06.「眠れる獅子」
教会の敷居を跨いだ俺は、その後サフィアが書斎として使う部屋へと通され、本棚の蔵書の背表紙を適当に眺めていた。
教会の主人は現在、紅茶の準備を整えている真っ最中だ。
簡素な本棚に並んでいる書籍は、聖ライアリス教の聖書に関わる神話代の史書に始まり、宗教劇の戯曲集やら高名な詩人の著作といった文化的なものが多い。
「修行時代から趣味はお変わりないようで」
本の並び、整頓の仕方、上中下段の使い方などから持ち主の好みや感性の傾向が見て取れる。
かつて共に修行した同期の変わらない文化人ぶりに、俺は一人口元を緩ませた。
「すまない。待たせた」
大柄な体付きに似合わないティーカートを押しながら、サフィアが書斎に入って来る。
「こちらこそ、いつも突然で悪いね」
「いや、それはいい」
俺は書斎の窓際のテーブルの席に付き、彼が丁寧に紅茶を淹れる間、窓の外に目をやった。
窓から一望できる庭では、片膝抱きにキュア・ベリーの木に寄りかかったウィルが、花冠をせっせと作る少女たちに囲まれながら、空を飛びたいという者には空を飛ばせ、棒を振り回して取っ組み合いをする男の子らには剣術のコツをあれこれとアドバイスするという、スーパー保育士振りを発揮して孤児らを楽しませている。
そうこうしているうちに紅茶を楽しむ段取りが全て整い、サフィアがようやく正面の席についた。
カップを取って紅茶を口に運ぶやいなや、俺は苦笑した。
「……不味かったか?」
サフィアが不安気な面持ちになって俺を見る。
「まさかな」
カップをしっかりと温め葉をジャストタイムで蒸らし、わざわざリディア郊外で汲んできた名水をつかっているクオリティの高い紅茶だった。
寂れた教会で味わうには、贅沢過ぎる味に苦笑が漏れたのだ。
「相変わらず。結構なお手前で」
「そうか、いや、どうも……」
そんな風に礼を言いながらも、サフィアの視線は俺の方を見ていない。
じっとテーブルの中央に目を落としている。
このサフィア・ウォードと言う体の大きな僧侶は、人を前にして良くこんな調子で考え込む。
何か話題を振っても、
「最近、教会の運営はどうだ?」
「んん……大して変わりはない」
反応が悪く、黙りこくってしまう癖があるため、人に「鈍い」と思われがちだ。
しかし、それは大きな間違いで、厳しくも優しい面立ちの彼には、人並み外れた頭脳が備わっている。
反応の鈍くなった彼の思考を邪魔せず時間を与えると、
「聞きたいことというのは、大聖堂のことか」
いきなりズドンとこちらの要件を言い当てて来たりする。
これは、世の現状、俺の性格、ありとあらゆる情報から彼の頭脳が算出した裏付けある「予言」だ。
下町のボロ教会の神父の立場に甘んじている彼は、その実、眠れる獅子なのである。
遊び人の犬から見れば、と言う話だが。
「俺は大聖堂に顔を出さなくなって久しい。知りたいのは大聖堂と監察神官の現状だ」
「顔を出してない……? 巡礼神官としての情勢報告書は上げていないのか?」
「出した試しもない」
俺は小さく首を竦めて返した。
サフィアのように黒い神父服を着る僧侶を教区神官と言う。
主な勤めは教区に置ける教会運営で、俗に「神父」と呼ばれる聖職者がこれに当たる。
俺のように灰色の神父服を身につける巡礼神官は旅の修行僧なわけだが、冒険者と同じ立場で大陸を流浪する傍らで、各国各地の情勢を報告書にまとめて大聖堂に提出する役目を負っている。
情報収拾方と言えば聞こえばいいが、ほぼただの使いっパシリだ。
「役に立たない者は足を使え」というわけだ。
戒律が厳しい教の中でも比較的自由な役どころの反面、大聖堂からの援助や保証はほぼ皆無で、日々厳しいお財布事情と戦う事になる。
情勢報告書を提出すれば雀の涙ほどの報酬を貰えないこともないが、査定やら手続きやらが面倒なので俺は一度も上げた事がない。
「お前……定期報告書も上げてなかったのか? 流石にそれは不味いだろ? 考えていたより酷い状況だな……」
