一話 三十日前
博臣が朝起きてみると外がやや騒がしいことに気づいた。
今日は休日だし、のんびりくつろごうと思っていた博臣だが、やはりあっさりと崩れ去る。
「博臣! 大変だよ!」
「人んちの敷地にかってに入ってくんな」
縁側の方の扉が突然開き、中から彼の幼馴染の顔が飛び出した。
彼の家は大変広い。とはいえ農家の家のためいろんな所にボロが来てるが、彼の爺さんの形見の一つであり、博臣は感謝していた。。
「博臣! そんなことよりヨネさんが!」
「なにっ」
ヨネさんというのは近所に住む80歳のおばあちゃんのことだ。一週間に一回ぐらい、博臣に「お野菜余っちゃったのよ〜作りすぎちゃったー」と野菜をくれるため、博臣は彼女のことをしたっていた。
彼は今までにないほどの素早さで布団から跳ね起き、縁側から外に出た。
「ヨネさんはどこだ!」
「ち、ちがうよ博臣……ヨネさんの畑が……
崩れてきた土の下敷きに……」
(なに!? ヨネさんの旦那さんが作った美味しい作物が育つ畑が下敷きに!? あの美味しいきゅうりが食べられなくなるというのか!?)
このように彼は、今までにないぐらいおこっていた。何にか。それはこの世の理不尽にだ。
「ヨネさんが無事なのは本当に良かった……」
「そ、そうだね……」
塔子の顔がひきつっている。それもそのはず、幼馴染の塔子ですら博臣がここまで怒っているのを見たことがないからである。
「博臣。一回落ち着こ?」
塔子は彼を心配して声を掛ける。
それを聞いた彼はやっと我に帰った。
(別に俺がここでキレても、畑がどうにかなるわけじゃない……)
彼は落ち着きを取り戻した。
「うん、ありがと。塔子」
「うん。やっぱり博臣は冷静な方がいいよ」
「なんだよそれ、まるで俺がふだんから冷血みたいじゃないか」
「実際そうだもんね!」
塔子はそう笑った。
「うわ……これはひどいね……」
「そうだな」
作物が土の下敷きなっていた。今年はきゅうりは我慢しなければならないかもしれない。などと失礼なことを考えていたのは博臣である。
土砂崩れのようなものが起こったらしく、目の前の山が削れていた。
彼と塔子は、その崖に近づく。
「うわッ」
塔子がいきなりバランスを崩す。
「塔子足元注意しろ」
博臣は転びそうになった塔子の腰を支えた。
「……」
博臣は塔子がバランスを崩したあたりに何か光るものが見えた気がした。博臣はもう一度確認する。
「塔子」
「……」
塔子の方は気が気でなかった。幼馴染といえども異性に、あのように女の子扱いされてしまうとときめいてしまうのは仕方ないと必死で自分を説得していた。
「塔子!」
「は、はひ!」
「そこを少しどいてくれ、なにか埋もれてる」
「あ、ほ、ほんとだね」
塔子にどいてもらってから、彼はその場所に埋もれている何かを掘り返す。
「……氷剣?」
出てきたのは剣だった。柄の部分は固い金属でできており、皮で覆われているのだが、注目すべきは刀身の方だ。透けており向こう側が見える。
「なにそれ? 氷細工?」
塔子がその刀身に触れる。
「……全然冷たくないよ?」
「だろうな」
彼は純正の氷剣だろう、と彼は判断した。魔法で作られているため常温でも溶けることなく、形を保つことが出来る。
「ガラスで出来てるの?」
「いや、正真正銘氷だ」
「……また奴ら?」
「……違うと思う」
(保証はないがおそらく『奴ら』ではない。奴らはこんなピンポイントな魔法を使わない。)
「……博臣」
「なんだ?」
「また行くの?」
塔子が心配そうに彼に顔を向ける。
俺は答えた。
「ああ。もちろんだ」
彼がそう言うと、塔子の顔が一瞬曇った。塔子は顔を下に向ける。
実はこうしたことは一度や二度あったことではない。彼らはすでに不思議の世界に足を片っぽ踏み入れていた。その度、彼は塔子に秘密で事項を解決していた。
塔子は幼馴染だけに背負い混んで欲しくないと思っていた。
決心がついた彼女はもう一度顔をあげる。
「私もついていく」
博臣は自分の息が一瞬詰まったのを感じた。
「……塔子。駄目だ」
「やだ。否定されてもついていく」
塔子はむくれた。
「なんだか、いつか本当に博臣がいなくならないか心配なんだよ」
「……だけど」
「だけどもクソもないの!私は博臣についていく!」
塔子はそう言いつつ彼に指をさした。顔はいつもの笑みに戻っていた。しかし、彼の胸は内心それどころではなかった。
塔子を傷つけることは許されない。彼ははそう思い気を引き締めた。
「で、どうするの?」
「いや、しばらくは様子見だ。この氷剣だけじゃ何もわからん」
「……そんな事言って私の見てないところで色々しちゃヤだからね」
「……善処する」




