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ヒーラーしかいないっ!  作者: ぺろりんがー
ハイレベルにハイ論破!(ごり押し)
52/57

第52話

 もこもこぷるぷると揺れる丸く小さな体が、ふわりと私の前に浮かんだ。


 "モコモコプルー"。


 ぷるぷると絶えず震え、全身を覆うのは綿毛のようにふわふわした繊維質の外皮。その姿は、ぬいぐるみのように愛らしく、どこか癒やし系のマスコットにも見えるかもしれない。

 だが――この小さな召喚獣には、見た目からは想像もできない、ちょっとした秘密がある。


 それは【魔法離散魔法スペルディスクリート】と、【魔法反射魔法スペルリフレクト】という、()()()()()()()()()()()という点。

 いずれも、その名の通り……()()()()()()を"離散"させたり、あるいは"反射"させることができる。しかも、これらの二つの魔法は()()()()()()()()使()()()()とされている、極めて特殊な分類だ。


 ――まあ。目の前にいる例外レノワールを除いて、だけど。


「……あなたが禁止した条件は、パーティに正式登録されていない"人物"の介入、だったわよね? なら――"モンスター"の介入は問題ない、そうでしょ?」


 レノワールの瞳がわずかに細くなる。

 反応を見るに、やはりルール上の抜け穴ではあるらしい。


「召喚権を付与した人物の介入、という意味ではグレーではあるが……まあ、いいだろう。召喚獣の使用を認めてやる」


「なーにが『認めてやる』よ。まったく……上から目線で偉そうに言って――」


 レノワールは悠然と杖を振る。次の瞬間――私の足元の感覚が一気に崩れた。


「なっ……!?」


 視線を落とすと、足元の地面がじわじわと――砂へと変化している。

 これは、【地形変質魔法サンドシフト】!? 細かな粒子が足を絡め取り、私の動きを封じる。


「くっ……! しまった、油断したわッ」


 その隙を衝くように、レノワールは炎と雷の混成魔法を、嵐のようにゲンビウスへと浴びせかけた。


「グオオォォッ!!」


 足場は既にふくらはぎまで砂に沈み込み、足を引き抜こうとするたび、さらなる重みで飲まれていく。動けないまま、私は焦燥だけを募らせながら、回復を届けられずにいた。


 ……だけど、瞬時に打開策が頭に浮かぶ。迷いはなかった。

 私は即座に声を張る。


「ワタボコリーヌ、お願い! 【魔法反射魔法スペルリフレクト】を――!」


「ぷぎゅう!」


 空中で軽く跳ねたワタボコリーヌが、くるりと一回転しながら魔力の膜を展開する。


「――【集中回復魔法ディープヒール】ッ!」


 私は狙いを定め、回復魔法を――()()()()()()()()()()()()()()

 光は一直線にワタボコリーヌへと向かっていき、ワタボコリーヌの魔力膜に触れた瞬間……空気がピンと張り詰めたような感覚が広がる。わずかな弾性と共に、魔力は――跳ねた。


「……届いて……!」


 回復魔法の光が、音もなく軌道を変える。そして光は、まるで導かれるようにゲンビウスの傷跡へと収束していき――直後、焼けただれた箇所が再生されていくのが見えた。


「あ、危なかった……」


 砂は未だ腰までまとわりつき、足を引くたび重く沈む。それでも腕を突き立て、必死に体をずらして――私はようやく砂地から這い上がった。


 流砂から脱出した私に向かって、レノワールがまたもや杖を構え、魔力を練りながら口を開いた。


「――俺が()()()()までに制限を設けた理由、お前なら既に察しているはずだ」


「……ええ、概ね見当はついてるわ」


「ひとつ――()()()()の対策だ。世界において行使可能な者はごくわずか。この国に限れば、扱えるのは()か、()()か。だが……その全ての種類が、ランクが『極級』以上に分類される魔法である。よって、蘇生魔法によって勝敗が揺らがぬよう、あらかじめ封じておく必要があった」


