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エルグラドの冒険者(推敲及び改訂中)  作者: 井伊嘉彦
第一幕 女神のコイン
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08.「おしおき」



 ウィルにタコ殴りにされた体を申し訳程度に治療(ヒーリング)し、俺は床から顔を上げた。



「君は、まさか――」



 ウィルの奥で所在無さげにしている、銀髪の少年の容貌には覚えがある。



「修道騎士のアリオス・ウォーク……!?」



 精悍にして優しさを滲ませた面立ち、単純に聖職者とは言い切れない野性味、



「……逃げれば良かった」



 彼は穏やかな声でひたりと片手を顔に当てた。



「なんでぇ、こいつは知ってるのかよ」

こいつは(・・・・)……?」



 ウィルの意味深な言葉に俺は首を傾げた。



「修道騎士ってなァ聞き慣れねえ職業(ジョブ)だな。大聖堂にも騎士が居たのか?」



 訝しげな俺をよそに、ウィルが彼を振り返る。



「父親は王都正規軍を束ねる将軍、母親は城北地区の教区神官長、そんな身の上から、教で唯一帯剣を許された彼だけの役どころだ」



 俺は声を震わせながら立ち上がった。



「あん? 親父が正規軍の将軍だァ? ってえと、ランディスんとこのボンか」



 ウィルが将軍を気軽に呼び捨てる。



「あんた、騎士かなんかか?」



 アリオスがウィルに問う。



「頭に元がつく」

「なるほどね」



 ウィルの答えにアリオスが笑んだ。


 彼の父親であるランディス・ウォーク将軍は、言わばリディアの騎士家全てを束ねる騎士の棟梁である。



「大聖堂の英雄とまで言われている君が、なにゆえ拙僧を?」



 父親も母親もそれぞれの道で実力と権威を兼ね備えた大人物、当の本人もまた、魔物討伐からリディア近郊での危険な任務に従事し、若くして良血に恥じない功績を上げている。



「あ、いや、その……」



 彼は顔に手を当てたままチラリとウィルに視線を送った。


 ウィルが肩を竦めて壁際に寄る。



「……?」



 一連のやり取りの意味が分からず俺は首を捻った。



「英雄クンは、お前さんにお願いがあるんだと」



 壁に寄りかかって腕組みをしたウィルが、至極やる気のない、いっそ馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの碧眼で言う。



