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雨あがり

 昨日は着替えをすると、食欲がないと言って布団に入った。その言葉は嘘と本当が半々であある。そして翌日、雪は目を覚ました。

「おはようございます」

 雪が身体を起こすと、振り向いたシェルファが笑いかけてきた。

「昨日はびしょぬれでしたが、具合はどうですか?」

 シェルファは言いながら雪の額に手を近づけた。雪はそれを乱暴に払い、ベッドからでた。一度咳をしてから、着替えを始める。

「大丈夫ですか?」

 シェルファが心配そうに声をかけてくるが、雪は咳をしただけだ。

 シェルファと雪は無言でそれぞれのことをする。雨音を耳にしながら、雪は寝間着を脱いだ。その瞬間身震いし、急いで椅子にかけられた制服を手に取った。しかしまだ湿っており、仕方なくシェルファが用意した長袖のワンピースを急いで身にまとう。

 扉を叩く音が響いた。

「シェルファ、用意終わったぞ」

 部屋の外から聞こえたのは健一の声だった。彼はシェルファの許可を得ると、遠慮がちに扉を開いた。

「おはようございます。……光一は一緒じゃないんですか?」

「おはよう!」

「一緒でしたか。おはようございます」

 光一は健一とは対照的に、ずかずかと部屋に入り込んできた。

「川原もおはよ。あれ? 今日は服が違うな。なんか、新鮮だな」

「……おはよ」

 雪は急に感じ始めた身体の重さに気づかないふりをし、ぼんやりとした瞳で答えた。

「え?」

 健一が目を見開いて雪の顔を凝視した。それに対し嫌悪を示せば、健一は彼女から目をそむけた。

 雪は立っているのがきつくなり、壁にもたれた。視界がぼやけている。

「大丈夫か? おい、しっかりしろよ」

 光一に心配されているのは分かるが、何かを言う気力などなかった。

「雪、やっぱり体調悪いんですね」

 雪の額にシェルファの手が触れる。その手はとてもひんやりとしていた。雪は声を出すのもおっくうで、ゆっくりと首を横に振る。

「無理しないでください。今日も雨は降っていますので、村に留まる予定ですから。休んでください」

「雨の中話してたからだろ。自業自得だ……なんで光一は平気なんだ?」

 健一は冷たく言っていたが、やがて光一の元気を不思議に思ったらしく、彼を見た。

 何でだろうな、などと言っている光一の側で、雪は咳をしつつ呟いた。

「馬鹿は、風邪ひかない」



 翌日、雪の体調も多少よくなり、雨もやんだ。そこで一行は朝に村を出発した。雨はやんだとはいえ、地面には水たまりができているし、そうでない場所も濡れている。雨に濡れた葉は揺れる度に水滴を落とす。そんな中、雪達は歩いていた。

「うわ、変な鳥がいる!」

「あれはペロロという鳥ですね。頭が二つあるだけで、普通の鳥ですよ」

 光一の言葉にシェルファが答えた。雪はただ空を見上げ、ペロロなる鳥を目に入れる。

 それからまたしばらく時間が経過した。

「あ、すごいな。ペロロとか言うのが大量にいるぞ!」

「……気色悪いわね。そんなことわざわざ言わないでよ」

 雪は空を正方形に並んで飛んでいく鳥の大群を見て、顔をゆがめた。

「そんなに気色悪いか?」

「ええ。気持ち悪いわ」

「そうかな。結構面白いと思うけどな」

「趣味悪いわね」

「雪は鳥が嫌いですか?」

 シェルファが聞いてきたが、雪は無視して歩き続けた。その後も話しかけられることはあっても積極的に答えはしなかったが、時々光一に対しては素っ気なく答えたこともあった。

 それから時が経ち、空腹を感じ始める時間となった。

「そろそろ休憩しましょうか。もうすぐお昼ですし、ご飯も食べましょう」

 シェルファは言いながら、地面に布をしき、その上に腰を下ろした。近くには川が流れていた。

「そうだな。飯はあるのか?」

「光一、向こうにあるものが見えますか?」

 シェルファが指差した方向に光一は目をやった。

「ん……? 何か小さいけど、赤とかオレンジの丸が見える。木の実か?」

「はい。あれは私たちの胸ぐらいまでしかないですが、大人の木です。あの実、おいしいんですよ。ここ通ると決めた時から、お昼はあれにしようと決めてて」

「そうか。じゃ、早速とりにいこうぜ!」

「お前、元気だな……」

 健一はくたくたらしい。

 雪は近くを見渡し、適当な場所に座り込んだ。まだ疲れがたまっているような気がし、ずっと座っていたい気分だった。ぼうっとしていると、たまたまシェルファと目が合い、雪は顔を背ける。

