第2話:認識(意識)
翔をはじめて認識したのは3か月前。短い秋が終わる頃。
事務所のデスクで仕事をしてたアタシの視界のはじっこに床に無造作においたビールサージャーを興味深げにしゃがみこんで見てるコがいた。
『どしたの?』
『これ、なんすか?』『あぁ、それサージャーだよ、ビールの。さっき古いやつを取り外してきたの』
そう答えてまたデスクワークを続ける。
...まだいじくってる
その時、うちでたまに働いてるコだって知った。
暫くしていつものように昼出勤したアタシに思い出したようにみんなからオヤジ扱いされてる男性社員が言った。『あ!そだ!あの現場忘れた書類届けないといけなかったんだ』
ってアンタ、車の免許持ってないじゃん、
アタシがいくってことね。
パソコンで調べた、
...あ、あのコ今日、行ってるじゃん。
携帯に電話する。
...『はい』...低い声...この声、好きだな。そう思いながら言った。
『お疲れ様、香椎だけど今日、確認書忘れてったでしょ?』
『あ、そかも』
『これから持ってくから携帯かけたら入り口まで出てきて』
『わかった』
営業車で事務所をでた。...天気いいし!ちょうど息抜きにはいいや!楽しくなった、別にあのコに会えるからじゃなかった、その時は。
現場について翔の携帯にかけた。
『どこすか?』
『ロビーの自販機の前らへんにいるから降りてきて』
すぐにきた、書類を渡したけど立ち去らない。
『ど?今日は楽?』
『ほとんど俺らがやってもう終わりっすよ』...得意気に言った。『がんばったじゃん!』
『香椎さんってこっちの人?』
『ん?違うよ、』
地元の名前をいったら『知ってる、前に仕事でそっちのほういったことある』
ちょっとおしゃべりして『ほら、もう戻りな』『うん』
名残惜しそうに翔がいった。
『じゃね、あとちょっとがんばって!』
手を振って別れた。
ロビーにアタシのブーツの音が響いてる。
...ジュースでも買ってあげればよかったかな?
それから事務所で何回か顔を合わせた。
『香椎さんって43なの?』
別に隠してる訳じゃないけどその後に続く言葉に慣れっこになっている。
『わけぇな〜信じらんねぇ』そ、だよ。
どういう訳かいつも10以上若く見られる。
『アンタいくつだっけ?』
『ハタチ』
『お母さんっていくつ?』
『43』
『同い年じゃん、ま、生めなくもないな』
『でも母ちゃんと全然ちげ〜よ!』
『どゆとこが?』
『どこもかしこも!全部!』
それから時々、事務所で顔合わせたらおしゃべりした。
時には翔の仲間の同じくハタチのコらだけに話し掛けて翔には全く声を掛けなかったりもした。
ちらとも目を合わせなかったりもした。
アタシに声を掛けられず他のコとだけ楽しそうに話すアタシをちらちら、ふてくされた顔で見る翔を視界のはじっこに感じた。
12月に入ってかなり慌ただしくなってきて仕事の合間にアタシは髪を切った。
事務所に仕事を終えた人達がごちゃごちゃいてその中に翔もいた。次の仕事の説明をするアタシをじっと見て
『今日、なんか違くねぇ?...あ!髪切った?』嬉しかった、彼なんて髪をカットしてこようがカラーしてこようが今やなんにも言わない。いつだったかなじったら『なんにも言わないってことは悪くないってことじゃん』
だと。
...は〜、ばーか。
そうしたもんじゃない、女はいつだって気にしてもらいたい生き物なんだよ。
...『うん!切ったよ。前髪ちょっとつくった。可愛くなった?』
『うん』といって翔がちょっと上目遣いの目を逸らしながら顔を赤くした。
...やばぃ、やっぱこの目も好きだな。




