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エルグラドの冒険者(推敲及び改訂中)  作者: 井伊嘉彦
第一幕 女神のコイン
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36.「猫眠る」



「いや、頑張って解決しろよ。お前さんら僧侶なんでしょ?」



 俺は温くなったホットミルクを飲み干して、途中何度となく出かかっていたツッコミを入れてやった。


 修行僧らが集う学び舎で七不思議とか、本末転倒じゃねえかよ。



「そっか!? アリオスくん現役の学生さん!? 若ッ!」



 アヤがおそれいった様子で身を強ばらせる。



「七不思議に挑もうって話は修行僧の間でちょくちょく持ち上がりますけど……みんな見回りをする教導司祭様に見つかって厳罰を受けてます」

潜伏行動(スニーキング)がなってねえ」



 見習いの僧侶連中じゃ仕方ねえけど。



「教導司祭様は、捕まえた修行僧らに『古代術式研究部の部室を見かけたら、絶対に扉は開けてはならない』と必ず言って聞かせるんだとか……」

「開かずの間はホントにあるんじゃない! ホントの怖い話じゃない! ホン怖ッ!? ぎぃやーッ!」



 アヤが口の前に手を構えてわめき出す。


 マジでさっさと仕事行かねえかな、コイツ。



「そんで? その話に出てくる修行僧ってのが、レヴィだってのか」

「……ええ」



 アリオスが真面目な面持ちで頷いた。



「ケイン神父の件で、大聖堂に呼び出されてたんですけど、その時に――」




『これで結界問題もひとまず安心じゃな……』

『アリオスを用いて保守派の顔も立てさせるとは、流石はレナード卿と言ったところだのう』

『ところで……例の七不思議のあやつはどしておる?』

『七不思議?』

『ほれ、あの魔法が上手く使えない――』

『おお、レヴィ・チャニングの事か』

『フラガラックのケイン・ルースやサフィア・ウォードはあやつの同期であろ? 何事も無ければ良いが……』

『記憶の所々に欠如があるらしいがの。今は監察の神官長が張り付いておる。心配あるまい』

『監察の……彼女も彼の同期だろう? 危険ではないのか』

『さてどうであろうな。何か変化あるのであれば、それはそれで興味深いと言うものぞ』

『さもありなん。だが結界騒ぎが納まった昨日の今日じゃ。なるべく面倒ごとは避けたい』

『言われるまでもないことぞ。先刻、上層部が忠告を与えたばかりじゃ』

『それならば重畳、事態が落ち着いたらあやつの件も掘り下げて議論しよう』

『旧結界の撤去に新結界の設計と構築、いつの話になるやら……』




「という話を立ち聞きしまして……」

「ほーん?」



 ケインとサフィアがレヴィの同期だったことは聞いていたが、神官長まで同期と言うのは初耳だ。



「こう言ってはなんですけど、大聖堂の要職にある者が、いち巡礼神官の名を覚えていること自体稀な事です。彼の捕縛や監視に神官長である彼女が乗り出してるって言うのもずっと引っかかってた……」



