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旅は道連れ 異世は情け





『旅は道連れ、世は情け』と(つぶや)けば足取りが軽くなる。

 世とは言っても、世間ではなく異世界なのだけれども。


「タイガさん、ちょっとだけ休憩をお願いしていいですか?」

「気が利かずにすみません。何か飲み物、出しますね」


 香具士の商品を詰め込んだ大型リュックを降ろし、彼女を切り株に腰かけさせた。

 『冒険の職歴書』から具象化した『葉緑苦汁』を手渡すと、彼女は乾いた薄い唇をペロリと舐める。

 沈みつつある夕陽を測りながら、俺はグロッテの森を迂回する道を『望遠』スキルで哨戒した。賊の気配はないが、森の鬱蒼が夜の気配を帯び始めている。


「ふぅ……相変わらず苦いな、この汁は」

「でも、そこが好きって方も少なくないそうですよ?」

 


 流転のタイガこと俺は今『流者』の王道から外れ、()()()()()と旅をしている。

 使命は一つ。彼女の傷を癒し、咲きこぼれる花のような笑顔を取り戻すこと。


 それは魔王討伐より騎士団入りより、俺にとっては栄えある道だ。



「私、タイガさんと一緒で良かったです」

「おほめにあずかり光栄です。なんなら空中から花でもお出ししましょうか?」

「面白い人。チグリ古話の『地獄にも道連れ』とは、まさにこのことですね」


 ……道連れって、そういう意味じゃないよな?

 いや。チグリ古話とやらを読んだことは無いから、案外それで合っているのかも知れない。


 確かにジョブが浮流士(フローター)LV1以外は素寒貧(すかんぴん)の彼女との旅は、骨が折れる。

 けれども道連れと一緒なら、たとえ火の中でも水の中、千里の道でもまだ歩き足りない。

 古話を記した誰かもそう感じて筆を取ったのだろうと、都合よく解釈して苦汁を飲み干す。



 ホッと一息ついたところで、黄昏(たそがれ)どきのグロッテの森から夜鳥の鳴き声が聞こえ始めた。

 できることなら夜になる前に、森沿いの道を抜けてしまいたいのだが。。。


「西の方はどんな所だったかしら。私、小さい頃に行ったきりで……」

「俺もよく知りませんが大丈夫。どんな所だって住めば都です」


 瞬間、彼女の瞳が斜陽を映して(うる)み『めそっ』としてしまった。

 あぁあああ、ぜんぜん大丈夫じゃない禁句が二つも入っていた。都落ちして住む所もなくなった彼女に何を言ってるんだ俺は。

 彼女が涙を一滴こぼすだけで、胸の奥に暴風雨が吹き荒れるような想いがするというのに。


「ほら見てタイガさん、コロポックルよ」


 なんだよ立ち直り早いな、心配して損し……


「ぇ。それ ()()()()!!!!!」


 しかもゴブリン・グリガル、闇夜に紛れて集団で女子をさらう凶悪種だ。

 木々の間から躍り出たゴブリン・グリガルは、ナイフを振りかざしながら妖しく目を光らせていた。

 ……魅了眼か!?

 『眼力無効』をアクティブにしてから迎撃態勢をとるのでは、間に合いそうにない。


 俺は『魅了眼』に対抗するため、『ドナの手(ゴッド・ハンド)』で冒険の職歴書を開き、耐性つきの武具を具象化した。


眼力耐性の空間棒スペーシャルポール・オブ・アイガード!」


 彼女の腕を引いてゴブリンの魅了眼からそらしつつ、☆☆☆☆☆(シナジー+5)職人武具(マスター・ウェポン)でかろうじて短い足を払った。

 スパァアンと小気味よい音がして、ゴブリン・グリガルが新緑の草むらに引っくり返る。


 ギギィグシャァァ

 もんどり打って叩きつけられた仲間の奇声を聞きつけ、暮れかけた木々の隙間から遠巻く影が幾つも顔を出した。

 まずい、仲間がいたか。おまけにゴブリン・ゴブラナイまで連れている。あいつら一丁前に、ドナの手じみた投擲スキルを使ってくるからな。


 言ってるそばから鉱石採掘用のハンマーが投げられ、荷物をかすめて地面にめり込んだ。

 コブラナイ達は()()()()()()()()が今晩の獲物を見つけたかのように、舌をなめずり飛び跳ねている。

 ……ここは逃げるが勝ちか。


「走りますから、俺のリュックを背負って下さい!」

「えっ!? こんな重いのをですか!?」

「いいから早く!」


 リュックを背負った彼女を俺が背負い、『監視剥がし(マーク・リムーバー)★★★★』と『虎ばさみレッグ・ホールド・トラップ』を併用し、全力疾走で二人旅を再開する。



 森の木漏れ日に染まる西の村への道を、トラップに仲間をやられて怒り狂った空腹のゴブリンを大量に引き連れ、俺はひた走った。

 背後から相変わらずハンマーや石が飛んでくるので、しがみつく彼女の胸や密着した手足の感触を楽しんでいる余裕もない。


「タイガさん、早すぎます!私、もう落ちそう!」

「首、グビがジマル……」

「きゃあぁぁあ!」


 悲鳴なのか歓声なのか分からぬ彼女の声に耳をくすぐられながら、俺は駆け抜けてきた道のむこうに霞む『王都』を振り返った。

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