41.「ガールズトーク」
夕方、すっかり自室として馴染んだラブリッサ商会商館の客室で、私は乱雑に聖職胴衣を脱いでベッドの上に放り投げた。
脱衣所で下着を脱ぎ、ガータリングごとタイツを下ろしてバスルームに脚を踏み入れる。
「……ッ!」
シャワーのコックを捻る瞬間に、胸に違和感が走って手が止まる。
街を守るリディアの大結界が、レヴィの接続によって鳴り止まない鳴動を続けている。
大結界を維持するための大聖堂の宝玉から莫大な魔力が常時吸い上げられている。
激しい術式反動を生むために。
弾けるその瞬間を迎えるめに。
「……」
私はコックを捻り、シャワーを頭から浴びた。
熱めに設定したお湯が浴室に湯気を満たしていく。
ワイズ・グレーの宣告から数えて二日――
私の中枢を介したレヴィの接続を、捉え切れる僧侶は一人として居なかった。
幾万幾億と複雑に絡み合った術式に対し、レヴィは接続の度にアプローチを変えて到達先を隠蔽している。
接続が一瞬すぎて、逆探知がどうしても追いつかない。
『魔力の供給は止めなくていいのか? このままでは反動が高まる一方だ』
『それで短気を起こされてはたまったものではないぞ。あやつは今すぐにでも結界を崩壊する事が出来るのだ』
『内側から、新結界をぶつけて術式反動をそらしてみては?』
『なにを馬鹿な。術式反動を大陸各地に分散させようと言うのか? 何が起こるか分かったものではないぞ』
『そもそも、崩壊の反動に耐えうる新結界を今日明日で用意出来るかという話だ』
『各地に出向いている結界術に長けた僧侶を呼び戻せば――』
『全員揃う頃には、リディアが消えておるだろうな』
大聖堂の上層部は、ひたすら水掛け論を展開し続けている。
彼らが議論を重ねているのは、もしもの時の保険のかけ様だ。
決定的な決断は既に下されている――
『レヴィ・チャニングを、生の苦しみから解放するより他あるまい』
保守派の長老がそう口にした。
彼については、大聖堂監察の長である私が全てを一任された。
レヴィは「あの場所で待つ」と言い、デートだと口にした。
私以外の人間が介入すれば、その瞬間にも結界を崩壊させられる危険性があるからだ。
『必ず彼の御霊を女神の元へと導いてあげなさい』
革新派の若年寄もそう言った。
私は今、決戦に備えるよう指示を出され待機状態にある。
あれやこれやと派閥争いをしていた保守派・革新派が、遂に同じ結論を出した――のは表向きだ。
大聖堂監察の神官は教の上層部が預かる事となり、保守派革新派の双方が良いように動かしている。
派閥争いは、水面下では静かに続いている。
都の危機なのに、都の危機だからこそ、双方にとっては力関係を揺るがす分岐点なのだ。
私に与えられた任務はただ一つ――
「彼を、殺す……」
どんなに言葉を飾ろうとも、それが抹殺指令であることに変わりはない。
戦乱の時代を経てようやく平和を手にした大陸を思えば、大聖堂の決定は間違いのない選択だ。
「かれを、ころす……」
私の中で、既に答えは出ている。
私は彼を赦さない――
「だから、ころす……?」
それでいい、それしかない、そうするしかない――
正解も間違いも、正義も悪も、全ては人の立場で変わる。
望む結果を手にするために、私は我が儘を決心したはずなのに、
「殺す……」
理屈では分かっていても、背筋を薄ら寒いものが走った。
シャワーを浴びているのに体の震えが止まらない。
もしも失敗したら――
サフィアが修道神官らに混じって、結界崩壊の術式反動を中和する陣を敷く用意をしているが、
――効果の程は絶望的だろう
とのことだった。
「絶望……」
そんなものに身を委ねはしないと豪語しておきながら、胸の内に燃える感情と意思を、根底から奪い去ろうとする何かが存在する。