 アリオスが緋色の瞳を底光りさせて考え込んだ。



「あの人には、何かあるじゃないでしょうか?」

「うぅむ、大きな謎が隠されている気がするわね……こェは陰謀よ! 大いなゥ陰謀の香ィがすゥわ!」



 アヤはアヤで、灼眼を輝かせて拳を握り締めた。



「……そりゃ生きた人間だ。何にもねえって方がおかしい」



 俺は適当に受け流して目を天井に向けた。


 レヴィは再修行の免除をかけて監察の報告書を扱ってたが、情報漏洩した挙句に監視をかいくぐって逃亡した。


 フラガラック騒動が納まった今、有無を言わさず大聖堂に引かれても文句の言えねえ立場にある。


 だが彼女はラブリッサの客室を引き払う様子もねえし、レヴィの処遇もそのまま――


 異常と言えば異常だ。



「お二人は、何か知りませんか?」



 俺はアヤと顔を見合わせて肩を竦めた。



「なんにも」

ラブリッサ(うちら)って、互いの過去とかあまり話さないのよねえ」

「そうですか……」



 アリオスが溜息をついて魔力を萎ませた。


 過去の話をあまりしたがらないのは、ラブリッサに関わらず、冒険者全般に言えることだ。


 難民やってるぐらいだ、大体の人間がロクな目に合ってねえ。


 だから聞かないし語らない。



「あの馬鹿犬の過去ねえ――」



 俺はやる気無くそう呟いた。




     ○


「ワイズ・グレー……」



 五年程前、リディア大聖堂の僧侶修行のカリキュラムにあった頃、彼はそんな異名をとっていた。


 「小賢しい」「不遜」「傲慢」……そういう意味を孕んだ仇名で、いっそ蔑称に近い。



「そんな、どうして……!?」



 目の前に立つレヴィの、かつての姿に恐怖を覚え、私はまた一歩後じさった。



「どうしてだって? それを君が聞くのかい」



 彼はゆっくりと、一歩足を踏み出した。



「僕を否定し阻害し続ける、君がそれを問うと言うのか」

「――。」



 響くボーイソプラノがする言葉に、私は呼吸を止めた。


 胸が詰まって言葉が出ない。



「五年――」



 コインを弾きながら、レヴィが天を仰いだ。



「僕は五年この時を待った。一刹那の瞬く間に、常人のそれを遥かに上回る情報を収集し記憶し続ける僕にとって、五年という歳月がいかほどだったか――同じ速度に住まう君なら理解出来るだろ?」

「……」



 私は彼を刺激しないよう、口を引き結んで黙った。



「いいや――いいや、分からない! 誰一人として分からない! この僕の感覚は、誰一人理解することができない! 僕を理解できるものなんて、この世界に存在しない!」



 憎悪を孕んだ怒り撒き散らし、レヴィが頭を激しく振る。


 彼の非常に神経質な性情を私は知っている。



「……レヴィ、前にも言ったでしょう? 人と感覚を共有することは難しい。突き詰めれば突き詰めるほど、人との差異は顕著になっていくだけ。貴方は深く分析しすぎなのよ」

「共有感覚のご講義か? やっぱり君は、君もまた、僕と同じ良く覚える性質だ」



 彼はゆっくりと私に目を向けた。



「君が知るべき事実から、順を追って説明して行こう」

「……」



 私は彼のサファイアブルーの瞳を見つめ返した。


 身から溢れ出る魔力に、瞳の瞳孔が締まりきっている。



「今日この頃のリディアでの魔物の異常発生に関して――これは猪の活動のみではない。僕も密かに便乗させて貰っていたんだよ」

「やっぱり――!」



 彼と動く死者(リビングデッド)に襲われた夜、私は彼の体から往年の魔力の発揮を感じた。


 監視し続ける最中にも、彼の体からは度々「ワイズ・グレー」であった頃の気配が感じられた。



「やっぱりだって? 君はそんな風に疑う破戒僧と口づけをかわしたのか?」

「……」

「卑しい神官長だ」



 押し黙る私に、レヴィは身を揺すってクスクスと笑った。



「ああ、ひめゆり、僕が想う僕のひめゆり――その顔なんだ。こちらを睨みつける君の表情に、僕の胸には感情が溢れる。頭の中に言葉があふれかえる。脳が、脳が焼き付く――」



 彼はさも喜ばしげに頭をかきむしった。



「五年前のあの日以来――僕はこの欲求を、ワイズ・グレーなどと呼ばれ蔑まれていた僕の赤黒いこれ(・・)をひたすら胸の奥底に封じ込め、破戒にかまける『シューティングドッグ』を構築し続けて来た」



