生。……わかった!花葉装飾師がLV24だからですね?」
「そう。無茶な修行をしたとしてもLV16から一日でLV24になるのは無理です」
だよな。LV16の癒水如雨露と勘違いされているが、俺が使ったのはLV24の職人武具だ。
「この蹴球士、newマークということは導入したばかりですね?」
「夕方に中央広場のジョブ販売所で買って入れたばかりです…がLV20??」
若干興奮していたせいで、導入後のLVまで確認していなかった。
「もしかしたら、もしかするかもです……」
:P*+o/.P‘*o,+L+.:,o#$’(
ジミュコ先生は俺の職歴書を捲って驚嘆の声を上げた。
二階の隣家から床ドンする音が鳴り響く。
「なんですかこの文字化け? どうして導入・削除・受領・譲渡の履歴が読めないのですか?」
……それって。
「あ・な・た・が・壊したんでしょうが!?」
ジミュコ先生は何かを思い出すように天井を見上げた
「ええええええええ!?」
天井がドンドンうるさく返事をしてくる。
先生がこんなに感情を露わにするところを、初めて見た気がする。
「コホン。職歴書の不具合により影武者説は確認できませんでしたが、あなたは信じられないほどの幸運に恵まれたかも知れません」
もしかしたら、もしかして……チートきたか?