 レノワールはまるで数式を描くように、指先で宙をなぞるような仕草をしてみせる。


「そして、もうひとつが――」


「――()()()()、でしょ?」


「その通りだ。上級魔法に、()()()()()()()()()()()()()()()()。――そう、【死刑宣告魔法デス・ジャッジメント】」


 詠唱と共に、彼の周囲から空へと魔力が放たれる。

 次の瞬間――空が暗転した。


 そして上空に、じわりと黒い火の玉が現れる。時計の文字盤のように()()()、規則正しく配置された。


「……ッ! やっぱりね……!」


 私が最も警戒していたのが即死魔法。いくら圧倒的な回復量を誇ろうが、即死されてしまっては回復のしようがない。


「この魔法は、十二の火球を全て相手に命中させれば、即死させることができる。ただし速度は遅く、回避可能……実戦で使用するには、即死条件が極めて難しい。――だが、相手が"回復職ヒーラー"なら話は別だ」


 レノワールの杖の先端が、ゲンビウスへとぴたりと向けられる。


「させるわけないじゃないのッ! ――ワタボコリーヌ!」


 私は咄嗟にワタボコリーヌを向かわせようとした、が――


「無駄だ。【重力魔法グラビティ】」


「あが……っ!」


 ズゥン――と、まるで誰かに上から押さえつけられたかのように、全身が下に沈む。全身の骨がぎしぎしと軋み、脚に力を込めようとしても立てなくなり、地面へ這いつくばるしかなかった。


「くっ……また……!」


「ぷわっ――!?」


 さらに、ワタボコリーヌの体さえ、ずるりと引きずり落とされるように高度を失っていく。ゆっくりと地面へと吸い寄せられ、やがて身動きを止めた。


「魔法を反射するのであれば、反射できないほど範囲を広げればいいだけの話だ」


 ワタボコリーヌも反応できないほど、レノワールの重力魔法は広範囲だった。逃れる術は……ない。


 身体が沈み込む。手が地面に這いつくばる。

 その間にも、火球は次々と命中していく。


 一つ……二つ……。


 ふと、意識が遠のく。やれるだけやってみたけど――ここまでなの?


 三つ……四つ……。


 みんな……ごめん。私を信じてついてきてくれたのに、まさかこんな結果になっちゃうなんて――。


 五つ……六つ……。


 これだから、歳を取るとだめね。あと10歳若ければ、もう少し動けたのかもしれない。


 七つ……。


 私ね、もう一度だけ冒険者をやりたいって思えたの。枯れ果てたはずの心だと思っていたのに――みんなのおかげで。


 八つ……。


『私、決めました。これからは……みんなのために人を助けて、自分のために復讐を果たします』


 九つ……。


『ここに決めてよーかった! だって、こんな毎日、絶対に楽しいじゃん☆』


 十……。


『――あたしは、シドファ。あんたの中で死んだ人間の名前になんてならない!! あんたの隣で一緒に戦って――あんたと一緒に生きる人間の名前ッス!』


 十一……。


 ――負けたくない。

 まだ、私は……みんなと一緒に冒険がしたい!


 パーティの形を、勝手に決めさせてなるものか!

 私たちが……()()()()()()()()()()ッ!!


「……これで、終わりだ」


 レノワールが最後の詠唱に入る。

 顔を上げた私は、近くでわずかに揺れるワタボコリーヌを見た。


 もこもこぷるぷると、必死に踏ん張っている。


「……ワタボコリーヌ……!」


 私は思い切り手を伸ばした。これからの未来を掴むように。


 ――1秒。1秒だけでいい。

 一瞬の隙さえ生まれてくれれば……ッ!


「……んあああぁぁぁぁっ!!」


 そして、限界まで手を伸ばし、ワタボコリーヌに――触れた。

 直後にありったけの魔力を送り込む。


「ぷるぷる……ぷわああぁ!」


 刹那、高濃度の【魔法離散魔法スペルディスクリート】が発動された。パアァと音を立て、重力魔法が一時的に離散される。


 這いつくばった姿勢から、膝を立てて――立ち上がる!


 離散しきれなかった重力を、根性と気合と、無理やりな魔力でねじ伏せて――


「ッ……はぁぁぁ……っ!!」


「――ッ!? なにぃ……?」


 レノワールの杖がこちらを向く。

 それより先に、私はその顔面めがけて――


「――オルァァッ!!!!」


 思い切り拳を叩き込んだ。


「んなっ……!? ぐわぁッ!!」


 鈍い音と共に、レノワールの体が軽々しく吹っ飛んだ。


 すると、火球は宙に散り……やがて消えた。


「……あー。昔から一度、あんたのことをぶん殴ってやりたかったのよね」


 拳を下ろし、息を吐き、私はニヤリと笑う。


「――はい、論破ァ!」

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