「じゃあ、光一行きましょうか。健一と雪は休んでいてください」

「え? でも……」

「いいんですよ。疲れがたまっているみたいですから」

「でも、二人に任せるのは悪いし」

 健一は疲れた様子を見せつつ、立ち上がった。

「大丈夫です。それより、雪がまだ病み上がりで体調も万全ではないみたいですから、見ててほしいんです」

「え、でも……」

 先程まではシェルファへの遠慮だったらしいが、今度は困ったような顔を始める健一。

「お願いします」

「さっさと行きなさいよ。私は、一人で平気なんだから」

 雪は愛想の欠片もなく、告げた。

「ほら、川原もこう言ってるし」

「健一、お願いします。私は光一と行きますので」

「あ……」

「おい、早く行こうぜ! 腹へって死にそうだ」

 光一が手招きし、シェルファは小走りで駆け寄った。健一は交互に雪とシェルファに目を向けていた。

「じゃ、二人とも休んでろよ」

 光一は雪に近づくと、無理するなよと言ってきた。光一は普段通り、愛想がいい。

「……さっさと行きなさいよ」

 雪は光一を横目で見てから、ぽつりと呟いた。

 シェルファと光一は遠くに見える木に向かって歩いていった。健一はどうしようかと悩んでいたみたいだが、やがて渋々その場に腰を下ろした。雪と健一の距離は離れている。

 雪は空を見上げた。昨日は一日中雨が降り続けていたが、今は嘘のように晴れ渡っている。これといった目的もなく顔を動かしていると、健一がちらちらと自分を見ているのに気がついた。彼は何か言いたげにしているが、決して声をかけようとはしてこない。雪はそれを無視する。しかし視線を感じ続けているうちに不快になり、雪は面倒くさそうに話しかけた。

「何? 何か用?」

「別に何でもねえよ」

「だったらじろじろ見ないでよ」

 健一は、一度は雪から目をそらしたが、すぐに彼女を見るのを再開した。雪は先程よりも苛立った様子を見せる。すると彼は視線をそらすが、少したてばまた彼女をじろじろと見る。それを繰り返すこと数回、雪も我慢がならなくなってきた。

「何? 言いたいことあるなら言いなさいよ」

「……何かあったのか? 光一と」

 健一は非常にためらっていたが、ぼそりと聞いてきた。

 雪は一度目を見開いたが、すぐに平静を装う。

「なぜ? 何もないわよ」

「そうか? でも一昨日から……」

 一昨日は雪が光一の正体を知った日だ。それだけで雪はどきりとする。

「何よ」

「一昨日から何か違和感あるんだ。光一はこれといっておかしくないが……何て言うんだ? 何となく光一に対する態度がちがくないか?」

「……同じよ」

「でも……」

「何もないわよ!」

 雪は声を荒らげた。

 健一は怪訝な顔をしていた。しかしさらに何かを言うことはせず、ちらちらと雪を見るだけに戻った。

「二人ともとってきたぞ!」

「おいしい果物ですよ」

 シェルファと光一は腕に抱えた果物を地面におろした。遠くで見た時から感じていたことだが、果物は予想以上に小さかった。雪の目に映るのは色とりどりの丸い実だった。大きさはゴルフボールくらいだ。

「これを二つに割ると……」

「うわ、穴ぼこだ」

 健一が驚いたように、中はぎっしりと身がつまっているどころか所々に穴があいていた。

「見た目はともかく、味は保証しますよ。そうだ、冷やすと味が変わるので冷やしましょうか。今日は川の流れが速いみたいですね」

 シェルファは地面に穴を掘ると、川の水の一部が浮かび上がり穴に入ってきた。シェルファ曰く、魔法を使ったらしい。シェルファはすぐに一部の実を水に入れた。

「食っていいか? いただきます!」

 光一がいち早く実を掴むと、口に放り込んだ。彼は満面の笑みで上手いと主張する。

「ほら、川原も食えよ」

 光一は地に置かれた果物を一つ手にとり、雪に差し出した。それは光一が食べたのと同じ色の実だった。

 雪は渡された実を少しの時間見つめてから、一口かじった。

「な、おいしいだろ?」

「……ええ。でも、甘いわね」

 雪はぽつりと感想を述べる。もう少し甘さのない方が彼女の好みだ。

「どのくらい甘いんだ?」

 健一が心配そうな目で雪に聞いた。しかし雪は何も言わず、次の実を手にしようとした。

「おい、どのくらい甘いんだよ」

「甘さはこの前パンに塗ったジャムくらいです。あ、これは苦めの実ですよ」

 雪のかわりにシェルファが別の色の実を健一に手渡した。

 雪は甘い実とは別の色を選び、また口に含んだ。少々すっぱく、レモンによく似た味だった。シェルファと健一は互いに顔を見合わせ、首を傾げている。光一は二人の態度を意に介さず、目についた果物を次々と雪に見せては勧める。

「ふう、上手かったな」

「あ、冷やしておいた果物もそろそろ食べごろですよ!」

 満足げに寝転がった光一をよそに、シェルファはふと思い出したように水の入った穴を指差した。すると光一はすぐさま起き上がり、穴に近づいた。思い切り手を突っ込み、両手に果物を載せて帰って来る。

「結構冷えてるな」

「夏なんかは特においしく感じるんですよね」

 光一はそれらを適当に分配した。途中で健一が甘いものはいらないと文句をいい、苦みのあるものと交換していた。

「雪も食べてくださいね」

「冷やすとアイスみたいで上手いぞ。それにさっきのより甘くないし」

 光一の言葉とともにひやりとした感触が頬に伝わり、雪はびくりとした。光一は笑っている。雪は黙ってそれを受け取ると、口に入れた。舌に甘みが伝わる。嫌いではないその味を、雪は飲みこんだ。

 それから食事を終えた四人は、まだそこで休憩していた。雪の体調がまだ気にかかる、というのがシェルファの言い分だ。

「それで、次はどこにいくんだ?」

 その場に座り込み、シェルファに目を向けて健一が問う。

「とりあえずこの川沿いに歩くと、途中に橋が見えます。それを渡って少しすると村があるので、そこに行こうと思っています。どうですか?」

「この世界のことはよくわかんないから、シェルファに任せるよ」


15話か。これ、終わるのかな……。

多分、完結したら一回見直して、改訂版作ると思います(汗)

目指せ完結。

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