最終話:溶ける、流れる
お互いバスタオルを一枚巻いただけの姿でベッドに横になった。
一日、力仕事をしてきてアルコールも入っている翔は眠そうだった...ほんとに眠いのかな?アタシとここでこうしてるけど、もしかしてやっぱり躊躇してる?
『今晩、泊まる?』
聞いてみた。
『いや、帰る』
『そうなんだ?』
『うん。』
おしゃべりが途切れて真っ直ぐにアタシを見た翔がキスをしてきた。翔が横になったままアタシを上に引き寄せた。その体勢のまま翔に倒れこんだ。
タオルが少しずれてアタシの肩から背中、腰を確認するように翔の手が動く、抱き締められる。
アタシが翔におおいかぶさったまま布団に潜った。翔のを目をつぶったままで手で確認をしてそこにくちづけた。そのまま口にそっと含み彼とは形も違うであろう翔を包み込むように。
翔はうなじにキスした時のような吐息は漏らさない。翔の顔まで這い上がってきたアタシにまたキスをして今度はアタシが下になった。
少し斜めの格好で翔の指がアタシを責める。翔の指で逝かされそうになったアタシの声が漏れた。
翔が下になりアタシが上に...。
...ゆっくりとでも確実にアタシに添えた翔がそのまま入ってきた。腰を落とし深く繋がり翔の肩を掴む。
起き上がった翔が段々にスピードを増す。
もう、アタシは躊躇なく一番、深い女の声を出していた。一旦ふたりの動きが止まり、アタシが主導権をもった。
自分の一番深い甘い部分はもう、アタシは知っている。
でもそれを今日、はじめて体を合わせた翔に伝えていいものか。
迷ったアタシはそれをするのをやめておく事にした。
翔のペースに合わせ弾むアタシがすこしづつ、でも確実に集中してくるのを感じた、とほとんど一緒に翔が声を漏らした、
『あ、俺もう...』
それを聞いたアタシはそのまま逝こうと思った。
その瞬間、翔がアタシの腰と自分の腰を引き離した。
アタシは翔の体の向かって右側に体を倒した。
タオルかティッシュで拭おうとしたアタシに『布団でふいちゃった!』『サイテー!』
二人で笑った。
タオルを体に巻き付けベッドの端に座ってアタシはタバコに火をつけた、翔も隣にきて火をつけようとしながらキスをしてくれた。
翔とのセックスはアタシの『ご飯を食べる』感覚に近いくらいやっぱりぴったりだった。服を着てホテルをでて夕方アタシの車を停めた駐車場まで送ってもらった。車から降りるときキスをして、
『家についたらメールしてね、おやすみ』といって手を振った。
次の約束はしなかった。それでいいと思った。
部屋に帰ると今日は出掛けなかった彼がダブルベッドでひとり寝息をたてていた。
携帯がぶるぶるっと震えた。
『いま家ついた、きょうは色々ご馳走さまでした!』
ちょっと笑いながらアタシも思った、『ご馳走さま!』
その夜は翔の匂いに抱き締められながらアタシを抱かない彼の隣で眠った。
その後、仕事で顔を合わせることはあったけど次の約束が決まらないまま過ぎていった。
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...『今年の冬は見たいものがあるんだ』
『なに?』
アタシの顔をみないで隣に座ってる彼が返事した。
『今年は寒いからきっと全部凍ると思うんだ、その滝を見に行きたい。』
一緒に暮らすアタシを抱き締めなくなった彼にいった。
『いいよ、いこう。きっと凍るよ今年は寒いから』
今のアタシと彼のように凍るだろうか?
そして春にはまた解けて流れ落ちる。
そこに凍って一冬とどまった滝は新しく湧きでた水によって溶かされ押し出され流れ落ちるだろう。
凍った滝と同じ、
そこにとどまって、
また解けて流れはじめる。
アタシのココロと同じように...。




