43.「幸せのカタチ」
曇天模様の空の下、街は実に騒々しい。
馬車や乗馬の騎士が行き交う事の多い城東の門付近で、馬車の玉突き自己が発生し二十人近くが負傷、馬丁二人が重態、馬が三頭死んだ。
普段城東にまで出張ることのない新人の馬丁が、不慣れな交通量の中で手綱捌きを誤ったのが原因らしい。
城西では城門に殺到する人だかりで異臭騒ぎが発生、「フラガラック残党によるテロ」などというまことしやかなデマが飛び交い辺りは騒然となった。
後に人ごみにもみくちゃにされた城西の魔導士が無害の魔法薬の素材瓶を何本か割ったがための匂いだと判明したが、過激派残党の報復と勘違いした群衆は口々に体調不良を訴え、中には泡を吹いて痙攣を起こす者までいた。
「素晴らしい」
僕は旧市街地区の廃教会の鐘楼で目を瞑り、街の様子を探っていた。
シューティングドックがひめゆりと再開したあの教会だ。
「素晴らしくどうでもいい光景だ」
脳裏に投影された街の喧々囂々たる有様に、僕は喉の奥で笑った。
大結界の術式権限を掌握した今、僕は結界を通して街の様子を見ることが出来る。
ひめゆりとキスをした夜から数えて三日の日曜日――
今朝、大聖堂が異例の発表をした。
――瘴気盛んなる凶兆有り。近々都に魔物が溢れる可能性大
これを受けて貴族議会の参議が予定を押してリディア王と謁見、「リディアの民総避難」の勅令が正午に発布された。
王の勅による避難令など戦後五十年例が無い。
そのための大騒ぎなのだが――
「思ったほどでもなかったな……」
交通機関は麻痺しているものの、対応する騎士団の動きが良く、細々と事件が起きている割には死傷者が出ていない。
生き急い引っ張って逃げようとする人間は二割か三割で、他は未だ様子見の体でいる。
「全員居なくなってくれれば、面白かったのに」
僕は髪をかき揚げて一人笑った。
もちろんリディアの民の命を案じての言葉じゃない。
もしリディアの一般都民の全員が避難したとすれば、およそ四十万程になるだろうか。
銀の都が消し飛べば、四十万もの人間が返る場所を失う。
王制の消失と、冒険者四十万人の追加――
大陸が盛大に荒れること請け合いだ。
理性という鎖が切れた人の、欲求と欲求のぶつかり合い。
煩わしい規則と言うもののない世界。
僕を否定する世界なんていらない――
世界を否定する僕なんていらない――
「否定」
繰り返される否定を、口に出した言葉で否定する。
結局、僕の世界には「否定」しかない。
この世界にはノーしかない。
「今更――」
僕は薄笑ってコインを大きく宙に弾いた。
「僕にはもう、イエスなど必要ない」
○
「休んでろって言われたんだから、休んでればいいじゃないのよ」
帳簿から顔を上げてアヤが言う。
「監察の管理業務がないんだもの。十分休ませて貰っているわ」
私は書類に羽ペンを走らせながらそう返した。
「むぅ……仕事人間なんだから。困ったもんだわね」
アヤが腕を組んで唸る。
「そういうアヤだって、家事に会計に交渉、毎日毎日仕事漬けじゃない」
私も一旦ペンを止めて顔を上げた。
アヤが帳簿の記帳を片付けると言うので、私も便乗して報告書づくりをする事にしたのだ。
報告書と言っても、大聖堂に提出する公文書とは違う。
ウィルがいつ何度時起きても良いように、状況を書面に纏めてロビーのテーブルに乗せているのだ。
昨日は私の部屋での座談会だったので、今日はアヤの部屋にお邪魔している。
「アタシはだって――やればやった分だけお金になるし?」
「家事も?」
「ラブリッサの商館維持会費には、リネン代、賄い代が諸々含まれてんだもん」
「あ、ちゃんとお金取ってるんだ」
「あったりまえよ。今は男女同権の時代でしょ? 服の修繕やクリーニングは、別途追徴金を頂いております」
アヤが腕を組んで鼻をツンと上げた。
「しっかりしてるなー」
一つ屋根の下で暮らす仲間とはいえ、商会としての一線はしっかり守っているようだ。
「うちの野郎共ってみぃーんなだらしないから、女手のアタシはボロ儲け――ってのはいいんだけど」
と、アヤが溜息をつき、後ろを振り返った。
