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ヒーラーしかいないっ!  作者: ぺろりんがー
スイートステップ♡メルティヒール♡キミのハートをブレイク♪
32/57

第32話

 ダルクベアの巨体が、地響きとともに崩れ落ちる。その胸元から、血に濡れた小さな影が、ぴょこんと飛び出してきた。

 彼女の右手には、べっとり赤黒い液体を滴らせる巨大な心臓が握られていた。


「いやぁ~、びっくりしたぁ!」


「――こっちのセリフよ!!」


 血まみれのソラソラが、満面の笑みを浮かべていた。天使のように眩しいその笑顔は、今は地獄から這い出た何かのようにしか見えなかった。


「えへへ、力にはちょっと自信ある方なんだけど……バフが効きすぎちゃったのかな? あはは~☆」


「"ちょっと"どころじゃないでしょ!? 今の一撃、ベテランの武闘家クラスの破壊力があったわよ!」


「ふむ。舞踏家ぶとうかかと思ったら、武闘家ぶとうかだった、ってオチッスね!」


「うるさいわ」


「それにしても……ソラソラさん、あんなに強かったんですね。私たちの火力不足の問題も、これなら解消できるかもしれません……」


 ラミシーとシドファが顔を見合わせて、にぱっと笑う。


「そーッスね! こんな強力なアタッカーがパーティにいたら、もう万事解決ッスよ!」


「ふふっ。これは期待大、ですね……!」


 ぱんっと手を合わせ、小さく跳ねて喜ぶ二人。

 だが、当のソラソラはそれを見て、ほんの少し眉を引きつらせた。


「――えええっ!? 待って待って待って! ソラソラちゃん、()()()()()()なんだけど!? 癒しの舞姫なのにぃ~っ!」


「いやいや、あんな火力を見せといて、それはないッスよ! 使わないなんて、絶対にもったいないッス!」


「……私も、その……ソラソラさんの攻撃、すごく頼もしいと思いました。私は黒魔術士のアタッカー志望だったので……少しだけ、うらやましいです……」


「ううぅっ、そんなに言ってもらえると照れちゃうけど~……でも、ソラソラちゃん、天使みたいな可愛いヒーラーを目指して、ここに来たのにぃっ! バリバリのアタッカーはちょっと違うかもぉ……☆」


「……天使みたいな可愛いアタッカーを目指せばいいんじゃないッスか?」


「えっ……えぇ~!? そ、それはちょっと! 戦ってるときでも、笑顔とやさしさで癒しを届ける存在じゃないと……! 踊り子としてのアイデンティティが……崩れちゃうというかっ!」


 声のトーンは明るいが、目は泳ぎ、笑顔は引きつり、完全にテンパっていくソラソラ。

 ――うん。可哀想だし、この辺で止めてあげよう。


「はいはい、そこまで。いったんストッ――」


 ブッシャアアアアア!!!!