「お願い……?」



 俺は距離のある場所に立ったアリオスに目をやった。



「まずは狙撃したことを謝る! すまない!」

「え? あ、ああ……」



 権力者の息子がしっかりと頭を下げている。



「ただ、当ててしまった上は、一言言わせて欲しい」

「ふむ……?」

「これに懲りて、大聖堂に出頭して貰えないか」

「え?」



 俺を真っ直ぐに見るブラッドレッドの瞳が、燃えるような意思の光を(たた)えていた。


 魔法の扱いは並の僧侶を遥かに超え、剣技もまた一流の騎士の腕前を凌駕する、まごう事なき天才と名高い彼だ。


 魔力の扱いはまだまだ荒削りのようだが、身に纏った気迫は本物である。


 ウィルに目を向けると、軽く首を傾けただけで何も言わない。



 ええと、なんだ? どういうのだ、これは――



「しかし……君は言わば大聖堂の遊撃騎士、背徳者の取締は監察の仕事で――」

「その大聖堂監察が、今どういう状況にあるかを考えて欲しいんだ」



 真剣な瞳、穏やかな声、しかし十代の少年にしては過分な覇気に満ちている。



「不正術士の取締りを強化している節は見て取れるが……」

「それほどの慧眼を持っていながら、なぜ破戒に身を委ねているのです!?」



 言葉を敬語に改めて、アリオスが気持ちがいいほどに真っ直ぐな言葉を浴びせて来た。


 魔力にもなんらひねくれたところがない。


 残念ながら彼の言う慧眼はサフィアのものであって、俺のものではないわけだが。



「いや、なんでと言われても……出来ることならばだらけたい、それは人の性ではないだろうか?」

「それは、否定しませんが……ううん」



 俺と彼は鏡に写したようにお互い頭を掻いた。



 どうやら彼に害意はない――



 間近で魔力を確認し、それが良くわかった。



「なんにせよ、それが君の言いたいことで、俺を狙撃した理由と言うことで良いのかな?」

「ええ」



 彼はしっかりと頷いた。



「分かった」



 俺は口元を緩めて言った。



「てっきり監察が俺を消しにかかったのかと思ったが……そうでもないんだな? 大聖堂の英雄君も、俺の命が欲しかったわけでは無い、と」

「当然です。俺も監察も貴方も女神の教えを受けた兄弟じゃないですか。命を奪うだなんて――」

「そうかそうか、ならいい」



 俺は今一度「にへっ」と彼に笑いかけ、ウィルに目を移した。



「ウィル、話は大体分かった。また巻き込んだ形になったな。すまん」

「これでいいのか?」



 と、ウィルが俺ではなくアリオスに尋ねた。



「出頭してもらえるんですか?」



 彼が問う。



「うん? いや――」

「しねえだろ」



 俺が否定しウィルが補足する。



「なぜ!?」

「なぜって……そうさな、しばし検討してみると言うのでどうだろう? 俺もこれで生計を立てている仕事がある。人付き合いの関係上、身辺を整理しないことには再修行に入るわけにいかなくてね」



 無論、問題の先送りによってお茶を濁そうと言う腹であって、再修行に突入する気など毛頭ない。



「いらんいらん、人のど(たま)に誤射する馬鹿はいらん」



 ウィルがヒラヒラと手を振った。



「またまた。ここにすっ飛んで来た猫さんじゃないの」



 怒り猛ったウィルの様子を思い出し、思わず口元が緩む。



「出頭の約束は……して貰えないんですか?」



 父は将軍、母は教の貴婦人、そんな良血が生み出した濃い魔力が大きくうねって揺らいだ。



「あら……?」



 俺は身の危険を感じて後じさった。



「あー、俺あれだ、商館で牛乳飲む用事を思い出した、じゃぁの!」



 俺の脇を抜けて立ち去ろうとするウィルに腕を引っ掛ける。



「兄弟、彼はなぜあのように怒れるのだろう? なにゆえ大聖堂の英雄が、俺ごとき遊び人にマジ本気?」

「うっせぇバーカ! こんなどうでもいい話に付き合ってられっか! 牛乳以下だ馬鹿野郎!」



 知っている、ウィルは何か知っている。


 口ぶりからそれを察し、俺はウィルにしつこくしがみついた。



銀の甲弾(スナイプ・ブリット)で足りないのなら……仕方がない」



 アリオスは鬼気迫る様子でクレイモアをすらりと抜いた。



「俺も貴方も治療(ヒーリング)が使える。手足の四〜五本は覚悟してください」

「英雄君、それは数があっていない」



 何かが一本多い。


 昨日は監察神官の美女、今日は修道騎士の英雄、一体なんだと言うのか――


 俺はウィルを抱え込みながら後ろに下がり、



 ――ざわッ



 と背筋を怖気立たせた。


 良血の濃い魔力が正面から吹きすさぶ一方で、同じほどに濃い魔力が背後にも生じたのである。



 ほのかに香る鈴蘭の甘い香り――



「え……?」



 振り返ると、廊下の先に淡いブロンドヘアーの彼女が立って居た。



「ほらァ、来たァ! やっぱり来ちまった! うわー牛乳飲みてー。さっさと帰って牛乳飲みてー……」



 ウィルが酷くやる気のない調子で言う。



「あ、あれ……?」



 アリオスが急に魔力を(しお)らせた。



「……?」



 俺は前門の英雄、後門の毒花を交互にみやった。



「アリオス。貴方はここで何をしているのかしら? なぜ剣を抜いているの?」



 鈴鳴りの声は涼やかにして、突き刺すような刺があった。



「あ、いや、あの……」



 魔力をふわふわと迷わせたアリオスが、そぉっとクレイモアを腰の鞘に戻す。



「ちょっとした、弾みで……」

「貴方は大聖堂で唯一認められた聖剣を、ちょっとした弾みで抜いてしまう修道騎士だと自己申告しているのね。大聖堂監察の神官長を務めるこの私に」

「……」



 アリオスが黙った。



 はて――?



