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ヒーラーしかいないっ!  作者: ぺろりんがー
歴史が光れば影に黒歴史
36/57

第36話

 はぁ、とため息をひとつ吐く。

 ついに、私の番だ。


 まったく。なんでこんなくだらない祭りのくじで、命懸けみたいな緊張感を味わわされなきゃいけないのよ。

 ただ、逃げ道はもうない。腹をくくるしかない。


「……じゃあ、いくわよ」


 そう呟いて、私は取っ手にそっと手をかけた。手のひらはじんわり汗ばんでいた。


 ゆっくりと、ぐるりと回す。

 カラカラ……ガチャン。

 転がり出た玉を、店主が無言で拾い上げた。


 さて、どうなるっ!?


「えーっと、結果は……おぉ! 2等の"モコモコプルー"だ!」


「――2等!? や、やったぁ……!」


「すごいッスよ、ミレミさん!」


 私は全身から力が抜けて、その場にへたり込む。

 シドファも目を輝かせて拍手を送っていた。


「ぷるぷるした丸い体に、綿毛が生えたようなモンスターだな。癒やされそうな見た目をしているが……不思議な魔法を使う実力者でもある。滅多に出ない、アタリだぜ!」


「よかったぁ……誰もハズレなくて……」


「じゃあ、契約の巻物に名前を書いてくれな。そしたら召喚が始まるぜ」


「……はいはい。さっさと片づけて、こんなインチキ屋とはおさらばよ」


 言われるままに巻物へサインする。すると、足元に魔法陣が浮かび、淡い光が舞い始めた。

 空気がゆらりと歪み、光の中から――


「ぷるる……? ぷわぁ……」


 ふんわり浮かび上がってきたのは、丸くて、綿毛のようなモフモフがついた……ぷるんぷるんの謎の生命体。


「……え、なにこれ。可愛い……」


 "モコモコプルー"なんて、聞いたことのないモンスターだった。恐らく、召喚用の人工モンスターなのだろう。

 私はそっと触れてみる。ふわふわ、ぷるぷる、温かくて柔らかい。でも、なんとなく……この手触りに覚えがある。


「……あれ? これ、なんかちょっと……()()()()っぽくないッスか……?」


 シドファがぽつりとつぶやいた。


 私は手を止め、じっとその丸い生き物を見つめる。

 ……うん。色合いも違うし、形もちょっと違うけど――でも、言われてみれば確かに、スライムの親戚みたいな見た目をしてる。


 そして、案の定――ラミシーが黙って、目を細めていた。じと……っと、鋭くこちらを睨んでいる。


「……それ、スライム……なんですか……?」


「――じゃないわよ! 似てるけど、たぶん違うわ! だって見なさいよ、この可愛らしい見た目を!」


 丸い体はスライム特有のヌメッとした質感があるけれど――スライムとは言い切れない絶妙なライン。

 ラミシーの視線が刺さる。やっぱり、どこか不満げな顔をしている。


「とりあえず、それ……こっちに渡してもらえませんか……? それとも、ミレミさんが身代わりになります……? ふふふっ」


「なによ、その不穏な選択肢は! ……ねぇ、落ち着いて? この子はスライムなんかじゃないわ」


「それはこちらでじっくりと確認してから決めますので……。場合によっては……()()()()()とか、詳しく調べなきゃいけないですけどね?」


「ちょっと待って! "中身"って、どうやって調べるつもり!? ねえ! まさか、解体する気なの!?」


 そのとき。

 飛んで火に入る夏の虫とは、このこと。モコモコプルーが、ふわりと浮かび上がり――ラミシーのほうへ、ぽよんと飛びついた。

 彼女の顔に……ヌチャリ、と音を立てながら。


「――やっぱり、処分対象ですね。これは完全に――スライムです」


 顔に張りついたモコモコプルーを、ラミシーはガシッと鷲づかみにした。


「違うっつってんでしょおおッ!」


 私も反射的にモコモコプルーの綿毛をつかみ、引き戻す。


「ぷぎぃっ!?」


 ――結果、モコモコプルーは、無残にも両者に引き伸ばされていた。


「いやあっ! 私の――"ワタボコリーヌ"を取らないで!」


「……名前とか勝手に付けないでもらえます? あとで泣くのは、ミレミさんの方ですよ……?」


「泣くようなことする気、マンマンじゃないの!」


 私は必死で引き戻した。すると、ぷるぷると震える体が、みしり……と、妙な軋みをあげた。


「ぷぎゅぅぅっ……!」


 モコモコプルーが、明らかに苦悶の声をあげて、体をゆがませる。