「帳簿がすぐ一杯になっちゃうのよねえ……」
アヤの背後の棚の上には、帳簿が山積みになっている。
「古い帳簿も、そろそろ纏めて倉庫に移さないと」
決して散らかっているわけではなく、整頓して並べられた帳簿の上に、収まりきらない真新しい帳簿が乗せられているだけだ。
「記帳するものを減らすことは出来ないの?」
アヤの商人としての手腕で、ラブリッサの経営は上手く回っているように見える。
ある程度の固定収支は端折ることもできるはずだ。
「うぅむ、したいような、したくないような……」
アヤが複雑な顔で笑った。
「したくない?」
「うん」
帳簿を手にとって、アヤがパラパラとページを捲る。
「これ、アタシの日記なんだ」
「日記? 帳簿が?」
「えっとね……ほら、ここ」
「ん……」
私は身を乗り出してアヤの指差す帳簿の項目を見た。
――神父服上着の修繕(お尻に穴)十ディール。精算済み
「これ、この間の……?」
「そう。レヴィさんのフラガラック支援疑惑が持ち上がったキッカケ。お酒呑んでオナラしたとか、とんでもない言い訳だったやつ」
アヤがクスクス笑った。
「ウィルが『モンスーン』なんて言ってた日ね」
私もすぐにあの日の会話の内容を思い出す事が出来た。
「『光る屁だ!』とか、ウィルくんも妙な事に感心するんだよねえ」
アヤが帳簿をまたパラパラとめくり出す。
「帳簿に書く以上はお金の話だからさ、守銭奴〜なんて言われちゃうかもだけど」
記載を目で追うルビールージュの瞳が、何処か楽しげだった。
「お金が動くって事はね、その日何かがあって、幸せのドラマが生まれたってことなんだ」
「幸せのドラマ?」
首を傾げる私に、アヤが「にぱっ」と微笑む。
「誰かが誰かに何かを頼む、お金が動いて人が幸せになる――それが商いだって、アタシは習ったから」
幼い虎の子共のような愛くるしい笑顔に、私は目を細めた。
「アタシが商人として、誰をどのぐらいの値段で幸せに出来たか、値段は妥当だったのか、相手に満足してもらえたか、そういうのを帳簿を見て確かめるのが凄く好きで……確かめながら、『ああ、そう言えばこんなことあったっけなあ』なんて、関係ないことまで思い出したりするの」
帳簿を眺めるルビールージュの瞳が、絵本を読む子供の様に輝いている。
「なんぼ儲かった確かめとると、そんだけでも幸せやしな」
時折、肉食獣の輝きが混じるけども。
帳簿にうっとりとしていたアヤが、「ハッ」と顔を上げた。
「――って、無償で人を幸せにする、僧侶さんに言うことでもないよね」
帳簿で顔の下半分を隠し、ピンクの子虎がこちらを伺う。
可愛い――
「そんなことないよ。商いと形は違うけど、教だって人々のお布施で支えられているんだし」
アヤの幼い調子に引っ張られて、ついつい口調が砕けてしまう。
「私たち僧侶は、『人の幸せの手助け』だから。教が貰うお布施もあくまでも支援。人を相手にした時の関係は、商人さんよりずっと『なあなあ』の関係かも」
その代わり、私たち僧侶は戒律で自らを縛り、厳しい修行を行う。
人に教えを説く聖職者として、態度と生き方で、幸せの道を示して見せなければならない。
「人を幸せにしたいという気持ちは、僧侶も商人も一緒――いえ、きっとそれは職業人種に関わらず皆一緒。人は誰しもが幸福を目指して生きているのだから」
生きると言うことは、きっとそういうことだろう――
「おんなじ……」
アヤがぼんやりと上を見上げた。
「そうだよね、同じだよね? 人は幸せだから生きてられるんだ。さっすが神官長はん、ええこと言う!」
アヤが大きく頷いた。
「私はアヤに便乗しただけよ」
「ふえ?」
アヤがポカンとして首を傾げた。
「貴女が手にする帳簿は、人の幸せの記録なのね。凄く勉強になりました」
私は姿勢を正してアヤに頭を下げた。
「そんな大層なものじゃ――あ、でも、ここで謙遜しちゃうと、帳簿に書いてあるお客さんまで否定しちゃうことに――うぅむ」
アヤが腕を組んで唸る。
「ふふふ」
その様子に、私は口元を隠して笑った。
「よっしゃ、アタシも勉強勉強! もっともっと人を幸せにする商いができるように、やっぱり帳簿は手が抜けない!」