「神官……ちょお?」



 俺は耳に入ってきた単語を即座に理解する事が出来なかった。



「ああ、おしいッ! もっと引っ張ってドッキリかます予定が!」



 懐のウィルがパチリと指を鳴らす。


 大聖堂監察の神官長――それは教の選ばれしエリート達を顎で動かすことが出来る畏れき存在、任官する者は大司教の位を持つ。



「ふッ……神官長だと?」



 俺は不敵に笑い、ウィルを抱えてアリオスの所まで高速後退した。



「アリオス君、かかかかかッ、彼女ッ、監察の神官長なのかい!?」

「まずい……まずい……!」



 アリオスは心ここにあらずの様子で顔を白くさせていた。


 すでに青くもないわけだ。



「しっかりしたまえアリオス! 君は大聖堂の英雄だろう!」

「――はッ!?」



 ブラッドレッドの瞳が正気を取り戻した。



「レヴィさん、どどどどどッ、どうしよ!?」



 狙っていたからには俺の名前も知っていよう、それはいい。



「どうしようって?」

「抜刀しているところを見られた……!」



 わななく唇で彼が言った。



「とは?」

「大聖堂で唯一認められたこの剣を抜くには、彼女を含め大司教位にある神官長らの許可が要る。いちいちそんな取り決め守ってられるかと、これまで自由に振るってはいたんだけど……」

「よりにもよって、戒律の番人のトップに目撃されたと言うことか」



 聖ライアリス教の戒律は、武器としての刃物の所持携帯を固く禁じている。


 彼の腰のクレイモアは教の戒律を超えた唯一の特例、そんな大それたものを自由に振るっていたとは、この若者も中々に傾いている。



「片付けても片付けても仕事が増える一方ね……」



 空間が歪んで見えるほどの陽炎ごとき魔力を立ち上らせて、彼女は鬱陶しげに手の甲で横髪を掬った。


 絹糸のようなブロンドヘアーが魔力のゆらめきのままに宙を漂っている様は、女神と言うより鬼女さながらである。



「ホントにさァ、心からお願いする。か・え・ら・せ・ろ」



 俺に抱きつかれたままのウィルがげんなりと言った。



 どうする――



 俺は頭の中でコインを弾き、脳をフル回転させて打開策を模索した。



 コインキャッチ――



「アリオス君、君はその若さで銀の甲弾(スナイプ・ブリット)が扱えるほどの手練、魔力でも彼女に引けはとらん……だがまだ若い。君には未来がある、ここは君に任せて、俺たちは先に行こう!」

「え、あ――は、はい……ぃ?」



 アリオスがあやふやに頷く。



「そうか、恩に着る」



 駆け出そうとした俺の襟首をアリオスが鷲掴んだ。



「紛らわしい言い回しするなよ!? 結局俺一人を置いて行こうって話じゃないか!」

「そう聞こえたか? それは君の心に邪な――」

「言ってる場合ですか! あんた破戒慣れしてるんだろ!? こういうときどうすればいいんだよ!」

「はなしたまえよ英雄君」

「うわー、うぜーぇ……」



 アリオスにしがみつかれた俺がウィルにしがみつく――


 そんな男子三兄弟を、彼女が冷ややかに見据えながら近づいてくる。



「レヴィさん、ほら来る! なんかないの!?」

「こういう場合はだなアリオス君、相手を口説き落とすのが一番だ。特に相手は女性、ドンと行きたまえ! 君は英雄なのだから!」

「は――ええ!?」

「おー、そりゃ名案だ」



 俺とウィルがアリオス・ウォークという生贄を背後からグイグイと押し出した。



「いや、はッ?――えええ!?」



 わたわた暴れながらも、アリオスはしゃんと背筋を伸ばした。



「は、はのぉ、し、しんかッ、ちょー!」



 ものの見事に声が裏返っている。


 実際歳の頃にしては落ち着いて見えたし、彼の鍛えられた体がもつ重厚感も並ではない。


 だが女性に対しての免疫力の無さは年相応、うぶな十代の若者のようだ。



「なに?」



 彼女がピタリと前進を止めた。


 アリオスの背中にそっと耳打ちを送る。



(許可なく抜刀したのは俺の落ち度、言い訳はしません)


「きょ、許可なく抜刀したのは俺の落ち度だから……言い訳はしないよ」

「そう、殊勝な心構えね」



 目を細めて微笑む彼女の様子に、アリオスの体の緊張が僅かにほぐれた。


 次いでウィルが耳打ちする。



(いきなり『貴女が好きです』は難しい。まずァ与えろ、『俺を好きにしてください』だ)


「お、俺を好きにしてください!」



 アリオスが声を大にして言った。



「ええ、いいわ」

「――!」



 背中越しにもアリオスの喜びが伝わって来る。


 俺とウィルがそそくさと退散し始めた。


 後は若い二人に任せようと言うわけである。



「……ん? 言い訳しない、俺を好きにしてください……あれ?」

銀の散弾(ショットシェル)



 ――スダァン!



