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異世界転職: 『流者はつらいよ』  作者: 息忌忠心
【王都編】Ⅱ つぼみの流者 と ジミュコーネ
14/51

マニュアルはつらいよ

 中央広場に戻り着いた頃、副隊長が物騒なアドバイスをくれたのを思い出した。

『今度は白目じゃ済まないかも知れないぞ。今すぐまともな職を買いに行け』


 俺はジョブ屋GJへ直行しジョブを一つ買った。

 『蹴球士LV20』15万7千G。これで現金を持って歩く危険も減らせる。


『蹴球士LV20を収納しました』



 今日はハントにはありつけなかったが金は手に入ったので、外食をしてみることにする。

 やっと……やっとまともな異世界飯にありつける。


 繁華街で迷いながらも、ハンターセンターのジミュコーネさんがオススメしてくれた酒場『アヴァンチュール』に決めた。

 お、やってるやってる。

 

 ウェイトレスにオススメを聞きながら幾つかの料理を注文し、ガルガルという果実を絞った異世界ドリンクで喉を潤した。

 アヴァンチュールだなんて綺麗な店名の割に、いかつい中年の男が多い。

 

 並べられた料理を堪能しているうちに、見知らぬ男が隣に腰かけてくる。

「お兄さん、もしかしてタイガさんじゃねぇか?」

「何か用ですか?」

「やっぱりそうか、いやー噂は聞いてるよ。昨日はシュッドの森で大活躍だったそうじゃないか」

 とバンバン肩を叩かれる。


「なぁ兄弟、ひと口ツマミを分けてもらっていいかい?」

「まぁ……少しだけならいいですけど」

「せっかくだから酒のつまみに、武勇伝を聞かせてくれよ兄弟」

「あれは別に俺の手柄じゃないですよ。たまたま森にリリベル姫が……」


「ちょっと……タイガさん!!」

 ウェイトレスの一人が俺の肩をガシッと掴んだ。

 追加の料理をテーブルに運んできたのは…ジョブハンター・サポートセンターのジミュコーネさんだった。

「あれ??何でこんな所で働いてるんですか!?」


「副業です。それよりもどうしてアナタは今頃来ているのですか?」

「いや……ジミュコーネさんのオススメの店だから来てみようかなって」

「オススメは緊急しのぎのバイト先としてです!」


「ちょっと姉ちゃん、今からタイガ兄弟の祝勝パーティーなんだから邪魔しないでくれよ? 店長!チグリガルド酒を一本入れてくれ!」

「店長!今日は早退します!」

 ジミュコさんはウェイトレスのエプロンをその場で外し、俺を店の外へ引きずり出した。



「いったい何事ですか」

「何事ですかじゃないです。あんな分かりやすい人にたかられて。ご自分の立場わかってますか?」

 …………いいえ。

「とにかくこんな所じゃ話せません。このままウチに来て下さい」

 俺は頭上の『???』を見上げながら、眼鏡っ娘の静かな剣幕に引きずられて歩いた。


 ジミュコさんは冒険の職歴書に触れ、何かのスキルを使った。

 広場では俺と彼女を眺めていた人たちの視線が、少しずつ二人から離れてゆく。


「で、なんで俺の立場って、どこなんですか?」

「しっ。二人だと『隠密』のかかりが悪いし声までは消せないので、ウチに着くまで口をきかないで下さい」

 彼女に腕を取られ、密着しながらひと気の少ない路地へと広場を抜けていく。

 着痩せするタイプなのだろうか。

「ジミュコさん、いくつですか?」

「……22です」

 同じくらいかと思っていたけど、年上のお姉さんでしたか。



 ジミュコーネさんの部屋は見た目の風貌と違わず、簡素でこじんまりしたアパートだった。

 生活感のない部屋の片隅にかけられた服も、飾り気がなく地味だ。


 ジミュコさんは俺をソファに座らせて着替え始めた。

 地味な私服と地味な部屋用眼鏡になり、紙とペンを手にして俺の横に座る。


「タイガさん。今あなたは一部の人の間で『国王の隠し子ではないか?』と囁かれています」

 えっ? 俺が王の隠し子? なんでまた?

「リリベル姫との関係が理由なのです」

「衛兵隊本部でも似たようなことを聞かれましたが、顔すら似てないですよね?」

「そういう表面的なことではなく、職歴書の仕様上の根拠があるからなのです」

 ……どういうことなのです?

 

 ジミュコさんは紙に魔法の羽ペンでメモをしながら、説明の準備を始める。

「前略、職歴書へ外からジョブを導入するときにはLVに制限がかかります」


『(例) ジョブLV24の場合の導入制限 (減衰後)

●他人1/3 (LV24→8)

●孫、いとこ1/2 (LV24→12)

●親→子、子→親、異父母兄弟姉妹2/3 (LV24→16)

●兄弟姉妹5/6 (LV24→20)

●本人、一卵性双生児1/1 (LV24→24) 』


「夫婦はどれに入るんですか?」

「夫婦は他人です」

 …………。

「導入制限は血縁ベースですから、戸籍をいじってもズルはできませんよ」

 なるほど。


「そこで問題です。タイガさんは悪夢の卵(デビル・エッグ)戦で姫から花葉装飾士(フラワーデザイナー)を受領した直後に、LV16のスキル癒水如雨露(ヒーリングジョウロ)行使したとの目撃証言が広がっています。この時に導き出される、リリベル姫とタイガさんの関係は?」


「親子はないとして異父異母を含めた兄弟姉妹か、一卵性双生児……」

「うんうん」

「……か本人」

「減点!!」

 いてぇぇぇぇ!

 ジミュコーネさんに頭をグーで殴られる。


「でも残念ながら俺、王の隠し子とかじゃないですよ?」

「そりゃそうです。本当に隠し子やリリベル姫の生き別れの兄なら、チグリガルドが真っ二つに割れます」

「なんですかその必殺技は」

「派閥争いをしている連中にしてみれば必殺技になりうるんです。非主流の『反王子派』が起死回生で息を吹き返しかねませんから」

 どうりで衛兵隊本部の連中がビビッて手を引くわけだ。


「ただし私の関心は、もう少し先にあります」


『問題2』

 姫と兄妹でないなら、タイガさんがLV16以上で導入できたのは何故か?

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