アヤが羽ペンをくるりと回し、帳簿をバシっとテーブルに開いた。
「そうだね。お互い頑張りましょう」
私も羽ペンを手に取って報告書に向かう。
「うぉぉぉお、やる気出てきたー!」
アヤが精算済みの依頼書を片手に、魔力を漲らせて帳簿を記帳していく。
走るペン先は活き活きとしていて、舌なめずりせんばかりの表情だった。
「……」
私は勢いづいたアヤの様子を盗み見ておいて、ふと考えた。
アヤが書き連ねているのは商人の日記、
それは商いによって生まれた幸せの記録、
彼女が日々世界と関わり続けている証、
私の報告書は――
事実を隠蔽した大聖堂の「魔物の当たり年」発表、
未だかつて例のないリディア王の勅による避難令、
俄かに混乱して騒ぎを起こすリディアの民の様子、
書き連ねるのは気が滅入るようなことばかりだけど――
それでもこれは人の幸せのための仕事、
人は幸せでなければ生きて行くことが難しい、
幸せを見失ったとき、人は生きる事を諦めてしまう、
それが絶望――
世界との繋がりを拒絶し、ついに幸せを思い描けなくなって絶望した彼の快楽は、一体何処に向かっているのだろうか。
○
城西地区の寂れた教会の裏、真新しい墓石の前で、僕は夜空を見上げていた。
街を脱しようとする人々の喧騒は未だ続いているものの、この場所は城門から遠く、比較的静かだった。
足元はサフィアの教会と同じで土くれが剥き出しだが、手入れがされてないせいで雑草が生え放題だ。
「……星」
傾きかけたボロ教会に灯りはなく、星が良く見える。
「宇宙とは無意識、輝く数多の星は記憶――」
見渡す限りに広がる夜空に、数多の星が散りばめられている。
「地上とは自意識、僕と言う人格が立つ舞台――」
人が歩いて辿れる大地に、矮小な僕が屹立している。
「記憶の星……」
鮮烈輝くものもあれば、闇に沈んで見えない星も数多く存在する。
だが星は、必ずそこに存在している。
「記憶と言う名の、星……」
記憶は過ぎ去った事実の記録でしかない。
手を伸ばしたところで、光輝いた瞬間には決して届ない。
星の光はいつだって「かつて」のものだ。
「ケイン……?」
空に手を伸ばして、僕は目を瞑った。
ここはケインが教区神官として割り当てられていた教会だ。
雑草の生い茂る中、隠されるように建てられた墓石にケイン・ルースの名が刻まれている。
「『都を憂いしフラガラックの猪、ここに眠る』」
名前以外に何一つ文句の彫られていない墓石に、気ままに鎮魂の言葉を送る。
「まったく君ってやつは、ホントに察しの良い猪だよ」
記憶という名の星になった友人に、口の端が持ち上がる。
――お前……ばっか野郎! そういうことかよ……! そういうことかよ――
二人で牢に繋がれた時、ケインは僕に気がついた。
かつての僕の実験に、一番に気がついたのも彼だった。
「レヴィ・チャニングの中の、ワイズ・グレーという欲求にたどりついて居ながらも、君の出した答えがそれか。君の辿りついた答えがこれか」
頭の中でそっと思考のコインを弾く。
都のなどどうでもいい。人の事などどうでもいい。
アイリアと君が幸せでいてくれたなら、僕はそれで良かった。
君のせいにはしないけど、君が星にならなければ、この僕は有りえなかった。
レヴィ・チャニングは「シューティングドッグ」のままでも、良かったんだよケイン――
「君は逃げれば良かったんだ。逃げれば良かったんだよ」
アイリアの想いに、サフィアの優しさに、迷い込んだ僕に、なんであれ逃げてしまえば良かったのに、
「君と言うのは根っからの猪だから、退くことを知らない男だから、結局、逃げるという答えには辿りつけなかったのだろうな」
歪んだ都を正さんとする自分の理想――
「負わなくていいじゃないか。追わなくてもいいじゃないか。責任なんて、理想なんて、そんなもの」
彼は最後まで責任から逃げなかった。理想を追う猪であり続けた。
「そのくせ、アイリアを本気にさせた責任が見えていないだから。アイリアの理想が見えていなかったんだから」
――あたしはどうすりゃいいってんだ! どこにもあたしが居ないじゃないか!
