小ビンの中の夢(ショートショート21)
夕暮れどき。
オレは実家近くの浜辺を散歩していた。
先日、それまで勤めていた会社を辞め、アパートを引き払って実家に帰ってきていたのだが……。
この日。
子供のころに遊んだ砂浜がなつかしくて、ひさしぶりに海へ来てみたのである。
あのころはなにも悩まずにすんだ。
たくさんの夢があった。
五、六歳であろうか、男の子がオレのもとにかけ寄ってきた。
「おじさん、これ、海に投げて」
男の子がガラスの小ビンをさし出す。
中には折りたたまれた白い紙が入っており、コルクの栓がしてあった。
白い紙は手紙なのだろう。
「遠くまで飛ばしてほしいの。ボクがやっても、すぐに波でもどされちゃって」
「まかせとけ」
オレは沖に向かって力いっぱい投げた。
小ビンは三十メートルほど飛んだ。
「やったあー」
男の子が歓声をあげてよろこぶ。
「もう、もどってこないぞ」
「北極に着くといいんだけど」
「ずいぶん遠くだな」
「ボクね、シロクマに読んでもらいたいんだ。ありがとう、おじさん」
男の子が手を振りふり帰ってゆく。
小ビンはあの子の夢を乗せて、どこまでも続く海原を漂い、いつか夢の島に流れ着くのだろう。
ひととき。
オレは子供のころに帰りたいと思った。
そして帰り。
小ビンを投げた場所を通りかかると、残念なことに小ビンは砂浜にあった。またしても、返す波で打ち上げられてしまったようだ。
――北極まで夢を運んでいけよ。
小ビンを拾って沖に投げようとして、ふと中にある手紙のことが気になった。
――シロクマに届けたい夢って?
あの子の夢が気になった。
悪いとは思ったが、オレはコルクの栓を抜いて手紙を取り出した。
手紙を開く。
オレはいっぺんに現実に引きもどされた。
目まいがしてくる。
なんと……。
手紙にはこう書かれてあったのだ。
ウンコ。
そして。
バックにはごていねいにも、トグロを巻いた立派なウンコの絵があった。