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ヒーラーしかいないっ!  作者: ぺろりんがー
スイートステップ♡メルティヒール♡キミのハートをブレイク♪
24/57

第24話

 ソラソラの冒険者登録を済ませるため、私たちはギルドを訪れていた。

 ついでに、宙ぶらりんになっていたパーティ名も決めてしまおう、というのが今回のもう一つの目的だ。


 カウンターの近くにある待合用の長椅子に腰かけ、ソラソラが必要書類を記入しているのを尻目に、私はひとまず"ヒーラー"について軽くおさらいをしてみせる。


「一般的にヒーラーって言うと、まず()()()()()を思い浮かべるでしょ? でも、実はプリースト以外にも、踊り子とか吟遊詩人なんかも、役割はヒーラーに含まれるのよ」


 ラミシーがメモ帳を膝の上に広げ、熱心にうなずく。彼女はまだヒーラーとして日が浅いからか、学ぶ姿勢は真剣そのものだ。


「彼らは戦闘能力自体は控えめで、単純な回復力で言えばプリーストに及ばないわ。だから、メインでパーティに入ることは少ないんだけど、大人数パーティなら()()()()()()として加わることもあるし、魔王がいた頃は人手不足でそういう構成も珍しくなかったの。踊り子なんかは、舞で味方を癒したり、潜在能力を呼び起こしてバフをかけたりすることができる。ただ、()()から魔力を注ぐプリーストとは違って、踊り子は相手の()()から心を奮い立たせて回復や強化を促すイメージね」


「なるほど……だから、ソラソラさんは自らをヒーラーとおっしゃってたんですね……」


 うんうんとうなずくラミシーに微笑を返すと、私は話題を切り替えた。


「――さて、あの子を今後どうするかは置いといて。せっかくだから、パーティ名を決めちゃいたいと思うの」


「パーティ名ッスか。別にテキトーでいいじゃないッスか?」


 シドファが腕を組みながら、無気力そうにつぶやく。だけど、私としてはここでハッキリさせておきたい。


「まあ、無かったら無かったでいいんだけど……あるならあるで、ちゃんとした名前をつけないとダメでしょう。というのもね――」


 ◇◇◇


「――王都騎士団第一部隊の隊長を務めております、ホニャララ・ホニャラ。見合いの場というのは久方ぶりで、少々緊張しておりますが……お手柔らかに願います、ミレミ殿」


 貴族的なしゃれた空間、上品なテーブルが一枚。そして向かいに座るのは、凛々しい騎士姿の美青年。恰幅がいいわけではなく、どちらかといえばスマートな体型。けれど、その所作には剣士独特のきびきびとした力強さが見え隠れする。


「改めまして、私はミレミです。ヒーラーを少々嗜んでおりまして、【パーティ名】を率いております」


「――ほう、【パーティ名】、ですか。まさか実在したとは……」


 その言葉に、私はぐっと胸を張ってきらびやかに笑う。


「覚えていただけて光栄です。おほほほほ」


 それはもう、まるで大貴族の令嬢のような気品とともに――。


 ◇◇◇


 ……という妄想。そこで、はたと現実に引き戻される。

 自分が頬を緩めていたのに気づき、あわてて咳払いをした。


「……だから、こんな感じで()()()()()()でパーティ名を言う日が来るかもしれないじゃない? ちゃんとした名前じゃないと困るのよ」


 まあ、実際にお見合いの話なんて、今は具体的に進んではいない。けれど、いつ何があるかわからない。もしそういうシーンでヘンテコな名前なら体裁が悪い。


 しかし、この話を聞いたシドファは眉を寄せ、むすっとした声を漏らした。


「ふぅーん。なら、別に【うんこうんこ】とかでいいんじゃないッスか?」


「はあああ――っ!?」


 あまりに下品な提案に、私は変に裏返った声を出してしまう。

 な、なに? その投げやりなパーティ名は……?