どうやら俺の現状というのは、真面目に働く同期の想定を上回っていたらしい。
「とまあ、こんな俺だ。監察に目を付けられてマークされると言うのも別段おかしな話ではないが――」
俺は一度言葉をとぎって紅茶を飲んだ。
「しかし、こんな俺だ。冒険者として好き勝手してる底辺の人間を、今更わざわざ捕まえて是正しようなどおかしな話ではないかとも思うわけだ」
「んん、まあ……んん」
サフィア何かを口に出そうとし、それを見送った。
「うん?」
「……」
促してもサフィアは答えず、俺から視線を外して考え事に耽り出した。
俺はティーカップを口に運びながら、ゆっくり彼の言葉を待った。
眠れる獅子に真価を発揮してもらうには、その思考を邪魔しない事が重要となる。
「……都の大結界を一から貼り直すべきだという革新派と、継続して補強を行うべきだという保守派の対立が激化している」
「ふむ」
ズドン、と大聖堂の内情が出た。
「どっちが押してる」
俺はさして驚きもせず会話を進めた。
彼の口から出てくる言葉にいちいち驚くと、彼の頭の回転を邪魔しかねない。
「大多数を占める保守派の優勢が、少数の革新派に覆されつつある」
「腰の重い教の人間にしては珍しいな」
リディア王の大陸制覇から五十年、聖ライアリス教は紛れもない大陸の聖典となりつつある。
歴史と伝統を重んじ、何ごとも穏便にと言う保守派が多いのが教の特徴なのだが――
「革新派旺盛の要因は?」
「最近立て続けに起きている結界の動作不良、膨らみつつあるリディアの民の不信感、貴族議会が最近打ち出した増税案、大体このあたりだろうと俺は見る」
呪文詠唱や賛美歌で鍛えた滑舌でもって、サフィアが流麗に言葉を並べたてた。
「なるほど……」
結界はもう保たない、
このままでは教の威信が保てない、
新結界の予算は議会に回してもらえる――
と、サフィアの言葉を革新派の言い分に変換すれば、ざっとこんなところだろうか。
「お前はどっちを支持しているんだ?」
「ん? んん……」
途端にサフィアの口が重くなった。
「――ああ、いや、悪い。いま俺が聞きたいこととは別だ。今の質問は忘れてくれ」
「お前は革新派か、保守派か」の質問は、俺が彼に求めた「大聖堂と監察神官の現状」から大いに逸脱する。
もともと口数が多い男ではない。
「しかし、貴族議会まで絡んでるとなると、対立はさぞ泥沼の呈だろうな」
「……大司教の誰が貴族の彼と合っていただの、先週どこの貴族の冠婚葬祭の祭祀を努めただの、流言飛語で上層部は疑心暗鬼に陥っている」
「――か」
大聖堂は「政治干渉をしない」を謳い文句に、貴族議会とは一定の距離を保ってきた。
光の女神信仰はあくまでも人の心の救済の為のものであって、人々を権力に従わせるためのものではない云々――と、建前は大層立派だが、賢者などと呼ばれる教の高僧も結局は人の子である。
「一番に考えるべきはリディアに暮らす人々の安全だというのに」
サフィアが苦々しい顔で言った。
「相変わらず真っ直ぐだね」
俺は特に思想理念の話題には触れず、情緒的に相槌を打った。
サフィア・ウォードと言う僧侶は、大聖堂から支給される予算では賄いきれない教会運営の為に、教にわざわざ許可を貰って土木建築作業員をこなし、日々スレッジハンマーを振るって汗水流しながら孤児の世話をする、聖職者の中の聖職者である。
彼を前にすると「自分は何をしているんだろう?」と言う哲学的な疑問が度々浮かぶ。
与えられた任を放り出して闇商活動をし、是正しにきた監察神官に恋をした。
コインで蜂の巣にされかけながらも「これは恋だ」と訴えた。
捕まったところを逃げてきた。
考えたら負けである――
「ふう……」
ふと芽生えかけた自己嫌悪を美味しい紅茶と共に飲み下し、俺はふとあることを思い出した。
「そういえば――」
「んん?」
「大聖堂にあったころ、お前の修行テーマは独自の結界術理論じゃなかったか?」
