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謎の女性との再会

「おい、平気か?」

「ああ」

 健一が心配そうに声をかけると、光一は苦笑した。光一は頭をなでながら、雪を見る。

「川原、大丈夫か?」

「平気よ、これくらい。それより……」

 魔物との戦闘が終わり、雪たちはようやく一息つくことができた。光一と健一がその場に座り込み、雪は木にもたれかかっている。そして休んでいる中で、気がついた。光一と健一はいるが、いるであろうもう一人がいない。

 雪は誰にともなく問いかけた。

「シェルファはいないの?」

「ああ。途中で離れちまったんだ」

「お前のせいだろ」

 光一が言うと、健一が彼を睨みつける。

「一緒にいたのに、突然走り出したんだから」

「悪い悪い。でも川原が見つかったんだからいいだろ?」

「今度はシェルファとはぐれたんだ。お前、もっと周りを見ろよ」

 光一と健一のやりとりを聞き流しながら、雪はため息をついた。手首が痛む。雪は全身についた土を払う。

「手、大丈夫か? あとでシェルファに見せとけよ」

 光一が雪に近づき、手首を覗き込んだ。雪は手を背中の後ろに隠す。

「ん? 誰だ?」

 健一が一方に目を向けた。

「誰だ、あいつ。俺たちを見てるみたいだけど」

 健一は雪と光一に視線を移し、ある方向を指しながら「知っているか?」と聞いてきた。

「知らないな。誰だ?」

 雪も二人が気にしている存在に目を向けた。相手は自分から五メートルほど離れた位置に一人で立っていた。そして真っすぐに雪たちを見つめている。

「あなたは……」

 黒いワンピースを身に纏い、真っすぐな黒い髪の女性ーーそれは町で出会った彼女だった。

「俺たちに何か用か?」

 健一が不審そうに話しかけるが、町にいた時と同様に何も言わない。

「おい、何か用なのか?」

「こんにちは。俺、井上光一っていうんだ。もしかして俺の顔に何かついているのか?」

 しかし町でのことを知らない健一と光一は、次々と色々なことを口に出している。

 女性はノートを手にしていて、そこに何やら書いている。

「おい、書いてないで何か言えよ」

 健一がむっとした様子で詰め寄ると、女性はノートを破り健一に突き出した。健一は内容を確認し、困惑顔で光一たちの元に戻ってきた。

「どうした?」

「これ、読めるか?」

 健一は持っている紙を差し出し、光一は中身を開いた。

(どうせ、読めないわよ)

 そんなことを思っていると、案の定、光一はかぶりを振った。

「魔物にぶつけたときみたいに、ノートに浮かび上がった文字ならな……」

 光一はずっと握りしめているノートを一瞥する。

「なあ、読めないんだけど。何て書いたんだ?」

 健一は再び女性に近づいた。

「聞こえてるのか?」

「無駄よ。その人、声がでないみたいだから」

「え、そうなのか?」

「ええ。そうよね?」

 雪が聞けば、女性は悔しそうに頷いた。彼女は再びノートに何か書き、ページを破った。

「……何が言いたいんだ?」

 光一は新たな紙を手にすると、紙を見つめて困惑する。

 女性は口をもごもごと動かし、何かを伝えようとしている。しかし口の動きだけで内容を理解することはできず、相手の意思は伝わらない。

 女性は歩き出し、光一に近づいた。そしてその手を彼のノートに近づけた。

「おい、危ないぞ!」

 健一は後ずさった。雪もその言葉の意味を理解し、後ろへ下がる。女性の後ろに、魔物がいるのが見えたのだ。

「うわ、またかよ。なあ、とりあえず逃げようぜ」

 光一は女性に言うが、相手は逃げようとしない。

「おい、マジかよ……」

 健一は後ろを向くと、その場に立ち止まった。何事かと思い雪も同じ方向を見る。すると前だけでなく後ろにも、魔物の姿があった。自分たちの左右には木が生えていて、その間を通り抜ける事はできそうだが、人に踏まれないそこは足場が悪いだろう。

 前後にいる魔物はその場から動かず、雪たちの様子を窺っているように見えた。襲っては来ないものの、それらからは明らかに雪たちへの敵意が感じられた。

 女性は後ろにいた魔物に身体を向けると、そのまま歩き出した。魔物に自ら近づく女性を、光一は危ないと言いながら引き止めようとするが、彼女は聞かない。

 女性は魔物の横に立つと、魔物の頭に触れた。その目を見ながら、静かに首を振っている。

「……何だ?」

 光一は怪訝な顔をし、その光景を見つめている。

「……あら」

 雪は少し前へ進んだ。危ない、と言う光一を無視して近寄る。まだ魔物たちと距離がある状態で、足をとめた。敵意を向けていたはずの魔物の表情は穏やかになっていたのだ。

「魔物が落ち着いてる?」

 健一は目を丸くし、前後の魔物にとにかく視線を向けている。

「本当だ。何したんだ?」

 光一は女性に聞いたが、彼女は何も答えない。声がでないのだから、当然である。

「よく分からないけど……襲われる事はなさそうだな。ありがとな」

 女性は光一を見た後、彼の手にあるノートをじっと見据えた。

 雪はびくりとした。一体の魔物が突然雄叫びをあげ、雪たちに向かってきたのだ。すぐさま女性が近づき、雪の前に立つ。魔物は動きを止めた。女性はその魔物の頭を撫で、首を横に振っている。