私の中の私が、彼の作り出した現実に抗おうとする心を阻害する。
全ての気力を萎えさせようとする。
失敗したら――
彼を殺した瞬間に訪れるであろう心痛に対する恐れ、望んだものが手に入らないかもしれないという怖れ、つきつけられた現実を前に、望みを持ち続けることがこんなにも辛い。
――人は誰しもその快楽に身を委ねんと欲する
「……貴方はまだ、勝てていないのね」
熱いシャワーの中で身を抱きながら、私は壁に額を当てた。
「貴方はまだ、逃げ続けているのね」
なら負けない――
「そんな貴方を……私は赦さない」
貴方にも、自分にも、私は負けない――
体の震えがようやく止まり、私は湯あみを手早く済ませた。
○
パジャマに着替えてバスルームを出ると、窓の外はすっかり暗くなっていた。
窓カーテンが開きっぱなし。
「あ……」
私が当てがわれた部屋は南向きニ階の部屋で、丁度お向いに城南地区の職人さんの寮がある。
カーテンを閉めずに脱いでたのか――
自分の抜けっぷりに頭をポンポンと叩いて、私はカーテンを閉めた。
部屋の照明に火を入れて、ベットに腰掛けながら濡れ髪を吹いていると、
――コンコンッ
ノックの音がした。
「開いてるよ」
扉の向こうに感じる魔力で、相手がアヤであることが分かる。
「お邪魔しまーす」
赤いチェックのパジャマを着たアヤが、ティーポットとカップをトレイに乗せて部屋に入ってきた。
「あ、お風呂上り?」
「うん」
「なんで鍵がかかってないの……?」
「忘れてた」
鍵もかけるのすら忘れいてた。
もうぐだぐだじゃないか私。
「無用心!?」
アヤが体を強ばらせて驚く。
「無防備すぎだよ!」
「あはは、ごめん」
「ウィルくんはまだ寝たままだし、あんま異性に興味ないみたいだからいいけど……ビートなんかああ見えて油断ならないんだかんね? 見た目細いけど馬鹿力なんだからアイツ。がばーッってこられたら大変よぅ?」
「ええ? そういうことするタイプかなー」
大斧を振り回しているあたり馬鹿力なのは想像がつくけど、物静かなイメージを受けるビートは私の中で草食男子に分類されている。
「それに、今日はビート会長、出払ってていないんじゃなかった?」
「今日はいいけど……いつもの話!」
「はぁい」
私は相槌を打ちながら腰を上げ、テーブルの椅子を引いてアヤに進めた。
「冗談じゃないんだかんね。あいつは狼なの!」
「んー……?」
「いつだったかさァ――」
アヤがテーブルにトレイを置いて飛び乗るように椅子に座った。
――神官長には眼鏡が似合いそうだお。こんな感じの
「って、わざわざ銀のフレーム自分で鍛造してたんだかァね?」
「器用だなー」
アヤの向かいに座りながら呟く。
流石は職人さんだ。
「ちゃう! それツッコミどころちゃう!」
アヤがお茶をカップに注ぎながら鼻にかかった声を荒げた。
特につっこんだつもりはなかったんだけど。
「言うべき科白は『眼鏡かけさせて一体何する気!?』よ!」
「んー……?」
私は口元に拳を添えて首を傾げた。
それはそれで飛躍し過ぎな気がする。
「ま、アタシがそう言ったって話なんだけどさ。そしたらアイツなんて言ったと思う?」
「なんて言ったの?」
――眼鏡の神官長さんを愛でながらレモンティーを飲むんだお
「ふぅん……」
正直なところ、彼の感性は謎に満ちている。
「ちゃう! そこは警戒するところ! アイツは正真正銘の変態なんだかァね!」
「ええ?」
眼鏡女子を見ながら紅茶を飲むと変態になるのか。
「で、その場にいたウィルくんがこう聞いたワケ」
――よォビート、お前さん眼鏡掛けた女と裸眼の女だったらどっちが好きなんだ?