クスッと笑いが漏れる。
「君ってやつは、ホントに察しの悪い猪だよ……ケイン」
僕は静かに目を開けた。
空は変わらず、満天の星空だった。
「世界の秩序崩壊はあくまでも僕の欲求だ。こらえ続けて、抑え続けて、それでも消えてなくなることなく膨らみ続けた、僕の僕だけの欲求だ。だから君のせいにはしない」
上げたままの手を降ろす。
「僕は僕を否定する世界を否定する。世界を否定する僕を否定する彼女を否定する。そんな僕を、やはり君は否定するんだろうね」
瞼を開けてもなお、すきっ歯を見せて笑うケインの姿が脳裏から消えない。
「記憶の星となった君に、ワイズ・グレーがプレゼントを送ろう」
僕は星空に満面の笑みを向けた。
「君が気付いた通りのことさ、ケイン」
無意識の空に輝く、ケイン・ルースと言う名の星に、微笑みを絶やさない。
「最高にして最上の『してもしなくても良いこと』を君に送りたい」
僕を否定する世界を否定する僕の欲求――世界がどうなろうとも僕の中のノーは揺るがない。
「これがお節介な君に対する、実にどうでもいい、僕なりのお節介と言うやつなのさ」
右手にコインを呼び出して、高く高く弾き上げる。
虚しく回転する女神のコインが、闇の中でキラリと輝いた。
「――それで」
落ちてくるコインを捕まえて、僕は声を響かせた。
「いつまでそこに隠れているつもりだサフィア。それから――抑えに抑えたこのシャープな魔力はビート・スウェインだな」
「……んん」
「はじめまして」
教会裏の薪小屋の影から、サフィアとビートが姿を現わした。
「――とは、ご挨拶だなビート。僕らはあのこじんまりとした商館で、寝食を共にした仲間じゃないか」
「人格が違うらしいって話を神官長に聞いたもんで」
「乖離した人格がそれぞれ独立して記憶の管理を行っているわけじゃないよ。ストレスによってたどり着けない領域を、違った感情、違った思考が補いあって繋いでいるんだ。人格が違うというよりは、『物忘れが激しい』と言うのが正しい」
「俺」は「ワイズ・グレー」としての発言を全て忘れてしまう。
「僕」は「シューティングドッグ」の経験を、記憶として呼び起こす事が出来る。
「そう言う意味では、今こうして話している瞬間にさえ、細かな人格の変異は存在する。全ては一瞬の出来事だ」
「……うーん」
ビートがぼんやりとした表情で首を傾げた。
「やっぱり、はじめましてじゃないかねえ」
「とは?」
「見た目も本心もようやく表に出てきたんだし。ようやくフードが脱げた、みたいな?」
「あはははははは!」
この姿を見ても対して驚かないビートに、僕は腹を抱えて笑った。
「やはり君はいいなあ。商会の中でも僕は一等君が好きでね。君に声を掛けられたから、二つ返事で入会を承諾したんだ」
「そりゃどーも」
「アヤ・クレセントに妬いてしまうな」
「ノーセンキューで」
ビートがにべもなくそう言った。
「ふふふふふッ……どうして僕というのはこう、自分を拒むものにばかり興味を引かれてしまうのか」
「別に拒んでませんが……」
「なら、僕とキスをしてくれ」
「ノーセンキューで」
「あはははははは!」
全く感情の揺るがない彼の様子がおかしくて仕方がない。
「はぁーあ……今日は何の用だサフィア。僕がいずれこの場所に辿り着くと読んでの事なのだろう?」
「レヴィ――」
魔力を漲らせながら、サフィアが前に出た。
しかし、攻撃を繰り出さんという気が感じられない。
「説得なら無駄だぞ」
「……」
「といって、それが分からないほど眠れる獅子も愚かではない。発言を潰して悪かったな、続きを歌え」
僕は手を差し上げてサフィアの言葉を促した。
「ケインの亡骸を引き取って、この場に葬ったのは俺だ」
「それぐらいのことはこの場に漂う魔力の匂いでわかる。事後のことをアイリアかケイン本人に託されていたんだろ」
ケインの墓石には、サフィアの魔力がこびり付いていた。