 その瞬間、ソラソラの手の中で――ダルクベアの心臓が爆ぜた。

 びちゃびちゃっ! という音と共に、真っ赤な液体が辺り一面に勢いよく飛び散り――私の顔面を直撃した。


「…………え?」


「あっ、ごめんごめん! つい手に力が入りすぎちゃって☆」


 返り血の感触に思考が止まり、私は無意識に手の甲で顔を拭った。ぬるりとした感触が、さらに現実味を持って脳に染み込んでくる。


 シドファとラミシーも目を見開いたまま固まり、誰もが黙り込む。


「てへっ☆ うっかり潰しちゃったけど……これ、ぜーんぶ――()()()()で! ねっ♪」


 ソラソラは返り血まみれの顔で、ウィンクしながら唇に真っ赤な人差し指をあて、「しーっ」と笑う。


「……………………」


 誰も何も言わず、ただ、こくりと小さく頷いた。


 ラミシーとシドファは顔を見合わせ、何かを諦めたようにそっと目を伏せた。

 アタッカーへの期待は、心の奥で静かに打ち消されたようだった。


「じっ、じゃあ――お楽しみの最高級の酒でもいただこうかしらね!」


 私はポンと手を叩いて、強引に話題をすり替えた。

 とにかく、この話題から離れようと必死だったのだ。


「そ、そうッスね……! 流石ミレミさん、その判断……今回ばかりは、ナイスッス!」


 シドファが引きつった笑みを浮かべ、ぎこちなく親指を立ててくる。普段なら真っ先に、お酒に対する私の言動を注意してくるくせに、今はむしろ全力で乗ってきた。


「――ねえねえ、ミレちん! あったよ、最高級の"さけ"!」


 その言葉に、私は目を見開いた。


「えっ! ――どこ!? 壺? 瓶? 木樽かしら? それとも高級な魔法酒か何か!?」


 さっきまでの地獄絵図を脳裏からすっぽり切り離し、私の思考は一気に「酒」一色へと塗り替わっていた。

 全力疾走で彼女の指差す方へ向かう私。


 だが、その先にあったのは――澄んだ水面に泳ぐ、立派な魚だった。


「……なにこれ」


「さけだよ、さけ! 最高級の()! めっっっちゃ美味しいみたいだよっ☆」


「"さけ"じゃなくて"さけ"……ってこと!? はああああ、くっだんない! こんだけ苦労して歩いた分、最高の祝杯を期待して、ずっと楽しみにしてたのにッ!!」


 私は崩れ落ちた。

 ……実のところ、最初から違和感はあった。イントネーションがね、微妙に引っかかってたのよ。


 それでも私は、自分に言い聞かせてた。

 ――信じたかったのよ。たとえ、希望的観測だったとしても。


「んもぅ、さいあく~~~~ッ!!」


 ◇◇◇


「さいこ~~~~ッ!!」


 ひとくち食べた瞬間、私の中の理性が吹き飛んだ。

 炙られた皮が、カリッと小気味よく弾ける。そのあとすぐ、ふっくらとした身が舌の上でほろりと崩れ、溶けるように広がっていく。


 ここは酒場の丸テーブル。皿を囲んで、私たちはそれぞれ夢中で箸を伸ばしていた。


「この身のふわふわ加減、卵焼きかってくらい柔らかい……。脂がジュワッと広がるのに全然くどくなくて、旨みだけが喉にすっと残る。炭火の香ばしさが追いかけてきて、塩加減もちょうどいい……鼻に抜ける香りまで完璧! ッカー! 酒が進むわぁ!!」


 うっとりとした目で鮭を味わう私を、シドファが呆れ顔で見ている。


「……結局、満足してるじゃないッスか」


「そうね、考え方を改めなきゃいけないわね。今後は酒が報酬のクエストだけじゃなく、酒のつまみになる食材が報酬のクエストも積極的に受けていくことにしましょう」


 ラミシーがため息と共に、呆れたように視線をそらす。


「……またそんなに飲んで。二日酔いになっても、治してあげませんからね」


「えぇ~、いいじゃなぁいのぉ。私、赤ちゃんだからミルク飲まないと生きていけないのよぉ~ん」


「よ、酔いすぎですよ――きゃあっ!」


 ふらりとラミシーに体を預け、私は全体重をかけるように寄りかかった。


「ううっ、ちょっ……重いですっ! ……お酒くさい! 赤ちゃんはお酒なんて飲みませんからぁ!」


 暴れるラミシーをまるで抱き枕のように抱きしめながら、私はご満悦の吐息を漏らす。


「ばぶぅばぶ、ぱぶぅ~♪」


「もー、ミレミさん。ラミシーが可哀そうだから、その辺でやめてあげるッス――って、うわぁ!」


「ぶぅびば!(怒)」


 シドファが邪魔してこようとしたため、私のもう片方の手が彼女まで巻き込み、三人が床の上で小さく山になる。ラミシーとシドファの必死のもがき声が、重なり合った身体の下から途切れ途切れに響いていた。


 そんな中、ソラソラだけは椅子の背にもたれ、楽しげにくすくすと笑っていた。


「――思ってたのとちょっと違うけど……ここに決めてよーかった! だって、こんな毎日、絶対に楽しいじゃん☆」

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