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ダークネス・スレイヤーズ~キスから始まる冒険譚~  作者: 電脳筆師


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4.帰ってきた場所

 村が見えた時、レオンは思わず足を止めた。

 遠くに広がる、見慣れた景色。

 畑も、家も、道も、何も変わっていない。

 あれだけ長い時間が過ぎたはずなのに、どこか拍子抜けするほど同じままだった。


「……戻ってきたのか」


 小さく呟く。

 胸の奥に、じわじわと何かが広がっていく。

 懐かしさと、少しの緊張。

 足を踏み出す。

 見慣れたはずの道が、少しだけ遠く感じる。

 頭の中に浮かぶのは、あの時の言葉だった。


『……待ってるから』


(……ほんとに、いるのか)


 分かっているはずなのに、確信が持てない。

 村の入口が近づく。

 その時だった。

 視界の先に、一人の影。

 レオンは足を止めた。

 赤いツインテールが、風に揺れている。

 迷う余地はなかった。

 リゼットだった。


 だが――


(……変わったな)


 自然とそう思う。

 子どもの頃よりも背が伸び、細いままだった体は、無駄を削ぎ落としたようなスレンダーな線になっている。

 細いのに弱さはなく、むしろ締まっている。

 立ち方が違う。

 重心がぶれない。

 ただ立っているだけで、隙がない。

 そして、こちらをまっすぐ射抜くように見てくる赤い瞳。

 少し吊り上がった目が、以前よりも鋭さを増している。

 強気で、挑むような視線。

 昔から変わらないはずなのに、その“強さ”が明確に形になっていた。


(……強くなってる)


 見ただけで分かる。

 リゼットは腕を組んだまま、レオンを見据える。


「……遅い」


 短く言う。

 その一言で、思考が現実に引き戻される。

 レオンは小さく息を吐く。


「……悪い」


 それしか出てこなかった。

 リゼットは鼻で笑う。


「ちゃんと来るって言ったでしょ」


 言い方はいつも通り。

 でも、ほんの少しだけ声が柔らかい。

 レオンは苦笑する。


「ちゃんと来たよ」


 リゼットはわずかに頷く。

 ほんの一瞬だけ、張っていたものが緩んだ気がした。

 その変化が、妙に印象に残る。

 少し沈黙が落ちる。

 お互いに、相手を見ている。

 久しぶりなのに、言葉が出てこない。

 レオンが言う。


「……先に戻ってたんだな」


 リゼットはそっぽを向く。


「別に」


 少しだけ間を置く。


「帰る場所がここだっただけ」


 分かりやすい嘘だった。

 でも、あえて何も言わない。

 その時だった。


「……レオン?」


 後ろから声がした。

 振り返る。

 そこに立っていたのは――

 エリシアだった。

 レオンは、一瞬だけ言葉を失った。

 エリシアもまた、はっきりと変わっていた。

 水色の髪は、腰まで届くほど長く伸び、真っ直ぐに流れている。

 光を受けて、柔らかく揺れるその髪は、どこか神聖さすら感じさせた。

 瞳も同じ水色。

 穏やかで、静かで、揺らがない色。

 見ているだけで落ち着くような、そんな目だった。

 そして――


(……おい)


 思わず視線が止まる。

 成長している。

 はっきりと分かる形で。

 細い体つきのままなのに、胸元だけが不自然なくらいに膨らんでいる。

 幼さを残した顔立ちとの対比が強くて、余計に目に入る。

 慌てて視線を逸らす。


(見るなっての)


 自分に言い聞かせる。

 落ち着け、と。

 エリシアはそんなことには気づかず、少し息を整えてから、安心したように微笑んだ。


「……よかった」


 その一言に、全部が込められていた。

 リゼットが軽くため息をつく。


「エリシアも来たのね」


 名前で呼ぶ。

 自然に。

 エリシアは小さく頷く。


「はい……先に戻っていたんですけど」


 少し困ったように笑う。


「落ち着かなくて」


 リゼットが目を細める。


「……アンタはほんと変わらないわね」


 口調は軽い。

 でも、どこか安心したような響きだった。

 三人が並ぶ。

 自然と、その形になる。

 少しだけ距離がある。

 でも、それが心地いい。

 レオンがぽつりと言う。


「……戻ってきたな」


 エリシアが頷く。


「はい」


 リゼットも小さく息を吐く。


「そうね」


 それだけで、十分だった。

 ふと、空気が揺れる。

 三人の間に、同じ記憶がよぎる。

 森の中。

 触れた瞬間。

 溢れた力。

 誰も口にしない。

 でも、消えていない。

 確かにそこにある。

 レオンが言いかける。


「……あの時の」


 リゼットが遮る。


「後でいいでしょ」


 短く、少し強く。

 レオンは頷く。


「……ああ」


 今じゃない。

 でも、避けられない。

 エリシアも静かに頷いた。

 リゼットが言う。


「行くわよ」


 村の方を見る。


「いつまでも入口で突っ立ってる気?」


 レオンが苦笑する。


「相変わらずだな」


 エリシアが小さく笑う。

 三人は歩き出す。

 並んで。

 同じ方向へ。

 変わったものもある。

 変わらないものもある。

 その全部を抱えたまま。

 三人は、もう一度同じ道を歩き始めた。

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