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ダークネス・スレイヤーズ~キスから始まる冒険譚~  作者: 電脳筆師


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2.ひとり先に行く日

 リーベル村の中央には、小さな神殿がある。

 石でできたその建物は、他の家とは少しだけ違って見える。

 大きいわけでも、豪華なわけでもないのに――そこだけ、空気が違う。

 子どもの頃から、なんとなく近づきにくい場所だった。

 そして今日は、その前に、人が集まっていた。

 いつもより、ずっと多い。

 大人たちの声が重なって、低く響く。

 静かにしているのに、ざわざわしている。

 落ち着かない空気。

 胸の奥が、少しだけざわつく。

 理由は分かっている。


 ――啓示の儀。


 十三歳になった子どもが、自分の“力”を知る日。

 神聖か。

 魔法か。

 それとも、何も持たないか。

 これからの生き方が、ここで決まる。

 そして今日は――

 リゼットの番だった。


「……緊張してる?」


 神殿の前。

 レオンが、何気ないふうに聞いた。

 本当は、何気なくなんかない。

 自分が落ち着かないのを誤魔化しただけだ。

 リゼットは腕を組んだまま、ふっと鼻で笑う。


「するわけないでしょ」


 赤いツインテールが揺れる。

 いつも通りの態度。

 強気で、余裕そうで。

 でも――


(……ほんとか?)


 レオンは、ほんの一瞬だけ思う。

 言わないけど。

 その横で、エリシアが小さく笑った。


「でも、少し楽しみですね」


 その声はやわらかい。

 けれど、どこか落ち着かない。

 手を前で組んで、少しだけ指に力が入っている。


「まあね」


 リゼットは肩をすくめる。


「どうせなら、すごいの出したいし」


 軽く言う。

 いつもみたいに。

 でもその言葉の奥に、少しだけ力が入っているのが分かる。

 レオンは、少しだけ笑った。


「もし出なかったら?」


 軽く言ったつもりだった。

 けれど。

 リゼットがすぐにこちらを見る。

 にやりと笑う。


「アンタよりはマシでしょ」


「まだ俺は受けてないだろ!」


 思わず言い返す。

 そのやり取りに、エリシアがくすっと笑う。

 三人の空気が、少しだけ軽くなる。


 ――ほんの一瞬だけ。


 神殿の扉が開く。

 重たい音が、やけに大きく響いた。

 中から、白い衣の神官が現れる。


「リゼット」


 名前が呼ばれる。

 その瞬間。

 空気が、少しだけ変わる。

 さっきまでの軽さが、すっと消える。

 リゼットが歩き出す。

 一歩……もう一歩。


 そして――


 扉の前で、止まった。

 振り返る。


「見てなさいよ」


 レオンとエリシアを見る。

 まっすぐ。

 少しだけ強く。


「私、すごいの出すから」


 その言葉は、自信に満ちている。

 でも……ほんの少しだけ、確かめるみたいでもあった。

 レオンは頷く。


「……ああ」


 エリシアも、小さく頷く。


「はい」


 リゼットはそれを見て、満足そうに笑った。

 そして、そのまま神殿の中へ入っていく。

 扉が閉まる。

 音が、やけに重かった。

 静かになる。

 さっきまであったざわめきが、遠くなる。

 レオンは、無意識に神殿の扉を見ていた。


(……行ったな)


 当たり前のことなのに。

 胸の奥に、少しだけ引っかかる。


「……大丈夫ですよ」


 エリシアが言う。

 レオンを見る。


「リゼットですから」


 その言葉に、少しだけ力が抜ける。


「……だな」


 そう返しながら。

 それでも、目は扉から離れなかった。

 ふと、思い出す。

 あの森のこと。

 子どもの頃。

 迷って。

 怖くて。

 触れてしまって。

 あのあと、力が出た。


(……なんだったんだろうな、あれ)


 考えても分からない。

 結局、あの時だけだった。

 でも――

 忘れたことはない。

 神殿の中。

 その向こうで。

 何かが決まろうとしている。


(……すごいの、出すって言ってたな)