「ん? ……んん」
サフィアが目を逸した。
「結界術に明るいお前から見れば、今の状況は歯がゆくて仕方がないだろうな」
思い出話から派生したちょっとした雑談、
「……」
しかし、サフィアの方は腕組みがてら顔を険しくこわばらせ、
すぅぅぅぅぅぅっ――
と、息を吸いこんだ。
「そもそも結界術というものは時空間にまで魔力の楔を打ち込んで次元構造を歪めるほどの力を持つ非常に危険な術だ。その本質は知識と魔力によって紡いだ術式という計算式でもって人間が森羅万象絶対の理に介入するという事に他ならない。だからこそ先人たちは無限大数とさえ言える次元崩壊の可能性を一つ一つ考えうる限り排除してきた。それは例えるならば人の精神という拙い一ひらの葉で大海の水を掬い尽くすが如し――分かるかレヴィ? リディアの大結界の根幹を作りし聖人たちは、己が精神の葉を擦り切れに擦り切れさせ、時空間に楔を穿つことで発生するであろう反動を――宇宙意志に背くことで生じるであろう反作用の可能性という水平線に立ち向って、後進である我々に大結界を託しているのだ。俺は革新派でも保守派でもどちらでもない。新しくするというのであればすればいい、先人らから託されたリディアの大結界を維持していきたいと言うのならそれでもかまわない。ただどちらを執り行うにしても、まず我々は結界術がいかに繊細でいかに綿密な計算によって成り立っているのか、どれほどの森羅万象に対しての深い遠慮と配慮でもって成り立っているかをよく理解しなければならない。先人たちがしてみせたように、己が命を賭して臨むべきことだ! 己が精神を懸けて挑むべき事だ! だというのに大聖堂の教父、大司教の面々は日々貴族の顔色を伺い、教の威厳威光ばかりを気にして今この体たらく、おかしいと思わないか!? 何故不安と恐怖に喘ぐ人々を思わない!? なぜ先人たちの偉業とその辛苦に思いを馳せない!? おかしいとは思わないか!? どう考えてもおかしいだろうレヴィ!!」
目を覚ました獅子はチャコールの瞳を燃やしながら轟々と長ゼリフを大喝し、しかして立派な体躯の気力は衰えることなく息すら上がっていない。
これは土木建築作業員の仕事でもって肺活量が増したお陰だろう――
犬はいたく感銘を受けた。
こういう時、理論理屈に対する巧拙はまったく必要ない。
落ち着き払ってただの一言、
「……ふ、相変わらず血の熱い男だ」
情緒的な言葉を返すと、
「すまん……分かってくれる者を前にすると、つい……」
なんとびっくり、俺が彼の言葉を理解したことになるわけだ。
「それが、『お前から見た今の大聖堂』と言うことだな」
「……んん」
サフィアは頷いて満足げに息をついた。
言いたいことが言えてすっきりしたらしい。
とりあえず、眠れる獅子が憤慨するほどの状況だということは理解出来た。
「で、次は大聖堂監察だ。俺にとっての今一番の問題がこれ」
「んん……」
落ち着きを取り戻したサフィアが紅茶に口を付けてチラリと俺を見た。
「不正術士の捕縛に総力を上げている」
「総力、ね……」
「修道神官、教区神官、巡礼神官の身内の僧侶はもとより、リディアの各地区の高名な術士から冒険者に至るまで、草の根を分けてでもの勢いだ」
「なぜ」
俺は頬をヒクつかせて半笑いになった。
「それも結界問題に起因する」
サフィアは厳しい目をしてテーブル中央に視線を落とした。
「大結界の術式に、何者かが不正接続を行なっている節がある」
「なんだって?」
「……」
持ちうる情報から繊細に思考を重ねるサフィアの「予言」は信用に足る。
「結界の動作不良――魔物騒ぎは、何者かが意図的に引き起こしている事だと言うのか?」
「その可能性は、あるだろう」
サフィアは怒りにも似た激しい形相になって、呻くように言った。
「……」
俺は前髪をかきあげて額に手を当てた。
――大聖堂の結界の術式に割り込んで、意図的に魔物を都に出現させる
