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ヒーラーしかいないっ!  作者: ぺろりんがー
歴史が光れば影に黒歴史
37/57

第37話

『ではまず、初めて――のは、いつ頃からか。お聞かせ願えますかな?』


『そうね、大体八年くらい前かしら』


 ザラついたノイズが混じった音声がスピーカーから流れ始めた。どこか距離を感じる、録音特有の音だ。時折、雑音にかき消されて、()()()()()()()()()()()()


「あっ、この声……! 間違いなくミレミさんの声ッス!」


『突然、――は現れたの。あの頃はまだ駆け出しで、冒険者として毎日がいっぱいいっぱいだった。だから、そんなに気にならなかったのよ』


「……こうやって、ちゃんと聞くミレミさんの昔話って、何気に初めてかもしれないッスね……」


 そりゃあ、わざわざ話すような内容じゃないし。たまにポロッと出ちゃうことはあるけど、自分から語るなんて、よっぽどじゃない限りはない。


『何をするにも、ずっと一緒にいる感じがして……思えば、あれは冬の峠を越えたときもだったかしら。あの時から、急に主張を始めたのよ。それまでは、いつも静かだったくせに。そう、――に違和感があって……前触れもなく、いきなり――』


「……ん? 何の話ッスか、これ。色恋沙汰っぽい感じもするッスけど――うえぇ、これでミレミさんの恋バナだったら、嫌ッスねぇ……」


「そんなの、私にあるわけないじゃない! ……っていうか、本当にこれ、何の話なのかしら?」


「知らないッスよ! あんた自分で答えたんじゃないッスか!」


 いやいや、おかしい。内容に()()()()()()()()()()()んだけど。

 私の声なのは確かなのよね。


『最初にちゃんと向き合わなかった、私が悪いのかもしれない。でも、誰にも相談できなくて……放っておくと、また戻ってきて……。辛いけど、離れてくれないの』


「ねえ、なんか……これ、やっぱり変よ!」


 言葉にできないような違和感が襲うが、もちろん放送は止まらない。


『長く付き合っていると、無理が出てきたの。じっとしていられない。我慢できなくなっちゃう。……それでも、離れないの。何度も傷つけられて、痛みも味わったのに――ずっとそばにいる。みんなの前では平気なふりをしているけれど、それももう限界なの。これは、ずっと放っておいた私自身への……罰なのかもしれないわね』


「うわああぁっ!! やっぱり、恋バナだったんじゃないッスか!? 聞きたくなかったッスよぉ……!」


「違うって言ってんじゃない! ……って、そんなことより、これってもしかして――!」


 ――間違いない。この話の内容に、たった今ピンときた。

 じわじわと、嫌な予感が形になっていく。まさか、まさかとは思うけど――。


 ……これ、私が()()()()()()()()()()()()()()()じゃない!? 


 なんで? どうして流れてんの!?

 いや、あのとき医者が魔道具で録音してるのは見たけど……こんなところで放送されるなんて思わないじゃないっ!!

 あれだけ"病気のことは外に漏らさないで"って言ったのに、あんのクソジジイッ!


 非常にマズいことになった。

 こんなにも注目されていて、それも街全体に、()()が知られてしまったら――。


 どうやって止めればいい? 早く何とかしなきゃ!!


「待って! みんな聞いて! ――いや、もう聞かないでッ!! お願いだから……これ以上、先は!」


「ミレミさん? いきなりどうしたッスか?」


『――ふむふむ、なるほど……いやあ、聖女さま。ご察しの通りでございますが、こりゃ、まあ――』


 あっ、間違いない。このあとに、医者の診断結果が告げられる。


「もうやめてえええぇぇッ!!!!」


『――()、でございますな。長いご無理がたたったのでしょう。放っておくと悪化しますで、これを機に、しっかり養生なされませ』


 ――終わった。


 こんな……公衆の面前で。


『おい! 何だこれは!? 今すぐ止めろ!』

『すみません! すみません! あれぇ、おっかしいですね……』


 なんて、今更ギルドの職員たちが音声を止める騒ぎがスピーカー越しに聞こえるけど――もう遅い。

 凍ったように静まり返る空気の中、一斉の視線が私を刺す。私の尊厳は、いま音立てて崩れ落ちた。


「見ないで……こっちを見ないで! うわあああああっ!!」


 私はその場にしゃがみ込み、近くの石畳にガンガンと何度も頭を打ちつけた。


「ミレミさん!?」


 お願いだから誰か、記憶を消して……私の……みんなの……全部……!


 ぐちゃぐちゃで、もはや思考が追いつかない。何がどうして、こうなった?

 もう駄目だ……もう誰の顔も見れない。


「ち、違うの! これはその……何ていうか、えっと……」


「ミレミさん……?」


「――・エンドってね♪」


 言った瞬間、もう自分でも何を言ってるのかわからなかった。いや、わかりたくもなかった。

 きっと、極限の羞恥に対抗するための、自己防衛本能だったに違いない。


「く、くぅ……ぁああ……ッ、ぐぅうう……っ!! ああああああぁぁッ!!」


 声にならない悲鳴を噛み殺して、私はその場から全力で逃げ出した。

 視界の端に映るのは、人々のぽかんと開いた口、凍りついた笑顔。


「ミレミさん! どこ行くんスか!」


 見事にすっ転びつつ、何とか体勢を立て直して、人混みの間を猛ダッシュで駆け抜ける。そして、祭りの灯が揺れる裏路地へ――私は、"痔"という名の恥を引きずりながら、音もなく消えていった。


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