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肌色の邂逅

重厚な雰囲気を放つ生徒会室のドア。


一度覚悟を決めたにも関わらず、

俺はノックを躊躇ってしまう。


だがあのことが頭をよぎると、

嫌でもノックの手が動く。


俺はドアの真ん中を軽く2回叩いた。



が、中からの返答は無い。



今度は少しゆっくりと、

そして強くノックしてみる。


…………。


だがやはり何も返答がない。


おかしい。


この生徒会室には

確実に誰かいるはずなのだ。


ここに来る前に、俺は職員室に行った。


職員室内の鍵置き場。

生徒会室の鍵を引っ掛けるフックには

何もぶら下がっていなかった。

つまり誰かが、恐らくは生徒会関係者が既に鍵を持ち出していることになる。

そう、生徒会室が無人というのはありえないはずだ。


ノックをすればすぐに反応が来ると思って

身構えていた俺は、予想外の展開に少し困惑する。


しかしこのまま突っ立っていても仕方が無いので、俺は戸惑いながらも声を出して呼びかけてみることにした。


「あのー、すいませーん」


これまた全くの無反応。


誰もいないのだろうか。

もしかすると一時的に部屋を空けている

のかもしれない。となると、しばらくこの扉の前で誰かが戻ってくるのを待っているべきだろうか。


それが正解なんだろう。


しかし、もし中に人がいて

ノックと呼び掛けに気がついていない

だけだとしたら、

ドアの前で来もしない誰かを

待ち続けるというのは

ただの時間の浪費である。


……ちょっと中を確かめるくらいなら

罰はあたらないだろう。


自分のアグレッシブさに少し驚きながら

俺はドアノブを握り、ゆっくりと捻る。


ガチャリという音の後、

俺は数cmだけドアを引いてみる。

やはり鍵は掛かっておらず、

ドアはなんの抵抗もなく開いた。


ドアを少しずつ開けながら

ドアの隙間からそっと中を覗く。


わずかな隙間しかないので中の様子はよくわからない。ただ机がちょろっと見えるだけだ。


今のところ人影はない。


無人の可能性が濃厚になってきたので

俺はドアの隙間を一気に広げてみる。


室内の様子が一気に目に飛び込む。


まず目に付いたのは

ドアの正面の窓である。


と言っても窓自体が見えた訳ではない。


窓にはカーテンが掛けられている。


すごいのは窓の面積だ。


壁一面がカーテンで覆われていることから

窓も同じくらいの面積であることがわかる。


これはかなり大きいぞ。


少しだけ見えていた

机の全貌も明らかになる。


長机を4つ組み合わせて長方形が

形作られていて、

座れる人数は10人くらいだろう。


そして部屋の奥には

会長席である机と

それとセットの黒革の社長椅子がある。

生徒会室にはお決まりの代物だな。


生徒会室の外から生徒会室を粗方見回すも、やはり誰もいなかったので、

俺は部屋に足を踏み入れる。


数mほど歩いた所で、

俺は机の上に驚愕の品を発見した。


女子生徒のセーラー服とスカートである。


それらは綺麗に畳まれて

長机の角の方に置かれている。


室内が薄暗かったので

先程までは気付かなかった。


よく見ると、黒いセーラー服の上には、

これまた黒い女物の下着が乗っかっている。


なんともそそる光景だ。


これも男の性だろうか。

無人なのを良いことに、

俺はその衣類たちを間近から見つめてみる。


特に下着を。


黒いからだろうか、すごくエロい。

いや、黒だろうが白だろうがエロい。

とにかく下着はエロいのだ。


俺が下着に魅入られそうになった

その時だった。


バタンという音が背後で鳴り響く。


一瞬心臓が止まりかける俺。


俺は躊躇いながらも

恐る恐るドアの方に振り向く。


開放されていたはずのドアが

しっかりと閉じられている。


しかし問題はそこではない。


ドアの横。


ドアが開いている時は丁度死角になっていた

所に1人の女子が立っていた。


身長は160cmに届かないくらいで、

肩まで伸びた髪には

軽くウェーブがかかっている。


容姿は、一言でいえば童顔だ。


小動物のような小顔で

美人というよりは可愛らしい印象を受ける。


全体的にリスのような雰囲気である。


そして、そのクリクリとした瞳で

俺を睨みつけている。


「何用なのだ、一般生徒よ」


そいつは凛と澄んだ声で

俺に問い掛けた。


「……………………」


俺が絶句したのも無理はない。


俺はかなり当惑していた。


何せ見るのは初めてだったのだ。



そう、女の子の全裸を見るのは初めてだ。



その子は素っ裸の状態で

背中から壁にもたれかかっている。


故意かどうかは不明だが

腕を組み、両脚を交差させながら

立っているので

大事なところは見えない。


とはいえ、

いきなり免疫のない光景が

眼前に広がったのだ。


俺は茫然自失である。


「おい、質問に答えないか」


全裸の女は終始冷静だ。


俺はどうするべきなんだろう…


ここはごく自然に

話を切り出すべきなのか?