 レヴィがピタリと動きを止める。



「全ては、君のためためなんだ」

「私のためですって?」



 左腕の肘辺りを右手で抱きながら、私は眉を顰めた。



「全ては君を手に入れるためさ。わかるかな? 今そのシュートを目の前に、踊り狂う僕のこの想いが、この気持ちが君に伝わるかな?」

「……わからないわ、レヴィ。貴方の感情は激しすぎる。貴方の思考は速すぎる。分かるように説明して」



 私は務めて冷静に言った。



「そうなのか? やはりそうなのかひめゆり? いや、やはりと言うからには、僕とてそれを理解している。だからこそ、それ故に、僕はわざわざ問う愚かを犯さずにはいられない! 愚問せずにはいられないんだよ!」



 興奮冷めやらぬ様子の彼を、私はじっと観察するように見つた。



「ふふふふふ……! 良いね、実に良い。それでこそ僕のひめゆりだ。いま僕を追っているね? 君の思考がする精神的視線を感じる。僕を思考を必死に追わんとする、君の意識の追従を感じる」



 レヴィは唐突に、幼い姿のまま、子供のようにキョトンとした。



「ええと、なんだったっけ……あ、『順を追って説明する』か」

「ええ」



 私は目を細めて頷いた。



「――では改めて語ってくれる。僕は五年前の実験後、大聖堂を飛び出した」



 五年前、私と彼が修行僧のカリキュラムにあったころ、彼はある事件がもとで昏睡状態に陥った。


 修行僧レヴィ・チャニングは、半年もの間目を覚ますことがなかった。


 それがある日、大聖堂のベッドから彼の姿が消えていた。



「私は――大聖堂は貴方を探したわ」

「と言って、君達とて本腰を入れて僕を捕まえる気はなかっただろ? 僕の周りをちょろちょろと嗅ぎ回る、監察の存在には気づいていた。僕は泳がされていたと言うわけだ」

「大聖堂は貴方がどんな状態にあったのかを知りたかっただけ」

「僕という人間の記録を、全て抹消してまで?」

「……」



 今レヴィを知る者は、教の中にもほんのひと握りしか存在しない。



「記録の抹消は元々僕が望んだ事だ。僧侶にしてもらえたことにも感謝の念が尽きない。実にありがたい肩書だったよ。巡礼などという名目で各地を自由に回れる神官は」

「大聖堂は貴方に期待していたのよ」

「ふんッ」



 レヴィがコインを一層高く弾いた。



「期待? 笑わせてくれる。生来の変わり者にして、五年前の事件からこっち、僕は貴重なモルモットだったのだろうが」

「……」



 私はグッと唇を噛んだ。



「どこまでもついて回る大聖堂監察、巡礼神官という牢獄の監視の中で、僕は各国を巡ってその情勢をつぶさに調べ上げた。調べ上げてはリディアに戻り、発展し続ける都の経済に目を光らせた」



 落ちてきたコインをキャッチし、レヴィが右手を額に当てた。



「ひめゆり、僕のひめゆり……魔力をオーバーフローさせるとかつての小さき体に戻ってしまう、そんな歪な成長を遂げてしまったこのモルモットは一体何を思っただろう? レヴィ・チャニングという男は、一体何を考えただろうな?」

「……」



 私は黙って彼の言葉を待った。



「モルモットが頭の中のたった一枚のコインを五年弾き続けて導き出した答えは、世界の中に存在するほんの一点――全てを裏返すことが可能な始りの点(ブレイクボイント)なんだ」