それがどんなに罪深いことか、それがどんな罪に問われることか、大聖堂の修道神官からえらればたエリート集団である監察神官をどんなにハッスルさせることか――
都を護る大結界の歴史は古く、およそ七百年も前から稼働していると言われている。
不正接続などすれば最悪は磔か火炙り、なんにせよ公開処刑は確定だ。
「レヴィ、あまり考えすぎるな。都を思う気持ちは分かる、だが考えを進めすぎるのは良くない」
「……ああ、大丈夫だ」
なぜなら俺が考えているのは自分の身に及ぶ危険についてだからだ。
いや、身の危険に関して言えばあまり大丈夫でもない。
なんと言っても昨日、美人の監察神官を欺いてしまっている。
「レヴィ」
「うん?」
サフィアが厳つい顔を厳しい面にして、四つ折りにされた一枚の紙を差し出した。
「今朝届いたものだ。読めるか?」
「『読めるか』だって?」
サフィアの質問の意味がわからず、俺は首を傾げながら紙を受け取った。
いくら遊び人とは言え歴とした僧侶、字ぐらい読める。
受け取った紙は大聖堂からの指示書らしく、綺麗な女性文字が綴られていた。
――キュアベリーの葉が濃緑に生い茂るこの頃、教区の兄弟らのご健勝なるを祈り、今日この日がある喜びを大いなる光の女神に感謝致します。
現在急速に王都として発展を遂げるリディアの都において、結界の動作不良による瘴気の発生著しく、市街地にこれまでに例のなかった霊障が増え始めています。
都の霊的秩序を鑑み、兄弟達の苦労を思えば、助力を願うも甚だ心苦しきことですが――
「現在、巡礼神官の位にあるレヴィ・チャニング修道士を教区で見かけた場合、大聖堂へ通報……」
俺は頭が真っ白になりかけて紙から一度目を背けた。
歪な魔力中枢からくる過敏な感覚が文面を脳に入れることを拒絶している。
「大丈夫か?」
「ああ、大丈夫、大丈夫だ……」
これは読めない。
確かに読むのが辛い。
先が怖くて読みたくない。
それでも俺は、今後の身の安全の為に朗読せざるを得なかった。
「可能であればその身柄を確保……抵抗する場合は法具、拘束具、魔法による実力行使も許可? 大聖堂にお引渡しの旨、何とぞよろしくお願い――って、おいぃぃぃ!?」
何だこれは。
「これではまるっきり――」
「教で言うところの『異端者扱い』だな」
重苦しい様子でサフィアが言う。
聖ライアリス教の理念思想を害する存在を、教では「異端者」と言って厳しく弾圧する。
異端者と断じられた者は死罪などと生ぬるい処罰はしてもらえない。
厳しい修行、厳格な戒律に縛られた僧侶達の歪んだ欲情のもとに「魂を浄化せしめる」ほどの激しい拷問が加えられる。
髭もじゃの高僧らが高揚した熱っぽい目をしながらありとあらゆる苦痛を強いる様を連想し、俺は卒倒しそうになった。
正にこの世の地獄である。
「ほ、他には……?」
「んん?」
「こんな風に手配が出回っている破戒僧の兄弟が居るはずだ。それも同じく異端者扱いか? それほどに今の監察の総力というのは苛烈なのか!?」
「……んん」
喚く俺に対し、サフィアは首をさすりながら目を逸した。
「サフィア、教えてくれ!」
「届いたのはその一枚だけだ。他の教区神官のところも……」
そんな馬鹿な――
「一体誰が、何のためにこんな……なんで俺だけ……?」
「……」
サフィアが今にも飛びかからん獅子の目をして俺を睨んだ。
「な、なんだよ……」
「ん? ……んん」
サフィアはすぐに表情を元に戻し、目を逸らした。
聡明なサフィアのことだ、俺を疑っていると言うこともないだろうが――
俺は気持ちを落ち着けて指示書をサフィアに返した。
「今朝届いたと言ったな?」
サフィアが厳しい面持ちのまま無言で頷く。
ふと、脳裏に浮かぶ光の女神の姿。
実際は光の女神に思えたというだけで、髪はブロンドにしてストレートのロング、凛然とした切れ長の目に納まったサファイアブルー、白い胴衣の青い縁どり――
監察神官の彼女だ。
いやしかし、昨日の今日で――?