 レオンは、小さく息を吐いた。

 願うように。

 信じるように。

 ただ、待つことしかできなかった。

 

 ――神殿の扉が開いた。

 思ったよりも、ずっと急に。


「遅いなって思ってたのに……」


 レオンがそう言いかけた、その瞬間。

 リゼットが飛び出してきた。


「すごいわよ!」


 いきなりだった。

 声も大きくて。

 いつも以上に勢いがある。

 レオンは一瞬、反応が遅れる。


「……え?」


 エリシアも目を見開く。


「四属性!」


 リゼットが言う。

 胸を張って。

 誇らしそうに。

 少しだけ、息を弾ませながら。


「え!?」


 レオンの声が裏返る。


「四つもですか?」


 エリシアも驚いている。

 リゼットは満足そうに笑った。


「天才ってやつね」


 その言い方は、いつも通りだった。

 でも、どこか、少しだけ違う。

 さっきよりも、少しだけ――遠くなった感じがした。

 

 ――

 

 それから数日後。

 村の入口。

 一台の馬車が止まっている。

 魔導院へ向かうためのものだ。

 リゼットは荷物を背負って立っている。

 もう、出発の時間だった。

 三人の間に、少しだけ沈黙がある。

 言いたいことはあるのに。

 言葉にすると、何かが変わってしまいそうで。


「いい?」


 リゼットが口を開く。

 二人を見る。

 少しだけ、いつもよりゆっくりと。


「私がいないからって」


 にやっと笑う。

 ほんの少しだけ、意地悪そうに。


「二人でイチャイチャしないこと!」


「しないし!?」


 レオンが反射的に言う。

 エリシアの顔が一気に赤くなる。


「そ、そんなこと……ない……です」


 声が小さい。

 目を逸らしている。

 リゼットは、それを見て満足そうに頷いた。


「まあいいわ」


 そして、ほんの少しだけ、間があく。

 風が吹く。

 その音が、妙に長く残る。


「二人も来年、旅立ちなさい」


 さっきよりも、少しだけ真面目な声。

 レオンとエリシアを見る。

 まっすぐに。


「ちゃんと来なさいよ」


 強い言い方。

 でも、どこか、押しつけるようではなくて。


 ――待っている、みたいな言い方だった。


「そして」


 少しだけ、視線を逸らす。

 ほんの少しだけ、言いにくそうにして。

 それでも、ちゃんと続ける。


「十八歳になったら、ちゃんと村に戻って来なさいよ」


 一瞬の間。

 言葉が、空気の中に残る。


「……待ってるから」


 その一言は、小さかった。

 でも、今までで一番、強かった。

 レオンは、すぐに言葉が出なかった。

 胸の奥が、少しだけ苦しい。


「……分かった」


 ちゃんと答える。

 短く、でも、はっきりと。

 エリシアも頷く。


「はい……待っててください」


 少しだけ、寂しそうに。

 でも、笑おうとしている。

 リゼットはそれを見て、満足そうに笑った。


「よし」


 それだけ言って。

 馬車に乗る。

 動き出す。

 ゆっくりと。

 車輪の音が、遠ざかっていく。

 リゼットが手を振る。

 レオンも振る。

 エリシアも。

 やがて。

 姿が見えなくなる。

 静かになる。

 風の音だけが残る。


「……いなくなると、寂しいな」


 レオンがぽつりと言う。

 本音だった。

 そのまま、出てしまった言葉。

 エリシアは、少しだけ間を置いてから頷く。


「はい……」


 小さく、でも、はっきりと。

 少し沈黙。


「でも」


 エリシアが言う。

 顔を上げる。


「また会えます」


 その言葉は、少しだけ強かった。

 信じているみたいに。

 レオンは空を見上げる。

 広い空。

 どこかで、繋がっている気がする。


「……だな」


 ――

 

 その一年後。

 二人にも、啓示の儀の時が訪れる。

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