Ⅱ-1: 野宿はつらいよ
王都に戻るまでの道中、傷ついた華奢なマリアンナに肩を貸して歩いた。
彼女は『本当の戦いはこれからだよ』と熱っぽい青息を吐いた。家に帰れば、家名ばかりを重んじる親との戦いが彼女を待ち構えているからだ。
吐息と覇気を肩で受け止めながら「振付士でデビューする時には、一番に招待してくれよ」と約束したのに。
半日かけて辿り着いた彼女の邸宅で、ねぎらいの言葉は貰えなかった。
父親は傷だらけのマリアンナを受けると、勢いよく扉を閉め俺を拒絶した。
「ちょっと待って下さい! お話しがあります!」
メイドがカーテンを次々と閉め、見える世界を次々とシメ出した。
ガチャン。
手入れの行き届いたお屋敷の前庭で、冷たい鍵音が熱の余韻を断ち切った。
家柄だなんてものを背負わされ、行きたい道を選べないなんて。
親の期待や誇りのために生きてるわけじゃないはずなのに。
……ジョブの一つや二つ、好きに選ばせろってんだ!
俺は夕焼け空のめばえ公園で汚れた服を洗い、万年樹の石碑の前に立ち尽くしていた。
『あきらめなければ、再び芽は生えいずる』
石碑に刺さる剣の飾りが、夕陽を浴びて墓標のように見えた。
姫から貰ったお守りのメダルが、握った拳の中で震えていた。
……家柄とか王家とか、どっちもこっちもそんな壁ばっかりだ。
だがしかし、だ。
逆にそれぐらいで諦めるなら、その程度の想いでしかないんじゃないのか?
相手が姫だから諦める?
それじゃ彼女を肩書でしか見ていないのと同じじゃねぇか。
「お兄ちゃーん、どうしたのー?」
気がつくと、そばかすの女の子が俺の後ろに立っていた。
少し鼻を垂らしているが5~6歳くらいだろうか。
手に余るような大きな籠に、色とりどりの花を抱えた売り子さんだ。
「手がブルブルしてるよ?寒いのー?」
「あぁうん。そこで服を洗ったんでなぁ」
「風邪ひく前にお家に帰ったほうがいいよー」
「そっちこそまだ帰らないのか?」
「うーん。メグは、あと、もうちょっと。そうだお兄さん、おひとつ買っていただけませんか?」
ちびっ子が急に丁寧な言葉遣いをして、俺の目をじぃぃいいいっ、と見つめてくる。
…………困った。
「実は兄ちゃんな、お金もってないんだ」
女の子のとてもがっかりした表情に胸が痛む。
可愛そう……という同情よりも、花の一輪も買ってあげられない己の情けなさに胸が痛む。
「よし、かわりにイイ物をあげよう」
「なになに?すごくいいものー?」
「じゃーん!これは『天使のお守り』だ!」
女の子はつぶらな瞳をまん丸に見開いて驚いた。
「ほんとに貰っていいの!?」
そう聞かれて姫の顔を思い出したが、思い出したことでむしろ微かな躊躇いは跡形もなく消え去った。
「おう。お互いファイトだ」
俺はマスケット帽の少女ことリリベル姫から貰ったメダルを握らせ、適当な仕草で祈った。
「うん! メグがんばるー!」
メグは籠に入っている花から萎れていない一輪を選び、俺に譲ってくれた。
「お花くれたらお仕事が困るだろ?」
「いいの、いいの。だからお兄ちゃんも元気だしてねー!」
「おっ、おうよ!」
「あと将来、結婚ねーーー」
おっ、おう?
将来っていつだよ、と俺は一日の鬱憤も忘れて思わず笑っていた。
(注:三日後です)
今日も収穫が0Gだったので、マッシュボアの干し肉をかじりながら水路脇の小屋の軒下で夜を迎える。
そして今夜も歴書がブルブルッと震える。
『トピックス:浮流士のレベルが3に上がりました』
なんなんだよこの『浮流士』ってのは?とボヤキながらも、LV6の『防寒衣』をちょっとだけ夢見ながら、一輪の花を胸に眠った。
*
目を覚ますと水路には女性や中年の男たちが集まっていた。
どうやらここは洗濯物の洗い場だったようだ。チラチラと、そして何度かジロジロと眺められる。
しまった。
寝ている間に開いた傷から、血が滲みだしている。
平和な日常を過ごす王都に血だらけの男が現れたら、そりゃこうなるわな。
「……癒水如雨露」
俺は皆に混ざって、眷属戦で汚れた服を洗った。
……へっくしん。パンツ一丁からの再スタートだ。
服が乾くのを待つ間、俺は冒険の歴書を開いて眺めた。
〇就業ジョブ一覧 (CAP999)
花葉装飾師 LV24
狩猟士 LV5
警備士 LV3
予備職
浮流士 LV3(↑1)
皿洗い士 LV1
保育士 LV1(new)
洗濯士 LV1(new)
『トピックス:保育士LV1を獲得しました』
『トピックス:洗濯士LV1を獲得しました』
リリベル姫から受領したLV24の花葉装飾士が断トツで、あとはドングリの背比べ。
この先どのジョブを伸ばしたら良いかは分からないが、とりあえず全職をキャパに突っ込んでおけば問題ないだろう。なにせ就業キャパは999もある。
まずはハント受注に向けて、俺は花葉装飾師のスキルを特訓した。
疲れたら活力発奮剤を飲み干し、草や花を具象化させ続ける。
具象化する物の大きさ、カタチ、持続時間は、『ある程度』俺のイメージに影響を受ける。しかし、ある程度の範囲は超えられない。
例えばリリベル姫をどれだけ強くイメージしても、姫は出てこない。
美しい草花が具象化されるだけだ。
これは何度も試して駄目だったから、間違いない。
それでも姫との歴書直結の心地を思い出しながら続けると、一つ具象化させるごとに、強度と持続時間が伸びてゆく。
手にした歴書がブルンと震える。
『花葉装飾師のEXスキル<百花繚乱>を獲得しました』
試しに『百花繚乱』を使ってみたら、洗い場が花だらけになって怒られた。
へっくしゅん。
鞄の中で歴書もブルブル震えている。
服も乾いたことだし、ジョブ屋GJに行ってみよう。
警備士LV3とかが、売れるといいのだが……。