「ブレイクポイント……?」

「そう、ブレイクショットで狙うべき一点、世界の始点を、僕はずぅっと探し続けていたのさ」



 ブレイクショット――ビリヤードで一番最初に放たれる、ゲームを開始するショットのことだ。



「時にエースを狙いすぎ、時にショット後のポジションを考えすぎ、悩みに悩んだ五年だった」

「『全てを裏返す』って?」

「人の心」



 答えを予想していたかのような即答だった。



「僕が見つけたのはな、ひめゆり。リディアを魔的要素から防衛する大結界の、猥雑に入り組んでしまった術式の、誰もが見落として認識出来ていない綻んだ一点なんだ」



 鋭く青い瞳が、遠い目をして虚空を睨む。



「大結界の欠陥点を、見つけたというの……!?」

「正解とも言えるし、不正解とも言える。君の言う『欠陥点』という言葉は持つ意味が多過ぎる。指し示す事象の範囲が広すぎる。君はどの程度の規模でその言葉を使ってる? 欠陥点などザラにあるだろ。術者の要らぬ自己顕示欲が生んだ余計な部分、術者の思考の癖が顕著に現れたズレと歪み、そういったものを一つ一つ上げ連ねては、まったくもってキリがない」



 レヴィはクスクスと笑った。



「――だが、その欠陥点という言葉が、『ある目的』に基づいた『最高のポイント』指し示す言葉だとしたら、それは正解だよ。僕はその唯一無二の始点を見つけた」



 幼い顔がする屈託のない微笑みに背筋が冷える。



「大聖堂の結界を崩壊させるつもり? それを可能にする一点を、貴方は見つけたというの……!?」

「ああ見つけた。だが、ひめゆり。僕はこう言ったぞ? 『世界の中に存在する、ほんの一点』裏返すのは『人の心』だと」



 体から血の気が引いた。


 顔が青くなるのが自分でも良く分かった。


 私は彼の言葉を分析し、彼の表情を観察し、心理状態を追っていた。


 だから分かった。



 彼は――



「やっぱりそうだひゆゆり。やっぱり君なんだひめゆり……君でなくてはいけない、僕は君じゃなきゃだめなんだ」



 レヴィがまたも歓喜に打ち震える。



「君ってやつは最高だ。ここまでの説明で、君は僕が為さんとしていることが分かってしまった――いや、常人でもその程度ならば理解できよう。でも、君は、君だけが、人が独特などと断じる僕の言葉で、どうして『それ』が『そうなるのか』まで理解してくれる。ああひめゆり、僕のひめゆり――」



 ワイズ・グレーは、大陸の秩序崩壊を引き起こそうとしている――



「そう、君が考え至った答えに間違いはない。大破壊(フォールアウト)、大破壊なんだよ、ひめゆり」



 レヴィが右手を差し出して、手のひらに乗せたコインをキツく握り締めた。



「大結界の術式を掌握すれば、リディアの霊的秩序など思うがまま」



 ――ゴゴゴゴゴゴ……!



