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異世界転職: 『流者はつらいよ』  作者: 息忌忠心
【王都編】Ⅱ つぼみの流者 と ジミュコーネ
13/51

夢中はつらいよ

「警備士LV3っていくらですか?」

「お客さん、さすがにそんな低LVまでは品揃えしてませんぜ」

 兄さんまた冷やかしですか、とジョブ屋の店員に少し嫌な顔をされた。


「なら花葉装飾師(フラワーデザイナー)のマスターあります?」

「残念ながら在庫がないんで入荷予約っすねー」

「お幾らGですか?」

「だいたい74万Gっすねー」


 リリベル姫から譲り受けた花葉装飾師は、それほど貴重なものだったのか。

 早く俺も騎士団に入って、姫と悪夢の卵討伐に行きたいのに。

 近づくどころかますます遠ざかっている現実を、数字換算で思い知らせれる。



 とうの昔に陽も昇りきったというのに、広場の人影は疎らだった。

 というのも、ほとんどの人が最新ニュースの掲示板を四重五重に取り巻いていたからだ。


 ニュースの中身は勇者選抜の儀の開始および、リリベル姫と親衛ガルベラ騎士団が悪夢の卵(デビル・エッグ)を討伐した、というものだった。


 ニュースからずっと離れた脇のほう、掲示板の片隅に『フィギエ賢者会からのお知らせ』が貼られていた。

『道化士さん募集中。賢者の疲れを癒し楽しませてくれる、明るく健康な若い方。高給なうえ賢者とのコネもできます』

 そこはかとなく腐った匂いがするな、賢者会。

 

「おいボウズ。変な夢見てないで、まっとうな仕事しろよ?」

「ちょっとアンタ。この子『お花畑のタイガ』よ?」

「チグリガルド王ぶっ殺すの?」

 そんな物騒なこと、言ってねぇ!!…三十六計逃げるに如かずだ。


 めばえ公園で見覚えのある二人組に、行く手を阻まれる。

 衛兵隊のスチャラカ! ってことは、こっちはブル姉か。

「お花畑君。副隊長が呼んでるから、ちょっと来てくれるかな?」

 行きませんよ。髭もじゃの顔なんか拝んでる場合じゃない。

花吹雪(フラワー・ストーム)!」

 冒険の職歴書を開き音声認識でスキルを発動、俺は公園を脱出する。


「タイガちゃ~ん、甘い甘い」

「!!!」

 公園を出た瞬間に前後から同時に腕を掴まれ、あっけなく確保された。

 目くらましの花吹雪が、露ほどにも効いていなかったのだ。

 くそっ。帰ったらみっちりスキルのトレーニングをしてやる。

 衛兵など軽く撒けるぐらいに、速くなってやる。


 ということで、しぶしぶ衛兵隊本部に逆戻り。

 ……やっぱりここ、セーブ・ポイントか何かなの?



 一日ぶりに顔を合わせた髭モジャの副隊長は、いつになく機嫌が悪そうだった。

悪夢の卵(デビル・エッグ)戦、ご苦労だったな」

「あんなの二度とゴメンですよ」

「そうだろうがちょっと観てくれ」

 副隊長は、魔術仕掛けの投影機を使ってスクリーンに映像を映し出した。



 映像の中ではマリアンナが血まみれになり、悪夢の卵の眷属と闘っていた。その足元で俺が白目を剥いて転がっている。

 昨日の恐怖が蘇り、視界を足元から黒く塗りつぶしてゆく。

 蹂躙された屈辱と踏みつける者への怒りが、ざわざわと鳥肌を立てる。


 映像は俺が謎の剣を振り回し、ウルフニードルを細切れにした場面で終わった。 

「タイガ、ちょっと職歴書を見せてくれ」

 俺は鞄から冒険の職歴書を出し副隊長に渡した。


「受け渡しの履歴ページが文字化けしているのはどういうワケだ。何か犯罪にでも手を出してるんじゃないだろうなお前さん?」

「何回も捕まえておいてよく言いますよ。今度は何罪の容疑ですか?」

「ん?今やってるのは取り調べじゃないし、職歴書は俺が見てみたかっただけだ」

 えっ?

「それって職歴書を見せる必要、あったんですか?」

「完全に任意だったろ。ちゃんと『見せてくれ』ってお願いしたぞ?」

「汚ないっすよ! 無理やり連行されたら取り調べだと思うでしょ普通!」


「任意同行だよね~タイガちゃん?」

「ちゃんと『副隊長が呼んでるから来てくれない?』ってお願いしたよね?」

 ……。

 いろいろ予想がついたのか副隊長は舌を打ち、俺に職歴書を返してくる。


「率直に聞こう。その花葉装飾師(フラワー・デザイナー)、リリベル姫から貰ったって噂は本当か?」

「早くハント探しに戻りたいので率直に言いますが、本当です」

 副隊長の口元がもじゃ髭の奥で歪むのが薄っすらと見えた。


「お前、何者だ?」


 やはり今日は機嫌が悪いらしい。

 あるいは何か、都合が悪いのだ。

「姫とはどういう関係なんだ?って聞いてるんだよ」

 副隊長の懐刀ブル姉とスチャラカが連携し、視線の十字砲火を浴びせてきた。


「姫は俺の生きる希望です」

「副隊長~。こんな危ない奴に関わるの止めましょうよ~」

「そうだな。世の中には知らない方がいい事もあるし、ここらで手打ちにしよう」


 簡単に説明するなら今回の呼出しは、記録の中のある出来事の確認だった。

 悪夢の卵・眷属戦で俺が後ろから撃たれた謎の円盤。

 それを後陣から放つ衛兵の姿が映り込んでしまっていたのだ。


 問答は終わり、何人かの衛兵を画像で見せられた。

「あぁこの人。前日にスカート捲りの件でちょっと揉めました」

 俺の目の前に、硬貨の詰まった袋がドシャッと置かれた。

「見舞金だ」

「口止め料の間違いでしょう?」

「お前、こいつと揉めた時にオレの名前出しただろう?」

 あ。すっかり忘れていた。


「自業自得だ。命があっただけ得したと思って、黙って受け取れ」

「……俺、何かヤバイ人間関係に巻き込まれましたか?」

「それはこっちの台詞だ」


 衛兵団からの見舞い金、巻き込んだ貴族からの慰謝料、悪夢の卵(デビル・エッグ)討伐のささやかな貢献功労賞。三つを合わせると、副隊長への借金を差し引いても30万G以上が手元に残った。

「ほいほい人にやったり、無駄遣いするなよ、お花畑」

「余計なお世話です」


 思わぬ形で大金を手にしたのだが、大喜びという気分にはなれなかった。

 仮にも死にかけたのだし、何よりマリアンナの奮闘を記録映像で見てしまったからだ。

 俺は彼女の分も慰謝料をと約束を取りつけ、衛兵隊本部をあとにした。



 夢の手助けができなくともせめて、お礼を言いたかった。

 辿り着いた彼女の家は昼下がりだというのに、カーテンを閉め切ったままだった。


 彼女に再会する(チャンス)は、まだまだ熟していなかった。

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