「……何?」

 雪は状況が飲み込めないまま、その様子をただ見つめていた。それは明らかに魔物をなだめようとしているようだった。

「雪、光一、健一! どこですか?」

 その光景に目を奪われていると、突然声が聞こえ、雪は我に返った。それは聞き覚えのある声で、いち早く健一が反応する。

「シェルファの声だ」

 健一と光一が声のする方へ向かう。それとは逆に女性は逆方向へと歩き出した。

「どこ行くのよ」

 雪は聞いたのだが、彼女は答えずに去ってしまった。

「……何なのよ」

 意味が分からない、女性の去った方向を眺めながら雪は心の中で呟いた。

「三人とも無事で何よりです!」

 その後、シェルファがやって来た。雪を除く三人はお互いに顔を見合わせ、言葉を交わしている。

 シェルファは雪にも顔を向ける。

「雪も、無事だったんですね。あら、どうしたんです?」

 シェルファは雪の制服に目を丸くし、はたきはじめた。

「何でもな――」

「さっき魔物にあっちまったんだ。それに川原が襲われて……」

「え、大丈夫だったんですか?」

「大丈夫よ」

 余計な事を……雪は心の中で光一に文句を口にする。

「あ、そうだ。光一、さっきのやつ」

「さっき?」

 健一が光一に手をだすが、彼はぴんとこないらしく首を傾げている。

「ほら、あの人が……」

「あの人って、誰ですか? 何かあったんですか?」

 合流したばかりのシェルファは不思議そうな顔をし、健一に問う。

「ああ。さっき知らない女の人に会ったんだ。何か言おうとしたみたいなんだが、声がでないみたいで……かわりに何か書いた紙を。ほら、光一」

「これだ」

 光一が文字を上にした状態で、紙をシェルファに渡した。シェルファは静かに受け取り目を通していたが、徐々にその表情が歪んだ。

「これを渡したのって……どんな人でしたか?」

「黒くて長い髪をした女だ。服も黒かった」

「……あの人」

 シェルファは紙を握りしめた。くしゃくしゃになったそれをその場に落とす。

「知ってるのか?」

「……おい、どうしたんだ?」

 紙を拾った光一と健一が続けて聞くが、シェルファは黙っている。

「あいつ、何て書いたんだ?」

 いつもと違う雰囲気を感じたのだろう、健一が恐る恐る彼女に再び質問した。するとシェルファは冷たい目つきで答えた。

「イレイザーの邪魔をするなとありました。あの人はイレイザーの手下なんです」 

 シェルファはきっぱりと言い放つと、さらに続ける。

「三人とも、よく聞いてください。今度あの人に会ったら、すぐ私に教えてください。それからすぐにその場を離れてください。あの人が何を言っても、信じないように。分かりましたか?」

 雪は首を動かし、女性が歩いていった方向を再度見た。あの女性がイレイザーの手下……何だか微妙な気持だった。前回、町で会ったとき、彼女は悲しそうな顔でいなくなった。その顔が思い出される。

「ああ。悪い奴の手下が言う事なんて信じねえよ」

 光一は素直に了解した。

「分かってる。関わらないようにするよ。ただ、誰かさんは勝手に動くかもな」

「雪、あなたも……分かりましたね?」

「……あの人、本当にイレイザーとかいう人の手下なの?」

 シェルファに視線を向けず、雪は独り言のように呟いた。

「お前、シェルファを疑うのか?」

 健一の声の調子から、苛立っているのが感じられた。

 雪はシェルファ達を向いた。

「いきなりのことで混乱してるんですよね? 魔物とは違い私たちと変わらない姿をしているから、無理もありません。ですが覚えていてください」

 シェルファは一息ついた。

「あの人はイレイザーの手下です」

 言葉を言い切る前に突風が吹き、四人の髪を揺らした。雪は目にかからないようにしようとするが、全ては防ぎきれない。雪は髪を押さえてシェルファを見たが、彼女の表情は乱れた髪で隠れてしまっていた。


見てくれた方、ありがとうございました。

まだ続きますが、これからもよろしくお願いします (^_^)

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