表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒーラーしかいないっ!  作者: ぺろりんがー
ハイレベルにハイ論破!(ごり押し)
55/57

第55話

 軋むような音を立て、レノワールの杖から放たれたどす黒い魔力は、まるで世界の法則そのものに逆らうように空間を塗り替えていく。


 宙に描かれた魔法陣は、呪詛のルーンと毒のスパイラルが絡み合う異形の構造。中心には闇の刻印――見る者の精神を侵すような禍々しい紋章が浮かび上がる。


「っわ、ヤバいッス! さっきまで鎖で繋がれてた化け物の二人が……今度は本気でやり合うつもりッス!」


 シドファが震える声で指差した先には、神域の火花が今にも弾け飛ばんとしていた。


「どどどどど、どうすれば……って、ああーっ!! アレは……()()()の神級魔法、【崩壊呪毒闇付与魔法マリグナント・コード】じゃないですか……ッ!!」


 ラミシーが目を輝かせて解説を始める。


「【崩壊呪毒闇付与魔法マリグナント・コード】ってのはですね、魂に直接崩壊の刻印を刻み込んで、さらに毒、呪い、暗闇などを付与する究極の黒魔術で――」


「ラミシー! 今はそんなこと言ってる場合じゃないッスよー!」


 私も負けじと、神級魔法を発動させてレノワールに対抗した。


「神級魔法……【持続回復全能強化付与魔法セレスティアル・グレイス】!」


「……って、ああーっ!! ミレミさんのあの魔法、神級魔法【持続回復全能強化付与魔法セレスティアル・グレイス】ッスよ! いやあ……すっっっごいスねぇ、初めて見たッス! 持続回復付与と全能力強化付与の複合魔法で――」


「あのねえ、あなたたち! 早く逃げなさいって言ってんでしょッ!!」


 シドファまでもが目を輝かせ始めた。ここは解説会じゃない!


 その時。ソラソラが二人の襟首をガシッと掴み、


「にっげろ~♪」


 軽々と持ち上げて走り出す。


 その直後……空を裂く雷。地をえぐる波動。氷と炎、死と再生、天と地がひっくり返るような魔法の応酬が、戦場を完全に一変させる。


 ――それは、世界がひっくり返ったような、しっちゃかめっちゃかな光景だった。


 ◇◇◇


 戦場を包んでいた熱気が、次第に夜風に冷まされていく。

 空の端には、わずかに朱の名残があったが、太陽そのものはすでに地平の向こうに沈んでいた。


「――つまり、まだその時には生きていたの。だから勝負は私の勝ちよ」


「否、日没とは太陽の上縁が地平線の下へ沈んだ時点を指す。日照が残っていても、それは既に日の入り後だ」


「じゃあ最初っからそう言いなさいよ!」


「言ったはずだが? 明確に……日没までに、とな」


 薄暗くなった空の下、ゲンビウスの討伐は果たされ――残ったのは、勝ちか負けかという些細な言い争いだった。


 ふと、しばしの沈黙が流れる。


「……強くなったな」


「いきなりなによ……負け惜しみ?」


 眉をひそめる私に、彼は淡々とした口調で続けた。


「いや、なに。――昔、お前に言ったことがあっただろう。『回復魔法において、お前が俺の足元に及ぶことは決してない』と」


「……そんなこと、あったっけ?」


 記憶をたどる。頭の奥の、ずいぶん古い日々の残響。

 そして――彼と最初に出会った記憶をハッと思い出した。


「あーっ! あんた、そんな昔のこと覚えてるの!?」


「お前のようなタイプは、すぐに死ぬと思ってな。多少は気にかけていた」


「なっ……!」


「あの発言は撤回しよう。お前の回復魔法は、俺の回復魔法を――()()()


 思わぬ形でされた宣言に、頬がわずかに熱を帯びる。

 ――憎いはずの相手。けれど、かつて背中を追い続けたその人からの言葉は、不覚にも胸の奥をくすぐった。


「ふ、ふーん。あっそ。……ってか、意外と人間臭いとこあるのね、あんたって」


 私が照れ隠し気味に言うと、レノワールはわずかに視線を落とし、低く呟いた。


「"人を救うために魔法を使う"――だったか。結果として、その道筋もまた、正しいことが証明されたな」


「……ふん。でもね、あんたの言った通り――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったわよ。何度も、何人も失って、それでやっと……手に入れたの」


「だが、それを作り上げたのはお前の"理想"だろう」


「……なに? さっきから、らしくないこと言うじゃない」


 彼はすっかり暗くなった夜空を見上げた。沈みきった太陽の代わりに、月が静かに浮かんでいた。


「この世界は"理"で組まれている。だが、起こることすべてが理の中に収まるとは限らない。正しくない現象が、時に最も世界らしい顔を見せる」


「……意味わかんないんだけど。つまり何が言いたいわけ?」


「お前たちパーティに、()()()()()()()()()()()()()を感じた、ということだ」


 私は思考を停止して、彼のことをポカーンと見つめていたが、意味が分かるとくすりと吹き出してしまう。


 ――恐らく、()()()()()()だったのだろう。


「ふふっ……だったら『ぷいち☆えんじぇるず』って名前、ちゃんと言いなさいよね」


「……善処する」


 レノワールは肩をすくめて笑った。

 ほんの一瞬だけ。彼の背を追い続けてきた"憧れ"の姿が、等身大の人間としてそこに重なった気がした。


「いかんな。カフェインが切れてきた」


「こういう日はね、飲んで忘れるものよ。はい、負け犬さん」


 私は腰のポーチから取り出した酒瓶を差し出す。

 彼は少しだけ目を見開いたが、ためらわず受け取った。


「……これもまた、論理的ではない行動か」


 ぼそりと呟きながら、一口。

 そのまま、かすかに頬を緩めた。


「アルコールも……悪くないものだな」


「でしょ?」


 ふっと笑い合う。

 その直後……レノワールはゆっくりと地面に背を預けて、ごろりと寝転がった。


「……って、ちょっと。寝たの?」


 返事はない。かわりに、すぅすぅと穏やかな寝息。


「まったく……『睡眠は取らなくてもいい』だなんて、誰が言ったのやら」


 あきれながらも、私は小さく笑った。


 ――と、そのとき。

 ガサ……ガサガサ……。


 草むらの奥で、何かが動く音。

 私は反射的に身構え、そっと彼の肩を揺する。


「おーい。起きなさい、大寝坊賢者。モンスターが近寄ってきたわ。さっさと帰るわよ……って、起きなさいってば! ――ねえ、ちょっと!!」


 強めに揺する。さらに揺する。が、起きない。


「もう……!」


 すると、月明かりに照らされ、ぬっと影が現れる。


 丸い目、長い牙――どう見てもモンスターだ。


「キシャアアア!!」


「……あら、こんばんは。月がきれいですね……」


 私はレノワールの腕を掴み、ずるずると引きずって走り出すや否や、大声で叫んだ。


「っざけんな、この大クソ賢者ー! 起きろっつってんの! 5徹なんてするからこうなるんでしょ! ……あとで覚えておきなさいよおーッ!!」


 夜の静寂を破る悲鳴が、戦場跡にこだました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