転生、そして現状確認
「ーーーんぅ。」
頬に風が当たる感覚で目が覚める。
そこは俺がいつも目にしている研究棟の真っ白な天井ーーではなく、鬱蒼と生い茂る木々に囲まれている場所の様の様だーーーって、
「ハァ!?何で?何でこんな外にいるんだ?俺?」
意味が分からない。
昨日の事を思い出してみる。
昨日はいつもの様に里依紗と実験体よろしく電極やら何やらをたくさんつけられたまま何時間も過ごした後、「エタニティオンライン」の中での実験をして、そんでもってーーーあれ?
その後ログアウトして自分の部屋に戻って寝た記憶がない。
「エタニティオンライン」内で何かあったのか?
そういや里依紗が俺に何か言ってたっけ?
って里依紗だ!俺だけがこんな所にいるわけがない。あいつとはいつも一緒なんだ。
立ち上がって周りに里依紗がいるか確認する。
だが里依紗らしき人影すらなく俺は焦る。
「里依紗ぁぁ!」
俺の叫びは森の中に虚しく響くだけだった。
ふとそこで、自分に対して違和感を感じた。
俺こんなに声高かったか?
どちらかといえば高いほうだったろうがここまではっきりとソプラノじゃあなかったはず。
俺は恐る恐る喉を触る。
「ーーーあらら?喉仏がないような気がするなぁー。」
それにさっきからチラチラと俺の視界に映る黒くてサラサラしてるのは髪の毛、だよな?
俺は髪はこんなに長くないしツインテにしている訳ないし。
ツインテといえば「エタニティオンライン」での俺のPCは黒髪でツインテの女の子なんだが。
あっ、そっか!
まだ俺は「エタニティオンライン」の中なのか!
なら今の状況がわかるかもしれない。
俺はここが「エタニティオンライン」の中だと仮定するなら絶対にあるであろう機能を呼び出す。
それは俗に言うメニューと呼ばれるものであり、RPG系のゲームをやったことがある人なら馴染み深いもののはずだ。
メニューの呼び出しは成功。
ステータスやアイテムボックス等の項目も発見した。
しかし、ログアウトやチャット、GMコール等のなくてはならない機能は軒並み消失している。
この時点でおかしい。
これは自分の夢の中なのだろうか?
それにしては視界に映る情報がリアルすぎる。
足が踏みしている地面や、頬に当たる風…。
あまりにもリアルだ。
さすがにここまでのリアルさを「エタニティオンライン」は再現していない。
とするとだ、これは自分の夢でなく、「エタニティオンライン」でもない、しかし、自分が「エタニティオンライン」で使用しているPCのサクラになっていることから少なくとも今の情報だけで判断するならばーーー、
「ここは「エタニティオンライン」に似ているが違う世界、少なくとも地球ではない。」
今の情報をまとめるために有した時間は30秒。
普通の人間ならここまで冷静に考えることは出来ないだろう。
しかし、サクラは普通ではない。
いや、サクラだけでなく、実の妹である里依紗ーーーミーシャも違う。
サクラはこの世界が「エタニティオンライン」に似ている世界ならば、このゲームでは日常茶飯事的に扱われている魔法も使えるはずと考える。
「「チェイス」、対象はミーシャ。」
チェイスは契約の印(要はフレンド)を対象にして発動する系統外魔法。
フレンドの位置を知らせてくれる魔法である。(フレンドの頃目は消えていない)
視界の情報にミーシャの位置情報も追加される。
それは赤い矢印として形をなした。
サクラは赤い矢印に向けて走り出す。
ここでサクラは自分の体に違和感を感じ始めた。
とはいえ女になっている時点で違和感バリバリだが。
…そうではなく、体がとてつもなく軽く、まだこの体は本気を出していない、と漠然とした感覚を違和感という形で感じたのである。
であるならばーーー、
サクラは走る速度を上げる。
それも「エタニティオンライン」でのいつもの様に。
ミーシャがいると思われる地点に着くまでに有した時間は約三分。
森から開けた平地にでた。
そこで目にしたものは、
力なく倒れている白い鱗で覆われている、「エタニティオンライン」では古龍として知られている白龍をかばって立っている、我が愛しの妹が得物である刃が氷でできているバスタードソードを持って数十人の人間達と対立している場面だった。