9.魔力の検証(後編)
「――キスリンク」
リゼットの声が、森の中に静かに響いた。
レオンは呆れたように眉をひそめる。
「……なんだその名前」
リゼットは肩をすくめた。
「分かりやすいでしょ」
エリシアは小さく俯きながらも、こくりと頷く。
「……た、確かに」
レオンはため息をついた。
「まあ……分かりやすいけどさ」
リゼットは満足そうに笑う。
「で、このキスリンク、まだまだ分からないことが多い」
エリシアが顔を上げる。
「検証、続けるんですね」
「当然」
リゼットは即答した。
「ここからが本番よ」
⸻
「まずは時間ね」
リゼットは指を立てる。
「さっきは一瞬だけだった、なので次はキスの時間を少し長くやってみる」
レオンが顔をしかめる。
「……お前な」
エリシアは一歩下がる。
「え、えっと……」
リゼットはエリシアを見る。
「エリシアからやるわよ、神聖魔法の方が変化分かりやすいでしょ」
エリシアは一瞬迷った。
だが、小さく頷く。
「……はい」
レオンが息を吐く。
「分かった」
再び距離を詰める。
今度は――少しだけ長く。
唇が重なる。
一瞬ではない。
数秒間、エリシアの体に明確に魔力が流れ込む。
「……っ」
エリシアの口から思わず息が漏れる。
魔力が膨れ上がる。
やがてレオンが離れた。
エリシアはふらりとよろめく。
「おい、大丈夫か!」
レオンが支える。
エリシアは目を閉じ、ゆっくりと息を整えた。
「……はい」
だが頬は赤く、呼吸も少し荒い。
「さっきより……ずっと強いです」
リゼットが頷く。
「やっぱりね、時間が長いほど、供給量が増えてる」
レオンが眉をひそめる。
「……でも、今ちょっと危なかったぞ」
エリシアは小さく頷く。
「少し……体がついていけていない感じがします」
リゼットが指を立てる。
「はい、これ重要、供給される側にも限界がある」
レオンは腕を組む。
「無理にやると危ないってことか」
「そういうこと」
⸻
「じゃあ次」
リゼットが言う。
「私でも同じことやる」
レオンがため息をつく。
「はいはい……」
再びキス。
今度はリゼット。
同じように数秒。
そして離れる。
「……ふぅ」
軽く息を吐く。
エリシアほどではない。
だが確かに魔力は増えている。
「こっちも同じね、でも――」
リゼットは少し考える。
「エリシアより安定してる」
レオンが首を傾げる。
「どういうことだ?」
リゼットは言った。
「アンタとの相性、私とエリシアで違う」
エリシアが驚く。
「相性……?」
リゼットは頷く。
「私は安定してる、エリシアは爆発的」
エリシアは自分の手を見つめた。
まだ微かに震えている。
「……確かに、さっきの力は……少し怖かったです」
レオンは黙る。
その言葉が胸に刺さる。
だがエリシアは顔を上げた。
「でも、嫌じゃありません」
レオンが目を見開く。
エリシアは微笑む。
「守るための力ですから」
リゼットが小さく笑った。
「ほんと、エリシアらしいわね」
⸻
「で、最後」
リゼットが言う。
「これ試したい」
レオンが嫌な予感を覚える。
「……何だ?」
リゼットはニヤリと笑う。
「連続」
「連続?」
「そう」
リゼットは指を動かす。
「エリシア、私の順番でやる」
エリシアが驚く。
「えっ!?」
レオンは頭を抱えた。
「ちょっと待て、何する気だ」
リゼットは当然のように言う。
「決まってるでしょ、流れを繋ぐのよ」
その目は真剣だった。
「アンタの魔力、一人に流すだけじゃない、私達の魔力を繋げられるかもしれない」
レオンは息を吐く。
「……分かった」
エリシアの前に立つ、一度キス、すぐに離れる。
そして――リゼットへ、もう一度キス。
その瞬間だった。
リゼットの表情が変わる。
「……!」
空気が震える。
エリシアも感じた。
「これ……!」
三人の間で、魔力が繋がる感覚。
流れが切れていない。
「やっぱり……!」
リゼットが笑う。
「繋がってる!」
レオンが息を呑む。
「なんだ、これ……」
エリシアが呟く。
「三人の魔力が……」
「一つになりかけています」
リゼットの目が輝く。
「面白いじゃない、これ、ちゃんと使えれば――」
言いかけて止まる。
そして笑う。
「とんでもないことになるわよ」
森の風が吹く。
三人はまだ知らない。
この力が、どれほどの可能性を持つのかを。
だが確かに、一つだけ分かっていた。
この力は――三人で使うものだ。
その先にあるものは。
まだ、誰にも分からない。