 大聖堂の英雄が宙を舞った。


 いかに彼女に遜色のない魔力を持っていたとしても、完全なる無防備で攻撃を食らっては一溜りもない。


 なによりも、将軍の息子に躊躇なく銀の散弾(ショットシェル)をぶっぱなした彼女が恐い。



 アリオス! 無茶しやがって――



 気を失って床に転がる若き英雄に涙を送りながら、俺は廊下をひた走った。



 ――シュッ!



「おわぁッ!?」



 足首に何かが絡みつき、アリオスのすぐ横ですっ転ぶ。



「あじじじじじ!? なん――」



 青白く発光する魔法銀(ミスリル)の鞭が足首をとらえ、神父服のスラックスが煙を吹いている。



「どう? 夜なべしてアレンジしてみたのだけれど」

「すごく太いです」



 俺が手渡した「退魔の剣」よりも魔法銀の太さが倍近い。


 目を糸にして微笑む彼女の右手には、銀色のバトンのようなものが握られ、そこから魔法銀の鞭が伸びていた。



「シルバーロッドか!?」

「ええ、私の杖に繋げてみたの。これなら魔法も使える」



 ふと辺りを見ると、横でアリオスが気絶しているばかりでウィルの姿がない。



 逃げられた――



 いや、特にウィルは関係ないことなのだが。



「くそッ!」



 俺は左右にコインを呼び出して、足に絡みつく鞭に撃ち込んだ。



 ――バチィッ!



 魔法銀同士の反発によって鞭が解ける。



「おあっちち――!」



 ちなみに、魔法銀は聖なる拳(ホーリーブロウ)の要領で体を魔力で覆うと普通に触ることが出来る。ただ俺の場合、魔法銀を触る程の出力を継続して維持するのが難しく、触れ続けるとどうしても負傷する。



 ――シパァーンッ!



「つぁ――ああああッ!」



 太ももに鞭の一撃を喰らい、余りの激痛に俺は床を転げ回った。


 「目も覚めるような」と言うのを通り越して気が遠くなる。



 ――シパァーンッ!



「だはぁあッ――くぅううッ!?」



 見た目以上に鞭が伸び、転がって逃げる間に背中を打ち据えられた。



「まだ届くわよ」



 コインの数が多い分、一定距離なら伸縮自在と見た。



「い、いい加減に――」



 俺は痛みで涙目になりながら右手に魔力を収束させた。


 狙うは彼女の右手の杖、



「しやがれ毒花ぁ!」



 ――タタタン!



 魔力の圧力によってコインの速射を行う銀の連弾(オート・ブリット)


 魔力出力が一瞬の俺は一度に三発しか打てないが、集弾性と威力には自信がある。



 ――ギギギィンッ!



 が、彼女は鞭を回転させて難なくコインを弾いて見せた。



「……あら?」

「ふ、ふふふふふふ……ッ」



 堪えきれないと言った様子で彼女が笑う。



「レヴィ――」



 静かなる鈴鳴りの声が歌うように言葉を紡ぐ。



「『おあつらえ向き』の意味がこれで理解できて?」

「くッ――」



 ――タタタン! タタタン! タタタン!


 ――ギギギン! ギギギン! ギギギィン!