「そしたら『眼鏡最高』って即答だかんね! アイツはメガネっ娘好きの変態なの!」
「んー……?」
趣味趣向なだけのような気もする。
「んでさらにウィルくんが――」
――眼鏡最高? んじゃ、眼鏡掛けた女と、眼鏡だったらどっちが好きなん――
「『眼鏡』って食い気味で即答よ!? もう信じァんない! 実は女よィ眼鏡が好きだなんて、ド変態もいいとこよ!」
「……」
時折、彼の発言が良く分からない。
実は眼鏡職人を目指しているのだろうか。
「はい、どうぞ」
アヤがカップを私に進めてきた。
「あれ、紅茶じゃない?」
「むふふー」
アヤがにんまりと笑った。
「これは緑茶ね」
カップのお茶は透き通った淡い緑をしていた。
「今日の取引でちょっとオマケをかっぱいできたの。リディアの人って紅茶ばっかり飲むじゃない。たまにはこういうのも趣があっていいかなーって」
手をパタパタさせてアヤが笑う。
度重なる伝染病の災害に悩まされたリディアでは、流行性感冒の予防に効果が高い紅茶が特に好まれている。
緑茶の茶葉は滅多に見かけない。
「なんだかホッとする香り……」
「でしょでしょー? ビートは『紳士は紅茶しか飲まないんだお。緑茶ノー』なんて言うワケ。こってこての職人訛りでよう言うわ。誰が紳士やねん」
「ふぅん……」
私は緑茶のカップを口に運びながらチロリとアヤを見た。
「なによう?」
アヤがルビールージュの瞳を細めてジト目にして見せた。
「え? 別に、何も……」
「なによう、何考えてたの?」
「ええ? ……んー」
私は口元に拳を構えて小首を傾げた。
「狼が良く話題に上るなあ、と」
カッとアヤの顔が赤くなった。
「ちが――あたしはね、アイツがどェだけアホで変態の危険人物かってことを教えてあげようと――じゃないとホント、危ないって話をしてたワケなのよ。そうなのよ。うむん」
「ふぅん」
「また『ふぅん』するし!」
「あははは」
ラブリッサ商会の会長副会長、生産者である職人と販売者である商人、ロビーでのやり取りを見ている限り、二人は本当にお似合いのカップルだ。
「アイツはホントに獣なのッ!」
「大丈夫よ。取ったりなんてしないから」
「ちが――だかァ! アイツとは仕事上のパートナーであって、ホントにそういうのじゃないってば!」
「そういうの、って?」
「うーッ……」
アヤが顔を赤らめながら恨めしそうな目をする。
「そっちだって――」
「うん?」
「そっち、だって……その……」
アヤが急に魔力を萎ませて俯いた。
「ごめん、今のなし。テイク・ツー」
アヤが輝かんばかりの笑顔をした。表情に一点の曇りもない見事な営業スマイルだ。
「レヴィの事ね?」
「う……」
アヤがギクリと体を固める。
私は静かにカップの緑茶を飲んだ。
「ごめん、あたし、ちょっと無神経だったよね……」
「んー……?」
私は拳を口の前に添えて考えを巡らせた。
あれやこれやとアヤの発言が頭を飛び交う。
「つまり、アヤはビートに恋してることを認めたと言うこと?」
「なんでやねん!」
アヤが本場ニヴァーナ仕込みのツッコミを披露してくれた。
「説明したほうがいいの?」
「おぅ、してみんかい」
アヤが腕組みをして目を座らせた。顔は真っ赤になっている。
「貴女はビートのことを言及する私に対し、レヴィの事を引き合いに出そうとした。でも今はこんな状況だから、無神経だと思ったのでしょう?」
「うん……」
「貴女の中には、私がレヴィに対して恋愛感情に近いものを抱いているのではないかという推測がある」
「……うん」
「だとすれば、『そっちだって』という言葉で結んだ以上、貴女がビートに対して抱くものも恋愛感情だと言うことにならないかしら」
「む、ぐ……ッ!」
赤い顔で涙目、アヤの肩が小刻みに震えてる。
可愛い――
「私、ちょっと意地悪だった?」
「ちょっとどこォじゃない! うぅぅ……」
アヤが真っ赤な顔を隠すようにテーブルに突っ伏した。
「いくらでも否定できる思うんだけどなー」