「レヴィ、俺はケインに追いつけなかった」
サフィアが拳を握り固めて肩を震わせる。
「俺の教会を訪ね頭を下げるケインを見たとき、俺は自分がケインの亡骸を葬る様を『見た』。ここに至る答えを導き出してしまった」
「……」
複雑な思考によって予言を演算するサフィアは、ケインの計画と身辺の情報から結末を予見していたのだろう。
「結末はいくらでも変えられた。ケインを気絶させて無理矢理にでもアイリアに託してしまえばそれで良かった。俺が変わりに死ねばそれでケインを救えた。だがそれは、ケインが積み重ねて来た理想を摘み取る事に他ならない」
サフィアが魔力を高ぶらせて苦渋に耐える顔をした。
「俺は――あいつの理想に追いつこうと必死だった。誰一人死ぬことなくケインの満足の行く理想の形を模索した。例え俺が死んだとてケインが納得してくれる結末を思案した。持てる限りの力を尽くし、あらん限りの知恵を絞って考え続けた! それでも俺は、あいつの理想には追いつけなかった! 自分の頭が弾き出した予言を、覆すことができなかった……!」
「……なんだお前、懺悔がしたくて僕を待っていたのか?」
僕は興を削がれ溜息をついた。
「お前が見た答え、導き出した予言は即ちお前の限界だよ。ケインを挫折させる勇気と覚悟がないから、覆す事が出来なかっただけだ」
「命を掛けたフラガラックという理想を失って、ケインはケインでいられたと言うのか」
「馬鹿を言う」
暗い目をするサフィアに、僕はにっこり微笑んだ。
「僕の知るケイン・ルースならば、お前の死によって自身を一生責めつづけて苦しむ。だが僕が身代わりになっていれば、お前は新結界の中心人物として活躍し、ケインが望む全てが自身の命のオマケ付きで手に入っていた筈だ。僕であればケインは納得した」
僕のかつての実験の全てに思い至ったケインならば、牢で全てに思い至ったケインならば、必ず納得してくれたはずだ。
「レヴィ違う!」
「黙れ。否定は僕にとってストレスでしかない」
「黙らん! 聞け!」
大喝と共にサフィアの魔力が膨張し、大気が揺らいだ。
「俺の死によって一生苦しむケインをお前が見るように、俺とてお前の死によって苦しむケインを見た! お前は視野が狭い! 何も見えていない! 自分を取り巻いている状況はもとより、研究し続けた自身の魔力中枢さえも!」
「はッ! 否定のフルコーラスだ」
「お前は世界と言うものから自己を隔絶して以来、自分自身でさえ見えていない! 何一つ見ようとしていない! お前は自分自身から逃げ続けている!」
声を荒げるサフィアに対し、僕は冷ややかに薄笑った。
「嗚呼、清々しい」
心から思う、
「清々しいほど不快だよ、サフィア・ウォード」
サフィアが鋭い眼光で僕を見据えた。
「……ならばまだ、俺の言葉は届くんだな?」
「当然だ。言葉はいつでも僕の胸を打つ。いつでも僕を傷つける。君ほどの男の言葉が、届かないはずがないだろう?」
僕は胸に手を当てて、芝居がかった口調をした。
「嘘か……!?」
「あははははは! 不正解だよサフィア。僕はこんなにも君の言葉に傷ついて、こんなにも胸が苦しいのに!」
僕は笑いながら泣いた。泣きながら笑った。
彼の言葉は僕の中の断固たる「ノー」を揺るがさない。彼の言葉は僕の「ノー」には届かない。
でも違う、彼の言葉が意味するものが、僕の感情を揺さぶって仕方がない。
「追えないのか……! 俺はまた――また追いつくことが出来ないのか!」
サフィアも涙を零し出した。
「それは興味深い話だな」
僕は涙を拭ってサフィアを見た。
「言ってみろサフィア。お前の複雑思考は僕にどんな結末を見た? 聞くまでも無いことだが、お前の口から予言を賜りたい」
――ギリィッ
サフィアが食いしばった歯を鳴らした。
「お前は……四日後に死ぬ……!」
獅子の唸り声のような声だった。
「――ははははははははははははッ!」
僕は額に手を当てて高笑った。




