第49話
「――ってことで、緊急会議よ」
私の自室――兼、今やパーティメンバーの皆が無断で出入りして、テーブルの上にはお菓子と飲み物が散乱し、誰かの荷物が常にどこかに置きっぱなしになっている……もはや"たまり場"と化した空間に、全員が集まっていた。
「こんな夜更けに悪いわね」
「いやはや……何だか大変なことになってるみたいッスねぇ」
床に胡坐をかいていたシドファが、軽食を片手にむさぼりながら顔を上げる。一見、他人事のような彼女の言動だったが、その表情はいつになく真剣だった。
ふわふわのクッションに埋もれていたソラソラが、小さく手を上げて問う。
「ミレちん、ケンカになっちゃったの?」
「ケンカっていうか、まあ……一方的な命令? とにかく、向こうから言われたのよ。『ぷいち☆えんじぇるずを解散しろ』って」
「か、解散ですか……ッ!?」
ラミシーが硬直したように背筋を伸ばし、目を見開いた。
「レノワールさんって……あの、伝説の大賢者ですよね……? そんな人に解散しろなんて言われたら、もう、私たち――」
そのまま部屋の隅までずるずると移動した彼女は、膝を抱えて震え始め、
「むむむむ、無理ですぅ……! もうおしまいですぅ……!!」
と、わんわんと泣き出した。
「だから、話し合いましょうって言ってるのよ。これからどうするかを考えるの」
「――にしたって、あたしらまだ何の成果も出してない、ペーペーの冒険者パーティッスよ? レジェンド級な大賢者様に、どうしてあたしらが目ぇつけられるっていうんスか?」
「成果がないってのが、まさに問題なのよ。ヒーラー不足らしくって、レノワールは私たちを解散させて、適材適所に振り分けたいみたい。けどね――逆を言えば、こちらの実力さえ認めさせられれば、納得させられるかも」
「実力……?」
ソラソラが小首をかしげる。
「ええ。彼に『お前たちは戦力にならない』って言われたわ。だから……その認識を覆せばいいのよ!」
私はビシッと人差し指を突き出しながら言い放った。
勢いに押されるように、隅っこでラミシーが渋い顔を見せる。
「で、でも……それができるなら、とっくにやってますよ……? 私たち、ヒーラーだけのパーティなんですから……ちょっと、いきなりは無茶と言いますか……」
「無茶じゃないわ。ちゃんと手は考えてある」
私はテーブルの上に2枚の紙を広げる。それはギルドから届いた、討伐依頼の速報だった。
「ほら、最近街の近くに出たって噂になってる大型モンスター、2体いるでしょ? 討伐依頼として来てたから、討伐タイムアタック形式でレノワールに勝負を持ち掛けるつもりよ。――先に倒した方の勝ちってね」
驚いたシドファが、テーブルにぶつかりそうになりながら、反射的に立ち上がった。
「――はぁ!? 正気ッスか!? 相手、あの大賢者ッスよ!? 魔法一発で地形ごと吹き飛ばすような、生きる伝説なんスよ!?」
「あら、心外ね。私も一応、"聖女"と呼ばれている身なのだけど?」
「いやいや!! そりゃそうッスけど……! 討伐タイムアタックって――火力足りなさすぎるッスよ!」
「シドファさんの言う通りです……! うわああんっ! やっぱり絶対、もうここまでなんですぅ~!」
しかし、ソラソラが跳ねるように立ち上がり、ぱっと手を掲げた。
「大丈夫だよっ!☆ 難しいかもしれないけど、きっとソラソラ達なら、ピンチもチャンスに変えられる♪ 伝説だって作れるんだからっ!」
「――ッ!! ソラソラちゃ――さんの言う通りです……! なりましょう……私たちが伝説に……ッ!」
「ラミシー!? コロコロ意見を変えないでくれッス! この裏切り者ーッ!」
「……あなたたち、一旦落ち着きましょう。ステイステイ」