「彼女は本気でお前を捕まえる気だぞ」
サフィアがおもむろにズドンと言った。
「彼女、だと……?」
俺は前髪の下の目を細めてサフィアを見た。
「お前、俺が遭遇した監察神官の女を、彼女を知っているのか」
「……」
サフィアは腕組みをしたまま、ただじっとこちらを見ていた。
「知ってるんだな? ならばこの指示書は彼女の手によるものか」
「……」
「サフィア、彼女は一体何者だ? いや監察神官なのは分かる。何故お前は彼女を知っているんだ」
「……」
彼はムッツリと黙ったまま何も答えなかった。
俺は溜息をついてテーブルの上に肘をついた。
「名前ぐらい教えてくれてもいいだろう? 監察神官は怖い、あれだけの手練は恐ろしい、だが美人だ。敵味方というのはお互いを知る絶好のチャンスかもしれないわけで」
「にへっ」と口元を緩めて呼吸を外してみても、サフィアは石像の様に固まったまま口を開こうとはしなかった。
「……そう黙られては取り付く島がない」
俺はため息をついて言及を諦めた。
黙して語らぬのも問答の法である。
書斎を静寂が満たした。
窓の外に目を向けると、リディアのよく晴れた午前の空の下、教会の孤児らが満面の笑みでもってウィルと戯れている。
実に長閑な風景だった。
「……追いつけるといいが」
同じように外に目を向けていたサフィアが、唐突にそう言った。
眠れる獅子のズドンな発言だったのかもしれないが、遊び人の犬には、それがどんなズドンであるかが分からなかった。
「……サフィア、一ついいか」
「んん?」
「なぜ指示書を先に見せなかった」
俺は窓の外を眺めながら聞いた。
孤児たちがウィルと戯れて笑顔を輝かせる庭はまるで別世界のようだ。
ああ、子供に戻りたい――
子供に戻ってうら若い女性とお風呂に入りながら「背中が終わったから今度は前、ほらちゃんとこっち向いて」とか言われてみたい――
「んん……」
俺の妄想をサフィアの声がとぎった。
「お前はなぜ指示書を後回しにした? 最悪は、黙っているつもりだったようにも受け取れる」
俺にとっては「手配されている」という情報が最も重要なものだ。
年来の友人を疑うわけではないが――いや、正直に言うとかなり疑っていたりする。
さっき凄い目で睨まれたし。
「いや、んん……」
サフィアは一度大きなため気をつき、おもむろにズドンとこう言った。
「破戒僧のお前は、捕まるべきだと思うからだ」
「……」
俺はテーブルから肘を滑らせて腕をビリビリさせてしまった。
「同期のよしみで、取り押さえはしないが」
「やったあ」
眠れる獅子サフィア・ウォードは、聖職者の中の聖職者である。