「……えっ? え、うんこ……?」


 シドファがそっぽを向いて返事をした。


「べっつにー。お見合いするっていうなら、台無しにしてやるために、うんこでも何でもなってやろうって言ってんスよ」


「そんな汚い名前、絶対イヤに決まってるじゃない! パーティ名って一度登録しちゃったら、簡単には変えられないのよ? ……わかってんの!?」


 まさかの展開に、私も思わず声を荒らげる。


「【うんこうんこ】で台無しになる程度の縁なら、最初からご縁なんてないッスよ!」


「うんこうんこ言うな! 五歳児でも、もうちょいマシなの考えるわよ!」


 お互いヒートアップしてきたタイミングで、横にいたラミシーが「あわわ……」とうろたえているが、止める隙すらなさそうだ。


「――ったく、シドファ、あなた何を拗ねてんの」


「拗ねてないッスよ。開き直ってるだけッスぅー!」


 声を張り上げかけたその時、カウンターの方からソラソラが大きく手を振りながら戻ってきた。


「おまたせー! はい、冒険者登録ばっちり完了っ☆ ……って、なにしてるの?」


 彼女の目に飛び込んできたのは、私とシドファが眉間に皺を寄せて互いに睨み合い、ラミシーが「ええと、ええと……」とおろおろしている光景。

 険悪な空気が漂う私たちを見て、ソラソラは首をかしげる。彼女は全く気まずそうな様子もなく、どうやら介入しようと笑顔で近づいてくるが……。


「――ちょっと待ってて! 今、大事な話をしてるの!」


 私は片手をかざし、ソラソラの進入を制止した。ここで余計な口を挟まれても混乱が増すだけ。

 ところが彼女は、私たちの険悪な雰囲気などどこ吹く風で、きらきらした瞳を向けて言い出す。


「なんかパッションすごいね、パッパッパラリラパッショーン☆ ――あっ、そうだ! ついでに()()()()()()()()してきちゃったよ!」


 はあ? こんな最中だというのに、何をまた意味の分からないことを……私は思わず額に手を当てた。


 ……って、あれ?


「――今、なんて?」


 一瞬、頭が追いつかない。シドファとの言い合いに夢中だったせいで、彼女の言葉の重大さを理解するのに数秒かかる。


「パッパッパラリラパッショーン☆」


「違うわよ!! その後よ、後! 今、なんて言ったの!?」


 私は思わず前のめりになりながら、ソラソラの両肩を掴みそうになる。すると彼女は「わぁっ」と目を丸くした後、にこりと微笑んでウインクする。


「あー! パーティ名のこと? とーっても可愛いのにしておいたから☆ みんなが喜びそうなやつね!」


「何よ、何にしたっていうの!?」


 気づけば私は声を荒らげ、ソラソラに詰め寄っていた。ラミシーは横で完全にオロオロしているし、シドファも言い合いの途中だったのを忘れて呆然と見つめている。


 周りの視線が刺さるなか、ソラソラは「ふふーん」と鼻歌でも漏らしそうなノリで答えた。


「【ぷいち☆えんじぇるず】って言うんだよ! 可愛いでしょっ?」


 ――瞬間、私の脳内にはパリーンというガラスの割れる音が響いた。頭が白く染まっていく。


 ◇◇◇


「――王都騎士団第一部隊の隊長を務めております、ホニャララ・ホニャラ。見合いの場というのは久方ぶりで、少々緊張しておりますが……お手柔らかに願います、ミレミ殿」


「改めまして、私はミレミです。ヒーラーを少々嗜んでおりまして――【ぷいち☆えんじぇるず】のリーダーですっ☆」


「…………ぷいち……えんじぇるず……?」


「……ぷいち☆えんじぇるず……」


「……【ぷいち☆えんじぇるず】……」


 ――ざわっ、ざわっ、ざわっ。

 

 ◇◇◇


「ちょっと待ったああああぁぁ!!!!!!」


 悲鳴ともつかない声を上げたのと同時に、私はギルドのカウンターへ全力疾走していた。思わず若い頃の運動神経が甦ったのか、想定外の素早さで駆け抜け、カウンター越しに身を乗り出す。


「今のパーティ名、無し! 無効にして! 今すぐ取り消してぇぇぇ!!」


 顔を真っ赤にしながら迫る私だったが、受付嬢は苦笑いを浮かべる。そして、申し訳なさそうに言葉を続けた。


「……あのぉー、大変申し訳ございませんが……たった今、受理されちゃいました。規約上、すぐに再変更はかなり難しくて……」


 自分の両腕から、すうっと力が抜けていくのがわかる。そのまま失意のまなざしを床に落とし、ぼんやりと視線を彷徨わせる。

 背後で「わーい、これで決まりだね!」とソラソラの朗らかな声が聞こえた気がする。ひどく遠い世界の出来事のように思える。


 こうして、『ぷいち☆えんじぇるず』は、晴れて冒険者ギルドに正式登録されるに至ったのである。


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