5.魔剣将
リーベル村の森は、昔と変わらないように見えた。
高い木々。
差し込む木漏れ日。
鳥の鳴き声。
だが、三人はすぐに違和感に気付いた。
「……静かすぎる」
レオンが呟く。
エリシアも周囲を見渡す。
「確かに……」
普段なら小動物の気配がある。
だが今日は、それがない。
リゼットが言う。
「でも……いるわ」
そして、草むらが揺れた。
現れたのは――
ゴブリン。
一体ではない。
二体、三体……
さらに奥から、まだ現れる。
「多いな」
レオンは剣を抜いた。
エリシアが言う。
「気をつけてください」
リゼットは指を鳴らす。
「久しぶりね」
ゴブリンが一斉に襲いかかる。
⸻
レオンが前へ出る。
剣を振るう。
一体、二体。
正確な剣筋で倒していく。
だが。
「まだ来る!」
リゼットが炎を放つ。
火球がゴブリンを吹き飛ばす。
エリシアも神聖魔法を展開する。
浄化の光が、魔物を消していく。
倒しても倒しても、奥から現れる。
レオンが眉をひそめる。
「……多すぎる」
その時だった。
空気が変わる。
森の奥から、ゆっくりと足音が聞こえた。
コッ……コッ……
軽い足音に聞こえるが、その足音からは只者ではない空気が漂っている。
そして、木々の奥から現れた。
長い黒髪。
鋭い赤い瞳。
そして――
額の横に、小さな角。
長いマントを揺らしながら歩いてくる男。
その腰には、一振りの剣。
リゼットが小さく呟く。
「……魔族」
エリシアの顔が強張る。
「違います」
声が震える。
「これは……」
レオンも理解した。
学院で何度も聞いた名前。
魔界ノクスヴェリア。
その頂点に仕える存在。
七魔将。
男が言った。
「なるほど」
静かな声だった。
「人間にしては悪くない」
赤い瞳が、三人を見つめる。
「特に」
その視線がレオンに止まる。
「お前だ」
レオンが剣を構える。
「……何者だ」
男は答えた。
「七魔将」
少しだけ間を置く。
「第二魔将」
そして名乗る。
「魔剣将ヴァルディス」
⸻
空気が凍る。
レオンは踏み込んだ。
考える余裕はない。
先に動かなければ死ぬ。
剣を振るう。
だが。
ヴァルディスは動かない。
カンッ……
軽い音。
レオンの剣は、簡単に止められていた。
ヴァルディスの剣が、わずかに動いただけだった。
レオンの目が見開く。
速い。
見えない。
次の瞬間。
レオンの体が吹き飛んだ。
「レオン!」
エリシアが叫ぶ。
リゼットが魔法を放つ。
炎と風の連続魔法。
だが。
ヴァルディスは片手で剣を振った。
魔法が――消える。
リゼットが驚く。
「な……!」
ヴァルディスは言う。
「魔力の使い方が粗い」
そして、レオンを見る。
「だが」
少し目を細めた。
「お前の魔力」
不思議そうに言う。
「人間とは思えん量だ」
レオンが立ち上がる。
ヴァルディスはしばらく見つめた。
そして、剣を鞘に収める。
三人が警戒する。
だが。
ヴァルディスは背を向けた。
「興味はある」
そう言う。
「だが」
森の奥へ歩き出す。
「今日はここまでだ」
レオンが叫ぶ。
「待て!」
ヴァルディスは止まらない。
最後に振り返る。
赤い瞳が、レオンを見た。
「強くなれ」
静かに言う。
「その剣では」
少し笑った。
「魔界には届かん」
そして、姿が消えた。
⸻
森に静寂が戻る。
三人はしばらく動けなかった。
リゼットが言う。
「……今の」
レオンは剣を握る。
「七魔将」
エリシアが震える声で言った。
「魔王の幹部です」
レオンは空を見上げた。
胸の奥が熱くなる。
恐怖ではない。
悔しさだった。
「……強くなる」
小さく呟く。
だが。
彼はまだ知らない。
あの魔族――ヴァルディスが、やがて自分の剣の師となることを。
そしてこの出会いが、世界の運命を変える戦いへ繋がっていくことを。