……………………。



いやどう考えても

全裸の件を処理する方が先だろう。


たがしかし、

俺はテンパってしまう。


「あっ、え、っと…」


思うように言葉が紡げない。


「いい加減にしないか。

いつまで待たせる気なのだ」


お前が裸だから焦ってるんだよ。


ていうか、

なんでこんなに上から目線なんだ。


全裸女はなおも続ける。


「突如生徒会室に押し入り

人の呼びかけにも答えない、

生徒会長である私に向かって

礼儀を弁えないその態度は何事だ!」


なんだこの理不尽は。


会話が始められないのは

明らかにこの露出狂のせいなのに。


生徒会長であったとしても

この横暴は許されないだろ。


こみ上げてくる怒りで

焦りが薄れてきた俺は

相手が裸なのも忘れて反論を始める。


「俺はきちんと2回ノックをした。それに入る前に声も掛けた。それに対して返事をしなかったそっちが悪いだろ」


俺の反論に

生徒会長はメンチを切って応えた。


可愛らしい顔面に似つかわしくない

鋭すぎる眼光に俺は一瞬たじろぐ。


しかし俺は負けじと再び言葉を重ねる。


「まあ確かに勝手に入ったのはいけなかったかもしれない。だがそんなことよりもお前のその格好は何事だよ!」


俺は現在、

初対面かつ素っ裸の女の子に

全力でツッコミを入れている。


うん、凄い違和感だ。


俺の怒声を受けて

生徒会長は改めて口を開いた。


「この生徒会室は何人も侵してはならない

私のプライベート空間だ。その中で

私がどんな格好をしようと私の自由だ」


「今その敷地内には善良な

一般生徒がいるんだよ」


裸のまま人と話をするなんていう文化は

日本には存在しない。

禁止されていると言ってもいい。


「だがお前は不法侵入者であろう。

犯罪者の分際で偉そうなことを言うな」


「犯罪者はお前だ露出狂!」


よくその格好で言えたもんだな。

猥褻物陳列罪だぞ。


俺のツッコミを受けて、

生徒会長は「ふむ」と考え込む。


一応は納得したのだろうか。


「そう言われれば確かに、私はお前に裸を見せつけている犯罪者なのかもしれない。だが物事には決まって複数の側面が存在するものだ」


「複数の側面?」


「そうだ。1つの見方だけでその物事をわかった気になるのはいけない。私のこの露出も見ようによれば自己表現だ」


「危険思想にも程があるわ!」


『露出は自己表現である』なんて

危ない宗教団体でしか耳にしない言葉だ。


生徒会長の思想は置いておくとして、

とりあえず今の状況を何とかしなければ。


裸の女と対話を続けるのは

俺の精神衛生上よろしくない。



このままでは

何が起こるかわかったもんじゃない。



という訳で俺は強行策を

決行することにした。


「とりあえずお前には着衣をしてもらう」


手元の制服を掴みとり、

全裸女へゆっくりと接近していく。


無理やり服を着せにかかることにした。


「や、やめないか!」


先程の威圧感はどこへやら、

俺の威勢に気圧されて

露出狂はじりじりと部屋の角へと後ずさる。


「お嬢ちゃん大人しくしてもらおうか」


俺はセーラー服とスカートを片手に、

危ない目付きで全裸の女に接近し、

動きを封じ込めにかかる。


字面だけでは俺が犯罪者のようだが

事実はそれと真逆の状況であることを

どうか理解して欲しい。


そして俺はついに全裸の生徒会長を

コーナーに追い詰める。


まずは胸を隠そう。


そう判断した俺は、

上半身を覆い隠すため、

セーラー服の裾を広げて

頭から被せる体勢をとる。


誤解がないよう言っておくが、

この女が全裸であるとはいえ、

俺は大事な部分だけは

決して見ないようにしている。


俺がそう言っているのだから

誰であろうと反論する余地はないのだ。


そして俺は生徒会長の真正面に回り込み

完全に逃げ道を塞ぐ。


俺と生徒会長は互いの視線をぶつけ合い、

1mの間隔で対峙する。



セーラー服を手に構える高校生vs露出狂。



恐らく人類史上初の対戦カードだろう。


張りつめる緊張感の中、

対決の火蓋を切って落としたのは

俺の方だった。


「覚悟ぉお!」


素早い動作でセーラー服の裾を

生徒会長の頭にダンクしにかかる。


俺の初動が速かったのか、

生徒会長はほとんど反応できず、

あっさりとダンクは決まった。


「もふっ!」


意外と可愛らしい呻き声を上げる生徒会長。


袖に腕は通っていないものの、

生徒会長の上半身はセーラー服によって

完全に覆われる。


しかし生徒会長の激しい抵抗は続く。


釣り上げられた魚のごとく

身体をバタつかせる生徒会長。


ついには、

俺への罵声まで飛んでくる始末だ。


「やめろ!このレイプ魔め!」


言われが無いにもほどがある。


「レイプ魔になりたくないから

こんなことしてるんだよ!」


生徒会長が騒いで油断している隙に

俺はスカートの着衣を試みる。


スカートを穿かせるには

生徒会長に足を上げてもらわねばならないが

その際に俺の眼前には

かなり危険な光景が広がることだろう。


そこで俺は

『大事な部分を見ないようにしながら

スカートを穿かせる』という

およそ人間業ではないスキルを発動。


俺の中にここまで限定的なスキルが

眠っていたことは、

つい数秒前まで俺ですら知らなかった。


スキル発動には成功したものの、

激しい足蹴りを喰らって

なかなか完全に穿かせられない。


「おい暴れるんじゃねえ。

もうちょっとなんだからよ」


「この状況でそのセリフを吐くとは、

やはりお前は悪質な性犯罪者なのだな!」


「俺は善良な一般生徒だよ!」


「貴様が私を犯すなど100億年早いぞ!」


「もうなんでもいいから

とりあえず服を着てください!」


必死のあまり思わず敬語になる俺。


もうなんかどうでもいいや。


これから小一時間ほど小競り合いは続き、

精魂尽き果てる俺だった。




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