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エルグラドの冒険者(推敲及び改訂中)  作者: 井伊嘉彦
第一幕 女神のコイン
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幕間「錠」



「レヴィ、ダメだよ……」

「どうして? サフィアは今日ここに来ないよ」

「でも、部室でこんな――」

「じゃあ何処でする? 運河に出ようか? それとも戦勝記念公園?」



 椅子に座ったあたしにまたがって、彼は子供の様に笑った。



「……」



 目を伏せる私の腕を押さえて、彼が顔を近づけてくる。


 あたしは咄嗟に首を逸らして、彼のキスを拒んだ。



「うふっ」



 彼はそのまま頬を擦り合わせて、あたしの耳元で笑った。



「……ッ」



 背筋を悪寒に似たものが奔り、それは悪寒ではないけど、それでもある種の嫌悪感を抱かせた。



「レヴィ、いや」



 言っては見るものの、彼に抑えられた自分の腕は反抗する意思を示さない。



「大事な事なんだ。ちゃんと魔力を受け入れて」

「……ッ」



 甘く囁く彼の吐息に耳元をくすぐられ、また背筋が震える。



「それだけでいいんだ。それ以上は、何もしないと約束するから」



 頭の奥の奥まで届く、聖歌隊のボーイソプラノのような声。


 彼が更に体を密着させて、一瞬、強烈な魔力を発揮した。


 魔力をあたしの身体に吐き出した。



「レ、ヴィ――」



 彼の魔力があたしの中を奔放に駆け回る。



「ん、う……ッ」



 幼い面立ち、小さな体からは想像もつかない猛々しい魔力が、あたしの中枢に入り込んで溶け込んでいく。


 背筋に電撃のような衝撃が奔り、胸が、魂の芯から熱くなる。


 魔力が増して意識が高揚する。



「魔力の理解にまだロスがある。送り込んだ半分しかモノに出来なかっただろ?」

「だっ、て……!」



 鼓動が早まって体温が上がっていく。


 魔力を安定させようにも、取り込んだ彼の魔力が中枢で暴れに暴れて抑え込めない。



「もっと体を通さないとね」



 彼が卑猥に口元を緩めた。



「ちょっとま――」



 言いかけたあたしの口をレヴィが唇でふさぐ。


 濃い魔力の奔流が、中枢に直接雪崩込んできた。



「んむ、ふ――ッ!?」



 全身を電気に似たものが奔り、体の力が抜けていく。


 目を見開いて胸を仰け反らせるあたしを抑えて、彼が無理矢理に魔力の発揮を維持し続けた。



「ん、んんんん――ッ」



 中枢が活性化し、腰の辺から脳天に駆けて、熱いものが突き抜ける。


 それは確かに快感と呼べるもので、快感かどうかすら定かではないほどの激しい衝撃で、体の力と考える力を乱暴に奪い去っていく。



 熱い――



 頭が真っ白になりかけた瞬間、あたしの中でそれは爆発した。



「――ッ!」



 体と思考が一瞬だけ力を取り戻し、あたしは彼を突き飛ばした。


 快感と共に等しく感じていたもの。どうしてもぬぐい去れなかった、快感とは程遠い、いっそ対局に位置する感覚、



 嫌悪感――



「むあッ!?」



 彼がすぐ後ろのテーブルに背をぶつけて、あたしの胸に跳ね返ってきた。



「……」



 あたしは息を乱しながら、背もたれに身を預けた。


 額には汗が浮かび、潤んだ目からは涙が溢れ落ちそうだった。



「ちょっと、無理しすぎたかい?」



 彼があたしを頬を触って、屈託のない笑みを浮かべる。



「……」



 あたしは身を震わせて、彼の目を見返した。



「君がそういう顔をするから、つい意地悪をしたくなる」



 口元が、卑猥に歪む。



「誘わないでくれ」

「そんな顔、してない」



 あたしは身を震わせながら、気の抜けた声でそう答えた。



「いずれは僕の魔力を全部飲み込めるぐらいになってもらわないと」



 彼がクスクスと笑った。



「いつまでたっても次のステップに進めないよ」

「……」



 次のステップという言葉に、あたしはまた背筋を震わせた。


 こんどは快感とは明確に区別が出来た。


 明らかに嫌悪感だった。



 こんなの、だめだよ――



「君のそんな姿を何度も見られると言うのだから、僕に損はないけどね」

「……」



 あたしは彼から目を逸らして、呼吸を整えた。


 消化しきれない彼の魔力が体中を駆け巡り続けていて、快感がする痺れがいつまでたっても抜けない。


 最近の彼は、時間があれば、状況が許せばいつもこうだ。


 毎日毎日、あたしは彼の魔力を受けて、取り込む訓練をさせられている。


 彼は口元を卑猥に緩めて、日々あたしに与えようとする。


 与えることを餌に、あたしを貪ろうとする。



「僕自身の欲求でもあることを否定はしないけど、それでもこれは必要な事だよ?」

「……」



 必要な事だ、大事な事だと彼は繰り返して言う。


 その理屈は、あたしにだって理解できる。


 協力すると、一度は覚悟を決めた。


 あたしにだって興味はある。



 でも、それでも――



「休憩の間、髪を触らせて貰ってもいい?」

「……うん」



 あたしは断るに断りきれずに、ぼんやりと頷いた。



「君とこうしていられるのなら、研究も修行も、全部投げ出したっていい」

「……」



 これで、いいのかな――



 最近、あたしは、ずっと考えている。



 いいわけない――



 レヴィと過ごすこんな毎日が、果たして正しいのか、間違っているのかを考え続けている。


 止めなければ、彼は無邪気に、考えも無しに、先へ先へと進めようとする。


 自分の欲求のままに、手に入れようとしてしまう。



 望んだ物を手に入れれば、きっと彼は――



「君の髪は、いつも綺麗だね」



 優しい手つきの愛撫を受けて、魔力の余韻に浸る体に、また震えが起こる。



「君の他に、僕は何も欲しない」

「……」



 快感を意識すればするほど、あたしの中で嫌悪感は増していった。



 嫌悪感とはつまり、ストレスだ――

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