「貴女の誤解、私は違う」で済む話だけど。
なにより、
「どうしてそんなに恥ずかしがるの? 付き合っているのでしょう?」
今更こんな風に追い込むまでもなく、傍から見てればバレバレだ。
「付き合――」
ガバっとアヤが顔を起した。
「そ、そんな風に見える?」
「見えるも何も」
「な、なに?」
「とてつもないバカップル振りだと思うのだけど」
「そうなの!? 私たちって、バカップルしちゃってるのかッ」
アヤが両手で頬を包んで体を震わせた。
買い物に出る時は絶対に一緒で、必ず腕を組んで歩いて、ビートの糊付けされたYシャツは全部アヤが手入れしてて――
「カップルというより、もう夫婦のような……」
「ふ、ぅううッ!?」
ボフンッ、とアヤの頭から蒸気が立ち上った。
「告白したりされたりは――」
私の問いに、アヤが頭を飛ばす勢いで首を左右に振った。
「ないのか……」
それであんな関係になっているのも凄い。
「あ、アイツ――」
アヤが俯きながらポツリと呟いた。
「うん?」
「アイツね? 普段はぐーだらだけど、やるときやるし……冒険者の癖に工房街でも頼りにされてて、凄く腕の良い職人なんだ」
「うん」
「でも、アタシは……」
アヤが俯いて影のある微笑みを浮かべた。
「アヤだって凄い商人じゃない。取引上手だし、薬剤の調合も専門家並に知識があるし」
魔物を倒せるだけの爆薬なんて、そうそう作れるものじゃない。
「一緒に並んでても、釣り合わないっしょ? あいつタッパあるし、凄く……その、格好いいし……」
「貴女も十分魅力的よ」
「でもアタシ……」
チラリとアヤが私を見た。
「上品じゃないし、スタイルだって良くないし……」
「んー……?」
私と自分を比較しているらしい。
カーテンを閉めずに服を脱いだり、鍵をかけずにシャワーを浴びる私は果たして上品と言えるのだろうか。
スタイルだって月並みだと思うけど――
「アタシ、こんな見た目だから、さ」
成長しない見た目のアヤからすれば、平均身長に届く女性は羨ましくて仕方がないようだ。
「私は凄く可愛いと思うんだけどなー」
「可愛いって、子供っぽいって意味でしょ?」
普段気丈で肝っ玉が目立つアヤにも、こんな内気な面がある。
「そういう意味ばかりじゃないんだど……んー」
気にしている本人には、可愛いと言われることすら、褒め言葉にはならない。
「背が高すぎて悩んでる人だって沢山いるよ?」
「それは、そうだけど……」
「背が高かったり、低かったりで、アヤは人を侮ったりする?」
アヤが首を横に振った。
「なら、自分の容姿も否定しては駄目よ」
「え?」
「『こんな見た目だから』と自分を侮ったら、貴女と同じ成長しない容姿をした人達のことも、侮ることになってしまうわ」
「……」
アヤが黙った。
「アヤは王都の城北地区に足を運んだ事がある?」
「へ?」
唐突な私の質問に、アヤがキョトンとした。
「城北ってリディア大聖堂があるセレブ区画でしょ? 行こうとしたのはこの間が初めて。アタシ、冒険者だし」
アヤの幼い顔に、また影のある笑みが浮かんだ。
「城北地区にティーンヒルズと言う区画があるのだけど」
「ティーンヒルズ?」
「十番街だからティーン。でも、名前の由来はそればかりでもなくてね」
「?」
アヤが首を傾げる。
「ティーンヒルズは、男女問わずアヤみたいな成長しない見た目の人ばかりなの」
「そんな街があるの!?」
アヤがテーブルに身を乗り出した。
城北地区十番街にして、いつまでも見た目が十代の人間が住む街、それがティーンヒルズだ。
私はポットを手にとって、空になったアヤのカップと自分のカップにお茶を注いだ。
「城北はリディアの中でも最も聖地である霊峰に近い。魔力を多分に含んだ湧水の影響だと言われているのだけれど、潜在魔力の高い人が多くて、みな十代の見た目を保っているわ。成長しない見た目はステータスだなんて言われていてね」
「よ、よう知らんかった……」