 濃い魔力が生み出す魔法銀の鞭の回転が、俺の三点射撃の銀の連弾(オート・ブリット)をことごとく弾く。



 ――節操のない獣を教育するのに



 上手いことを言うもんだと思った。


 なるほど発情犬な俺は獣か、獣なら鞭か、そう思っていた。



 違う――



「俺はなんてものを作った! なんてものを与えてしまった……!」



 彼女が手にしているのは、コイン技が主力である俺を完封せしめる最凶の得物だった。



「レヴィ、貴方はある意味立派な僧侶だわ。自らを戒めるのに適した、こんなものを考えついてしまうのだから」



 彼女の杖から伸びる鞭が、瞬時に剣に固形化した。


 コインを増やしたおかげで、彼女魔力でも剣形態が取れるようになったのだろう。



 どうしようこれ――



 すっ……と彼女の瞳が細まった。



「結ぶ祈り、我が身を護る光矢たれかし――」

「神官長、その武器を手にして詠唱に入るというのはズルくないですか」



 魔法銀の剣鞭(ソードウィップ)――になる杖である。



「女神の兜の頂きの、闇をも見抜く千里眼、以て違わず悪しきを射抜かん――」



 冷涼なる鈴鳴りの声が廃マンションに木霊する。



 ――シパァーンッ!



「――くッ!」



 魔法銀の剣が鞭へと変化し、俺の動きを牽制する。


 詠唱を阻害する事が出来ない――



 ――ボ、ボ、ボゥ……



 彼女の体を取り巻いて、青白い人魂ごとき光球が次々に現れ出した。


 その数十二球――


 並の僧侶であれば六球、気張っても八球ぐらいがせいぜいで、当然俺はこんな魔法使えない。



破魔矢ホーリーアロー!」



 六つの光球が光矢となって迫り来る、



「くの――ッ!」



 俺は左右にコインを呼び出し、両手に魔力を集中させた。



「マッセ! マッセ! 防ぎマッセ!!」



 左右の腕を叩きつけるように三度振るう。



 ――バチバチバチッ!



 魔力の火花が散り、彼女の放った光矢が俺の目の前で消失した。



「はーッ……はーッ……!」



 息を荒げる俺の目の前に、三つのコインが回転しながら宙に留まっている。


 彼女が目を細めた。



「コインのスピンに魔力を共鳴させて、防御魔法相当の効果を引き出したの? ……一瞬で?」



 技の原理をサラっと見抜く辺は流石にエリート神官長である。


 魔法が使えない俺のコインを使ったオリジナル防御技「マッセ」、ビリヤードで言うところのボールにハイスピンをかける技術から名前を拝借した。


 肩を痛める可能性があるので初心者にはお勧めしない。


 かなり自信があるとっておきの技なのだが――



 ――シパァーン!



「あ」



 鞭が一閃し三つのコインをあっさり掻き消した。


 物理的衝撃には極めて脆い。



破魔矢(ホーリーアロー)!!」



 彼女を取り巻く残り六の光球が、再びの光矢となって襲いかかる、



「くっ、とっ、ほっ――」



 魔力を手に宿す聖なる拳(ホーリーブロー)で三つを迎撃、



「ぐはッ、ぐッ、おはァッ!?」



 しかし(えぐ)るような軌道の残り三つを体の各所に喰らった。



「驚いた……貰いながらでも、ちゃんと防御をしたのね」



 彼女が目を細めて微笑んだ。



「神聖魔法で人殺す気ですか……?」



 魔力出力が一瞬に偏った俺は、喰らう瞬間に魔力の発揮を合わせてやっと人並みに「魔法を喰らった負傷」になる。



 彼女の濃い魔力が撃ち出す魔法を生身のまま喰らえば、間違いなく心臓が止まる。


 喰らわないか適時に防御するかしか生き残る術がない。


 過敏な魔力中枢のデメリット、しかし過敏な感覚が幸いして致命打もなかなか貰いにくい。



 上手くバランスが取れているようにも思えるが――



「し、神経が……!」



 彼女のように濃い魔力を身にまとった人間と相対すると、威圧だけで疲弊をしてしまう。


 撃ち落とせなければ適時防御、出来なければ一発昇天、


 生死の掛かった瀬戸際の緊張感に神経が秒単位で磨り減っていく。


 消耗戦ではまず勝ち目がない。



 ――シバァーン!



「あいぃぃいやぁああ――ッ!?」



 気を抜いたところに鞭一閃、



 もちろん魔力による防御はしたが、彼女の魔力で作り出された魔法銀の鞭は動く死者(リビングデッド)も真っ二つの威力である。


 何より鞭というのは相当痛い。



「ふふふふふ……」



 「皮膚というのは弱点である」と、さる高名な僧侶が名言を残している。


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