 空気が振動し、地面が揺れ動いた。


 腹に響く地鳴り、リディアの街全体の鳴動、彼の手の魔力に呼応してリディアの大結界が悲鳴を上げた。



「う……ぐぅッ――!」



 不意に胸を襲った疼痛に、私は身をかがめた。




     ○


「あの馬鹿が大聖堂にマークされてるってなァ貴重な情報だった。教えてくれてありがとよ」

「あ、いえ……何がどうってわけでもないんですが、ちょっと気になったものですから」



 紅茶を飲み干して、アリオスが居住まいを正した。



「急に押しかけてしまって、すみません」

「もういいのか?」

「はい。おかげでスッキリ出来ました。起こったことを受け止めるのに、まだ整理は必要ですけど……」

「前向きよ、アリオスくん! 前向きにね!」



 アヤの鼓舞にアリオスが微笑み返した。



「紅茶ご馳走さまでした。とても美味しかったです」

「お上手ねえ。むふふッ」



 手をパタパタさせてアヤが笑う。



「あ、そうだ――」



 商館の入口の前で、ふとアリオスが振り返る。



「ウィルさん、もしよかったら今度、剣の稽古つけて貰えませんか?」

「あん? 別に構わねえが……俺ァまるっきり我流だぞ?」

「都一の我流なら、願ってもない」

「へッ、間に受けやがって。人の話なんざ半分ぐらいに聞いておけ」

「今回の件で、それは重々」



 アリオスが苦笑する。



「いつでも遊びに来てね? アリオスくんなら大歓迎よ!」



 アヤが「にぱっ」と営業スマイルを浮かべる。



「――はい。じゃあ、これで」

「おう、またな」

「またねー」



 アヤに見送られながら、アリオスは商館を出て行った。


 暫く手を振り続けていたアヤが扉を閉めて俺を見る。



「……ウィルくん、どう思う?」

「あん? 何が?」

「アリオスくんの話よぅ! 記憶の欠如って、どういうことかしら……」

「神官長と馬鹿犬について話したことねえのか?」

「うぅむ……」



 アヤが腕を組んで難しい顔をした。



「彼女、レヴィさんの話になると反応鈍くなっちゃうのよ……触れられたくないオーラ出されちゃうから、あんまりつっつけなくってさあ」



 アヤと神官長は、それぞれの仕事の合間に茶をしばきながら良く話している。



 そのアヤでも知らなかったとなると――



「面倒そうだな……やっぱり」



 常々思ってた感想が漏れる。



「妖しい……あの二人、なーんか妖しいわよねえ……うぅむ……」



 アヤが好奇に灼眼を輝かせて考え込む。



「どうでもいいけどお前さん、工房街での交渉は?」

「――あ、そだそだ。そろそろ出ないとまずいわ」



 アヤがパタパタと客室の方に駆け込み、マジックバッグのポーチを下げて戻ってきた。



「んじゃ、ウィルくん、今日はもう閉めちゃってるけど、店番よろしく! 二人がどんな様子で帰ってくるか、しっかり確認しとくのよ?」

「あの二人が、お前さん方より早いとは限らねえだろ」

「事件後に早々のお泊まりデート!?」



 アヤが真っ赤な顔に手を当てる。


 ピンクの子虎興奮しすぎ。



「アホかお前、かなりのアホか。仕事放り出して逃げ回った馬鹿犬に、大聖堂のエリート様がなびくってなどういうファンタジーだよ」



 俺は手をヒラヒラさせて言ってやった。



「夢がないわねえ……」



 浮かれた様子のアヤが素に戻る。



「でも確かになあ……アタシだったら、レヴィさんフクロ(・・・)にしてるとこだわよ」

「いつものエスエムプレイがいいとこだな」

「……やーっぱり妖しい、あの二人、妖しいよねえ」



 アヤが顎に手を当ててまた考え込む。



 だから仕事行けっつーの――



 いい加減つっこむのも面倒になって、俺はソファーに身を沈めた。


 そんな時だった。



 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……



 地鳴りの様な音と共に、街全体が揺れ出した。



「えッ、ちょっとなに!? 地震……!?」



 アヤがドアにしがみついてしゃがみ込む。


 俺はソファーの上で目を細めた。



 妙な気配がしやがる――



 突然都を襲った揺れはすぐに収まったが、今度は俺の身体に異変が起った。


「……やべえ。すげえ眠い……」



 ガツンと頭を殴りつけられたような、強烈な眠気が湧き上がってくる。



「え……?」



 アヤが一瞬呆けて、すぐに真剣な目つきになって駆け寄って来た。



「何か感じたの!?」



 そう永い付き合いじゃねえが、アヤは俺が急に眠くなることが何を意味するか知っている。



「アヤ、アリオスが、来た話――」



 俺は質問を無視して、半分閉じかかった目をアヤに向けた。



 眠くて殆ど声が出ねえ――



「なに? ウィルくんなに!?」



 アヤが息もかからんばかりに俺に顔を近づけた。



「もろもろ、ビートに、伝えとけ……」

「わかった!」



 アヤがしっかり頷く。



「ウィルくん、どのぐらい寝そう?」

「わからん……わからんが、こりゃァ………」



 俺はソファーに身を投げ出してまた大あくびをした。



「極上の、ビックトラブルの、けは、い――」



 眠い。


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