 その様子を見てラミシーが、うっすらと頬を染めて呟いた。


「……ああ……いいですね、その歪み……」


「あなた、人の心ってものが無いのっ!?」


 両側から引っ張られ続け、モコモコプルーの身体はますますゆがみ、目に見えてぷるぷると震えている。


 私はその様子に胸が締めつけられた。


「――ワタボコリーヌッ! ごめんなさい……! あなたを引きちぎってまで手元に留めようだなんて――私、そんなこと、できないわっ……!」


 言い終えると同時に、私は手を離した。


「きゃあっ!?」


 ラミシーは勢いに引っ張られ、そのままモコモコプルーと共に一回転する。

 バランスを崩しながらも、体勢を立て直すと――


「……では、少しばかりお借りしますね。責任もって……ふふ」


 静かにそう告げ、モコモコプルーを胸に抱いて一目散に駆け出した。


「ワタボコリーヌゥゥー!」


 私が呆然と見送る中、彼女は人混みをすり抜け、モコモコプルーをしっかりと抱えたまま、風のように遠ざかっていった。


「――あの子、あんなに速く走れるの!?」


 そして、一連の流れを無言で見ていたシドファが一言。


「ワタボコリーヌって名前、めっちゃダサいッスね」


 ◇◇◇


 そんなこんなで、やがて日は傾き、空がオレンジ色に染まり始める。そろそろメインイベントが近い時間かなと思っていた――その時。


 ピンポンパンポーン!


 場内に軽快なチャイムが響き、人々がちらほらと足を止め、耳をそばだてる。

 どうやら毎年恒例の()()()()()()()()の時間らしい。スピーカーのほうに自然と視線が集まる。


『皆さーん、再生祭を楽しんでますかー? 今年も余興として、()()()()()()()()()()をお送りしますよ~! このあと、夜から始まるメインイベントの前に、ちょっとしたサプライズをご用意しました!』


 ざわ……っと辺りがざわめいた。さらに放送が続く。


『なんと今年は――あの、魔王討伐に大きく貢献した灰燼アッシュダストのヒーラー、"()()"こと()()()()()へのインタビューを収録してきました! このあと録音を再生いたしますので、お聴き逃しなく!』


「――へ?」


 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。"聖女"ことミレミさんって――それ私じゃん。


「……ああ。そういえばこの前、インタビュー受けたんだったわね。まさか録音されてたとは思わなかったけど……」


「マ、マジッスか!? やっぱすごいッスね、ミレミさん!」


 周囲を見回すと、チラホラと視線を感じる。小声で


『ねえ、あの人がそうじゃない?』

『初めて見た! いつも酒場に入り浸ってるっぽいし』

『あぁ、飲んだくれ行き遅れの?』


 などと囁かれているのがわかる。

 ――不名誉な噂立ってない?


「――はーい! 皆さん、注目ッス! こちらが本日主役の聖女様、ミレミさんッスよ!! 本日は奇跡的にシラフッス!」


「シドファ!? うそでしょ!? 何やってんのッ!!」


 突如として大声で紹介するシドファ。

 案の定、それを聞いた周りの人たちが「おお!」と沸き立ち、さらに注目が増してしまう。


「せっかく本人がここにいるんスよ? こんなありがたいこと、皆に知らせないともったいないッスから!」


「いらないわよ、そんな気遣いッ! ありがた迷惑なんだけど!?」


 私は人混みにまぎれて隠れたくなるが、もう遅い。こうなると逆に堂々としてたほうがマシまである。


「あ、あは……ど、どうも~」


 ほんのり恥ずかしさをこらえつつ、一応会釈しておく。すると拍手が巻き起こったり、ちょっとした歓声まで聞こえてくる。私は汗がにじむのを感じつつ、周りに小さく手を振る。


 そんな中、拡声機の放送は進行を続けていた。


『それではお待たせしましたー! 聖女ミレミさんのインタビュー、どうぞお聴きください!』


 ごくり、と息を呑む。私の声が、大勢の人々の前で流されようとしている。


 ――けれど、正直、何を話したのか()()()()()()()()()()。今さら取り消せるわけもなく、耳を塞ぐわけにもいかず、ただスピーカーから流れてくる自分の声を待つしかない。


 頼むから、変なこと言ってませんように……!

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