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サイケデリック新書

 月曜日

 今日も私の給食は運ばれてこないのでその時間は散歩をすることにした

 校庭の端っこをお昼の放送を聞きながら歩くのは楽しいけれど私は少し寂しくなる

 校庭の東側に塀があってその先に見えるいつもの景色が手の届かないところにあって自分の限界を認識させられる

 でもそれは私にとっては必要な作業で自分の限界を認識することは自分自身を認識することでもある

 今日の放送はよく分からない音楽が流れていてきっと何かのドラマにでも使われて人気の曲なんだろうけれど私はよく知らない

 それを聴いても何も感じないけれど私の好きな曲を流してくれなんて言えるはずもないから私はただただ校庭を歩き続ける


 火曜日

 私が席を借りていた子が戻ってきた

 入院でもしていたのだろうか皆が祝福しているのが印象的だ

 私はその席を手放して教室の後ろの棚に座ってみたりベランダ側の窓に腰かけてみたりする

 環境は変わったけれど違和感も嫌悪感もなくその日常に戻れることができた

 その子がいなくなったのはいつだったのか思い出せない


 水曜日

 昼休みに図書館に行く

 月に何冊か新しい本も入ってくるのだけれど私はそれに興味がない

 私が気になっているのはハムレットと死に至る病

 ハムレットは昔から名前は知っているけど読んだことがなくて死に至る病は私の心をくすぐる題名だ

 でも今日は定義集という本を見つけてとても珍しいことに興味を感じて題名を覚えることができた

 いつかきっと読みたい


 木曜日

 私の知っている曲が流れている

 これは父の部屋で聴いた  スキーの春の祭典だ

 ううん名前が思い出せない

 でもとても良い曲だと思う

 父の大好きな曲で最初は良さが分からなかったけれど父が熱心に曲と解説を聴かせてくれたので私にも良さが分かるようになった

 誰がこの曲を流しているのだろう先生かな生徒かなでもこの曲は長いから途中までで終わってしまうだろう

 私は校庭まで駆けて行って広い場所で夏の青空に音が抜けていくのを楽しんだ


 土曜日

 雨が降っているので校庭に出た

 水たまりができていて次々に生まれる波紋が面白くてまるで何かを暗示されているみたいに感じる

 いつかどこかで見た紫陽花の咲き並ぶ風景を思い出した

 父のカメラで弟が写真に収めていたはずだけれどもうその写真を見ることはできない

 少し悲しいような気がしたけれど雨が代わりに泣いてくれたので嬉しかった


 金曜日

 衣替えの季節がきた

 私は年に二度の衣替えがとても好きでずっと楽しみにしていた多分

 特に今回の衣替えは私と同じ制服に切り替わるので特に嬉しいのだ特に

 だって私は冬の間の服しか持っていなくて私だけが長袖を着ているのは少し恥ずかしいし阻害されているように感じてしまう

 皆が同じ制服を着ていると私も同じ時間を生きているような気分になれる

 今日は幸せな一日だ


 土曜日

 部活の生徒しかいない学校だけれど色んな音で溢れている

 管楽器の音色やボールを打ち返すバットの乾いた音やバスケットシューズのあのキュッキュッという音

 私は校庭を歩く


 日曜日

 生徒は誰もいない

 図書館も開いてない

 だから北棟の四階に行って赤塔を見ることにしたがあそこにはたくさんの思い出がつまっている

 私の生活の風景には必ず赤塔が存在していて家族でそこに何度も足を運んで私の中では特別な場所なのだ

 もう一度あそこに行ってみたいけれどそれができないので悲しくなった

 悲しくなったので四階から一階まで飛び降りてみたけど不思議なのは飛び降りてみても何も感じないこと

 前に飛び降りたときの感覚を覚えていないせいだろう


 日曜日

 金網を上って夜のプールへ

 私のことなんて誰にも見えてないから本当はいつだって入れるのだけれど

 水着なんて持ってないから素肌で泳がなきゃいけない見えていなくてもそれは恥ずかしい

 だから月の隠れた夜にプールで泳ぐのだ

 潜ろうと思っても潜れないから仰向けになってプカプカと浮かぶ

 桜の花びらを散らしてその中を漂ってみたいけれど春のプールは汚くて冷たいから入りたくない

 徒然な時間に私は思う

 生まれてきたときも私は水の中を漂っていて今でも同じようにしている

 涙が出そうになったけれど何も出てこないそれが一番悲しいのだ


 火曜日

 誰かが入院したらしい席が一つずっと空白になっている

 本当は入院したかどうかも分からないのだけれど不登校になったのだとは考えたくない

 先生が理由を説明していたような気もするけれど私はよく覚えていないし本当に説明があったかどうかも分からない

 とにかくずっと席が空いてるようなので私はその席を借りることにして教室の中で居場所ができたような気がする

 どんな子が座っていたのか覚えてないけれど私はその子が戻ってきたときにはこの席を手放すことになるだろう

 転校したのかなでもこの時期の三年生が転校したのだとしたらよほど重大な理由があったのだろう

 席を借りたけれど当然のように給食は運ばれてこない


 月曜日

 新年度なので体力測定をしている

 私は運動が苦手だったので体育が嫌いだったけれど今ではそれすら懐かしい

 皆が走るのに合わせて私も走ってみる

 やっぱり一番遅いのだけれど順位はつかないから少し心が慰められてそしてまた悲しくなった

 平然と歩いたり走ったりしているけれど私には足がないのだ


  曜日

 白い花びらの一本桜が綺麗でその先に沈む夕日もまた美しくてその二つを一度に見られるこの場所が大好きだ

 本当の本当に死んだらこの一本桜に生まれ変われるかもしれないけれど残念ながら私は生まれ変わりを信じていない

 私は真実であることを否定できず現実だと認めることもできない妄想をする

 一本桜の下に埋まっている私の身体がこの美しい風景を作りだしているのだとすればどんなに素晴らしいことだろう

 そしてそんな風景を好きになってくれる人がいるとすればどんなに素晴らしいだろう

 新しい春が巡ってくれば私はそんな人に出会えるだろうか

 きっと出会うだろう私が私でなくなるときがくるだろう

 新しい春がいつまでも巡ってくるのであれば私はそれでいい

ここに告白しますが、元々は劇中劇の映画作品として書き始めたものが、こうして独立した小説になりました。

舞台が桜丘中学の中に限定されていること、同じシンボルが何度も登場することなどは、その名残りです。今になってみれば、そういう部分にあまり固執する必要もなかったのかなとも思いますが。

私の好きな小説、映画、音楽、写真……、色々なところの色々なモチーフに支配された作品だと思います。感の良い方はお気づきでしょう。

もっと質の良いものを書かなければならないのでしょうが、今の私にはこれが限界です。次に向けて頑張ります。

長くなってしまいましたが、読んで下さってありがとうございました。

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