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さようなら。元婚約者様

作者: 雨夜
掲載日:2026/09/16


婚約破棄のあと、立て続けの不幸に見舞われた殿下は、王太子の地位を廃嫡される。



私が携わっていた公務や殿下のお仕事であった宮廷の運営管理に、少なからず影響があったのでしょう。



その後の彼の噂は、風の便りに聞きました。



王家を離れ、『元王太子』の肩書きが通用するところだけでのさばり、もはや過去の見栄だけの虚栄すら失くされたと。



けれど未だに、元王太子の豊かな暮らしだけは身に染みているそうです。



しかしながら、王家から追放された彼にとって、手元にある金貨だけではそう長くは持たないでしょう。



きっとこのままだと、破滅の道に進んでしまう。



彼自身、わかっていたことだと思います。



彼は国境を超え、隣国の貴族に取り入りました。



けれどいくら隣国とはいえ、王太子の廃嫡を貴族が知らないはずもなく、すぐに身元が判明して追い出されたようです。



もはや元王太子の肩書きはおろか、虚栄や、ないよりまし程度の品格すら失った彼には、嘘すらも纏うことができなくなっていました。



もう、彼に残された手段は一つでした。

 


「……久しぶり、だな」



目の前に立った彼は、随分と痩せていました。


血走った目の下の隈。


頬の痩けた輪郭。


薄い紫色に染まった唇。



あの頃の彼とは、似ても似つかないほどに。

 


「……やり直したい……」



一縷の望みとはまた違う、うわ言のような言葉にも聞こえた。



叶うはずもない。

けれど、言わなければ来た意味もない。



様々な葛藤があったのでしょう。私からの返事を待たずに俯いてしまいました。



「オルウェル様」 



息を吐くよりもほんのわずかに強く発した彼の名前、彼は希望の光を見たような眼差しでこちらに顔を上げました。



けれど私は、その光にそっと蓋をするように、彼に背中を向けた。



「どうか、そのまま散ってください」



音がした。


ドサッというような崩れる音が。



私は振り返らない。



もうすべて過去のことであり、私はあの日から前を向くと決めて生きている。



さようなら、元婚約者様。

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