呆けた様子のアヤが、お国言葉で呟く。
「十五〜六歳の見た目の有閑マダムが、おめかししてブイブイ言わせてるんだから」
「ぶ、ブイブイって……神官長はんの口からそんなん聞かされても、なんや想像しにくいなぁ……」
なぜだろう。
「今度、二人でティーンヒルズ行ってみる? アヤのような人向けのお洒落な服を扱う店が沢山あるよ。城北じゃ、私なんかよりアヤの方が男性に声を掛けられる確率が高いんじゃないかな」
大陸でも特に、リディア城北地区の人間は幼女趣味の男が多いことで有名だったりする。
変態の街か。
「行く! 行ってみたい! ……一人だと勇気出ないけど、二人でなら行く!」
アヤが顔を輝かせて身を乗り出した。
「事が済んだら、一緒にお買い物だね」
「あ……」
と、アヤがまた魔力を萎ませて縮こまる。
「ごめん……」
「うん?」
「あたし、ちょっとでも気を紛らわせてあげられたらなぁってお茶持って来たのに、逆に元気づけられたりしてるし……ごめん」
「どうして? 私は凄く楽しいよ」
むしろ今のは、私の方が無神経に現状を意識させる話を持ち出してしまった。
「やらなければならないことはハッキリしているし、貴女のおかげで私もいい気合をもらったわ」
「ふえ?」
「必ず都を守りましょう。そうじゃないと二人でショッピングなんて出来ないしね」
「……うん!」
アヤがパッと顔を輝かせた。
「今回は都はおろか大陸の秩序がかかった依頼なんだし、大聖堂からの報酬も奮発するわ。というか、出させる」
来るべき騒動に向けて、ビートが城南地区の工房街や旧市街地区の有力者と話を纏め、アヤは冒険者のキャラバンと交渉し物資を確保してくれている。
ラブリッサ商会の闇商活動は、もはや都を救うための要だ。
「お買い物の予算もバッチリだ!」
そんなトンデモ闇商の台所を支える副会長のアヤは、全く自覚してない様子で愛らしい笑みを浮かべた。
「私の方こそ、気を使わせてばっかりでごめんね」
「え?」
「いえ、んー……」
巻き込んでごめんなさい――
と、喉まで出かけた言葉を飲み込む。
私にはアヤを含めてラブリッサの力が必要だし、みんなも快く協力してくれている。
「この場合は、ありがとうと言うべきかしらね」
「じゃ、あたしもありがとうだ」
アヤが満面の笑顔でそう返してくれた。
「うん、どうしたしまして」
「こちらこそ、どうしたしまして」
二人でお礼のお礼を言い合って、また笑い合う。
「それで……」
アヤがお茶を飲みながら上目遣いをした。
「うん?」
「レヴィさんの事……聞いてもいい?」
「……」
黙っちゃだめだ――
ここで黙れば、アヤに余計気を使わせてしまうじゃないか。
「いいけど、何が聞きたいの?」
「うぅむ……」
アヤが目を横に流して唸った。
魔力が複雑に揺らいでいて、何をどう聞いたらいいのかを思案しているようだった。
彼女はレヴィを殺せと命が降された私の立場も知っている。
「アタシは、ラブリッサに居たレヴィさんしか知らなくて……」
「うん」
「レヴィさんて、だらしないし根性なしだし、ヘラヘラしてていい加減で、頼りない人だったけど――」
「うん」
再開した彼は、私が見る限りでもそうだった。
「――でも、優しい人だったんだよね」
アヤがどこかしんみりとした様子で言った。
「戦いが苦手だって言うアタシを一生懸命かばおうとしたり、自分が傷ついててもみんなの治療を優先したりしてさ」
「……」
公園で、ケインやアイリアの事に涙する彼の姿が思い浮かんだ。
「誰かを殺そうとしてるとか、リディアを吹き飛ばそうとしてるとか、なんか全然信じられないんだ……現実味がないって言うか」
「そうよね」
当然のことだと思う。
「こんなこと聞くの、やっぱり無神経だと思うんだけど……」
「昔のレヴィが、どんなだったかを聞きたいのね」
「……うん」
ろくに彼の話もせずに、「力を貸して欲しい」と無茶を言っているのは私の方だ。
「昔、か……」
私は目を細めて溜息をついた。