私がテーブルを囲む椅子を軽く指さすと、渦中の三人は渋々ながらも腰を下ろす。
その様子を横目に見ながら、深く息を吐いた。
「詳しい条件は明日、私がレノワールに交渉するけれど。もちろん、向こう――レノワール側もパーティを組んでの参戦になるかもしれない」
「そう、ですね……。そうなると、いよいよ打つ手がなくなっちゃうかもしれませんね……」
ラミシーが項垂れる。さっきまで"伝説になる"と息巻いていたとは思えないほど、またもや急激な現実回帰だった。
「ただ、そこは私がどうにかしてみせる。なーに、レノワールとは昔からの腐れ縁だもの。今日も論破してきたし、多少は強気で吹っ掛けるつもり」
「腐れ縁……なんスか?」
シドファが興味深そうに身を乗り出してくるが、私はそれには答えず、少しだけ唇を歪めて笑った。
「魔法の使用制限も、条件として交渉できるかもしれないわ。せめて、中級魔法までの制限を入れさせれば、わずかに勝機が見えるかもしれない」
「そ、そんな破格な条件飲んでくれますかね……? もし、断られたら……」
再びラミシーが不安げにつぶやいた。
「そのときは、そのときよ。また別の手を考えるわ」
完璧な未来など、誰にも保証できない。
けれど――未来が不確かだからこそ、手を尽くす価値がある。
「それに、今回ばかりは――私も本気でいくつもり」
声を強め、皆を見渡す。
……そう。正直に言えば、今まではなるべく手を出さずにいた。パーティメンバーの成長を促すことを優先して、あえて意図的に回復魔法の使用を控えていた部分がある。
けれど――今回は、最初から全力で立ち向かう。
ソラソラが、ぱちんと指を鳴らす。
「わーいっ! じゃあ、ミレちんが本気出せば、きっと百人力っ☆」
「ええ。誰にケンカ売ったのか、思い知らせてあげないとね」
「おお……いつになくミレミさんが頼もしいッスね!」
「やっぱり、ケンカだったの……? ケンカはしちゃ、めっ! だよ☆」
「うんうんうんうん! ケンカはしちゃ、めっ! ですよね……!」
「ちょ、ラミシー! さっきからソラソラをひいき目で見すぎッスよ!」
再び騒がしくなるテーブル。
こんな調子で、本当に大丈夫なのだろうか?
……ちょっと不安になってきた。
◇◇◇
「――オルァ! 堅物大ハゲ賢者は出てきなさいッ! 勝負よッ!!」
翌朝。酒場の扉を勢いよく開け放つと、案の定、すでに奥の席でコーヒーをすすっていたレノワールが、ゆるやかに視線を上げた。
「わかった」
「……へ?」
あまりにあっさりと受け入れられ、言葉が詰まる。
しかし、ここで相手のペースに飲まれてはいけない。私はすかさず歩を進めた。
「い、いい? 聞きなさい。これからギルド依頼の大型モンスター討伐――タイムアタック形式で、どちらが先に倒せるか競ってもらうわ!」
「構わん」
即答だった。
「え、は? ちょっとくらい考えるとか――」
「勝負を挑む時点で、俺に何らかのハンデを交渉するつもりだろう。だが、それも不要だ。……こちらのパーティは俺一人で構わん。あとは好きに決めろ。つまらん駆け引きに付き合う気はない。――どうせ、結果は変わらないのだからな」
淡々と告げられた彼の言葉に、心臓がドクンと跳ねる。
よ、読まれてる……!?
その瞳には一切の驕りも焦りもない。ただ、確信だけがそこにはあった。
「ただし、こちらからも条件がある」
ビリ、と背筋が緊張する。こちらから仕掛けたつもりが、気づけば向こうの掌の上だった。
「一つ目。この勝負は、お前のパーティの戦力評価を目的とした査定だろう。したがって――現時点でパーティに正式登録されていない人物の介入を一切禁ずる」
カップを置く音が、早朝の静かな酒場に響いた。
「そして二つ目。使用可能な魔法の階級は――上級魔法までとする」




