第48話
「そもそも、だ。ヒーラーのみで構成されたパーティが、実戦で機能するはずがない」
「…………」
「お前たちに攻撃手段が存在しないことは、すでに調査済みだ。敵を排除する手段が皆無である以上、戦力としての価値はない。――かつて"聖女"とまで呼ばれたお前なら、その程度の判断はつくものと思っていたがな」
たしかに。ほんの少し前までは、私もそう思ってた。
平和な時代になったのなら、それでも別にいいんじゃないかって。
でも、今はもう違う。
こんな私たちでも、戦える可能性があると――本気で信じてる。
それに……ひとつ気になる点がある。
『攻撃手段が存在しない』――と、そう認識されているということは、もしかしてソラソラの怪力には気づかれていない……?
加えて、私たちが工夫して生み出した戦術も、どうやらまだ報告には上がっていない様子。
ならば、いざという時の切り札として使えるかもしれない。
私は片手に酒瓶を持ったまま、再び席へ腰を落とす。
「お前が有している規格外の回復魔法、そして、あの騎士団出身の若い"エンライトプリースト"の技量……いずれも、今の時代においては貴重なリソースだ」
「あら、ずいぶん私たちを買ってくださってるのね」
皮肉めいた笑みを浮かべ、中の液体をひと揺らしする。
「……平和が続いた反動で、前線で通用するほどの実力者が枯渇してる。ゆえに、限られた戦力を最適に生かす構成と統率が不可欠だ」
「要するに、人手不足ってワケね」
「その通りだ。――例の魔王幹部生存の件、既にお前にも情報は入っているのだろう?」
私は酒瓶を少し傾け、口をつけた。
「わかってるわよ。そんな現状、頭ではね」
そこで言葉を切ると、私はレノワールに真正面から視線をぶつける。
「だけど、私はこのパーティで戦うことを決めたの。どれひとつ欠けても成立しない、私たちだけの唯一の戦い方……そして、それが今の私が信じる選択よ」
レノワールの表情がピクリと動いた。
「……ほう。人々の命を最優先に掲げた『灰燼』の一角が、再び訪れる世界の危機を前にして、そんな自己満足を優先するとはな」
「『灰燼』は、もう解散したわ。今の私は――『ぷいち☆えんじぇるず』のミレミよ」
その瞬間、彼はわずかに眉間に皺を寄せる。
「理解が及ばないな。今のお前のパーティに、何ができるというのだ?」
「支え合うことができるわ。それこそが、ぷいち☆えんじぇるずの強さよ」
「……だから何だ? その"支え合い"とやらが、どれほどの戦果に結びつく? 逆に言えば、お前のパーティには、もはやそれ以外に語れるものがないと、自ら認めるということか?」
「あーもう! 鬱陶しいわねっ! まだ結成したばかりなんだから、これからやっていくしかないじゃないの! そもそも、『お前のパーティ』じゃなくて、ぷいち☆えんじぇるずっていう立派な名前が――」
――ん?
……妙ね。
彼のその物言いに、ほんの僅かに引っかかりを覚えた。
これは、もしかして――。
私は少しだけ首をかしげ、声色を変えた。そして、試すように問いかける。
「お前のパーティ、ねぇ。……ちょっと、ひとつ聞きたいんだけどぉ」
茶化すような口調で、わざとらしい笑みを浮かべてみせる。
「一体、何を解散すればいいんですか~?」
レノワールはしばらく間を空けた。
「……説明は不要だろう。そのままの意だ」
返答を聞いた途端、胸の奥でくすぶっていた予感が、確信へと変わった。
視界がぱっと開ける感覚――思わず、身体が前のめりになる。
「へぇ~! 論理を重んじるあなたが、まさか正式名称をお答えになれないんですかぁ?」
「…………」
自分でも驚くほどに、声が弾んでいた。
やっぱりそうだ。『ぷいち☆えんじぇるず』って名前が恥ずかしくて言えないんだ、このおじさん。
ぷぷーっ! 精神年齢、思春期かっての! ダサすぎるでしょ!
「ちゃんと正式名称を言ってもらわないとぉ、全く別のパーティとか解散しちゃったらぁ、どう落とし前つけるんですかぁ~?」
「……………………」
「ほらほら、言いなさいよ! 私たちのパーティ名を! ほら、早く!」
レノワールの表情は、鉄面皮のままだった。
ただ、わずかに目を閉じ、眉根を寄せ――
「…………ぷいち☆えんじぇるず…………」
吐き捨てるように、呟いた。
「……ん~? ごめん、ちょっと聞こえな~い」
私はここぞとばかりに身を乗り出す。
「もう一回、言ってもらってもいいですかぁ~!? ちゃんと大きな声でお願いしま~すっ!」
彼は再び目を開けると、低い声で、はっきりと口にした。
「ぷいち☆えんじぇるず……を、今すぐ解散しろと、俺は言ったんだ」
静寂。
マスターが空気の重さに耐えかねて視線を泳がせていた。
沈黙を断ち切ったのは、コーヒーカップをカウンターに置く音だった。
カタン、と陶器が触れる乾いた音。レノワールが椅子から立ち上がった。
「……もういい。明日、再び答えを聞きに来る」
ポケットから取り出した金貨を一掴み。無造作にカウンターに置く。
「それまでに、仲間へのお別れでも済ませておくことだな」
レノワールが背を向け、酒場を後にしようと歩き出す。
「ちょ、ちょっとあんた! お釣り!」
マスターが思わず呼び止めるも、レノワールは振り向きもせず、
「……いらん」
とだけ残し、姿を消していった。
「――はい、論破ァ!!」
拳を高々と掲げて胸を張り、これ以上ないほどの勝ち誇ったポーズを決める。
勝った。完全勝利。
「……論破って、言えるのか……?」
マスターの乾いたツッコミが、背中に突き刺さった。




