第23話
その仕草があまりにも無邪気すぎて、逆にこちらも戸惑ってしまう。
「――え? ええっ!? その人、ミレミさんが連れてきた新しいメンバー候補じゃないんスか……?」
「はい? 私は知らないわよ……。あなたが連れて来たのか、ラミシーの友達だか何かだと思ってたわ」
「いやいや! あたしじゃないッスよ!?」
私とシドファが揃ってラミシーに視線を向けると、彼女は困ったように、ふるふると首を左右に振った。
「わ、私……友達なんて、いないですよ。……いたことなんて、ずっと無いんですけど……ふ、ふふっ」
遠くを見ながら虚空に笑う彼女に、私とシドファは「あっ」と息を詰めた。……これ以上は踏み込めないと悟る。場に妙な沈黙が、すうっと広がった。
「……じゃあ、本当に誰も知らないってこと? あなた、いったい何者なの……?」
問いかける私たちの視線が、一斉に謎の少女へ向かう。
肩の片側だけが開いた黒のカットソーに、光沢のある紫の巻きスカート。控えめなビーズ飾りが縫い込まれていて、光の加減でほんのりきらめく。
風がふわりと巻き上がる――。
やがて、彼女はまるで舞台に立つように一歩を踏み出した。
「心に光を! 踊りに笑顔を! 癒し届ける元気の舞姫、みんなの踊り子、ソラソラちゃんでーすっ☆」
まばゆい笑顔とともに、彼女――ソラソラはくるくると回ってみせた。まるで大舞台に立つ芸能者のような、華やかなパフォーマンス。
しかし、聞き慣れない名乗りに、私は思わず聞き返す。
「……な、なんて?」
一体何を見せられたのだろうか? 全く理解が追いつかない……。
すると、そんな私の様子に気付いたソラソラは嬉しそうにもう一度、声を張り上げた。
「スイートステップ♡ メルティヒール♡ キミのハートをブレイク♪ 夢の踊り手、ソラソラちゃんでーすっ☆」
再び決めポーズをキメる彼女に指をさして、私は思わずシドファに助けを求めた。
「……ちょっと。あれ、なに……? 何なの?」
「あれは、もしかすると――踊り子ッスね! 最近の踊り子って、ああいう自己紹介するのが流行りらしいッス。なんか決まり文句っぽいのがあるらしくて」
……んん? どういうこと?
あれが今どきの様式美ってことかしら?
「――でも、あの子。最初の名乗りと違ってなかった?」
「それは知らないッス」
「ソラソラちゃんはね~、いっぱい自分のこと知ってもらいたいから、毎回ちがう自己紹介をするんだよっ! どれも本物、どれも正解っ☆」
彼女のその説明に、ふんわりとした脱力感に包まれた。
言葉では理解はしたけれど、独特なそのテンションについていけない……。
すると突然、ソラソラはぱちんと手を打った。
「みんな、本当にソラソラのこと知らないのーっ!? 今どきの若い子たちには大人気の踊り子なのにっ!」
そう言われても、私にはまったくピンとこない。
本人の様子からして、自分が名の知れた存在だと信じて疑っていないようだった。
「あのねぇ。こんなオバサンが、最新の若者のブームを知るわけないでしょ? 言わせるんじゃあないわよ。こういうのは、ほら……シドファとラミシーの方が詳しいんじゃないの?」
ところが二人はそれぞれ首を振るだけ。
「あたしは、ミレミさんとヒーラー以外には興味ないッス!」
「わ、私はこないだまで六浪の浪人生でしたから……。世の中の話題に触れてる余裕なんて、あんまり……」
それを聞いたソラソラは、目を丸くする。
だがすぐに、ぱあっと明るい表情に変えて両手を突き上げた。
「ってことは!? 新しいファンが増えるってことじゃーん! やったねっ! わーい、うれしーっ!!」
本人は大喜びだが、私としては何ともリアクションしづらい。全てをポジティブ変換する能力は感心を通り越して呆れるレベルだった。
頭をひとつ振って、やれやれと軽くため息をつく。
「……あなた、すべてをポジティブに変換するのね……」
すると、ソラソラは踊るようにくるりとターンしながら、「あっ、そうだ!」と思い出したように指さした。
「ねえねえ! みんなの名前も教えてよ! せっかく、今日から仲良くなるんだしっ♪」
私たちは顔を見合わせる。ソラソラのテンションに気圧されつつ、順に自己紹介を始めた。
「私の名前はミレミ。ま、とりあえずはよろしくと言っておくわ」
「シドファッス! よろしくッス!」
「……ラミシーです。よろしくお願いします……」
「ふむふむ。ミレちん、シドちん、ラミちん……っと!」
「…………ちん?」
思わず聞き返してしまった。今、妙な接尾語がつかなかった?
「そうだよーっ♪ "ちん"をつけると、一気に仲良くなった気がするでしょ? これぞ、ソラソラちゃん流のフレンドシップ術、なんてねっ☆ ほら、かわいくて、親しみやすいでしょ?」
「"ちん"て……どこから出てきたのよ、それ……」
「んんっ? ん~……ふぃーりんぐ? みんなのこと、もっと仲良しっぽく呼びたいんだもんっ!」
ソラソラが楽しげに語る中、突然シドファが真顔で声を上げた。
「待ってくださいッス!」
「……なによ、どうしたのよ」
「じゃあ……たとえばッスよ? "チンベルド"……って名前の人は、どう呼ぶんスか?」
私はシドファの質問の意図を一瞬で理解し、そして凍りついた。
「……シドファ、あなたねえ……くだらないこと言ってんじゃないわよっ!」
「へっ? それだとぉ~……名前の最初に"チン"がつくからぁ~……チンち――」
「あなたも言わなくていいのッ!!」
ソラソラは、まるで気にする様子もなく、ポジティブ笑顔を振りまいていた。
――私は話題をそらすように、彼女に改めて問いかける。
「……で。あなたは結局ここには何の用で来たわけ?」
するとソラソラは胸を張り、くるりとステップを踏む。それは踊り子らしい軽やかさと、不思議な説得力を併せ持っていた。
「踊り子ってね、実は癒しの力も持ってるの。いわばヒーラーの一種なんだよっ! だから、ヒーラーだらけのこのパーティのウワサを聞いて、興味がわいちゃって☆」
「……言っておくけど、別に、ヒーラーだけを集めてるつもりはないわよ? ただ、勝手にこうなっただけで……」
むしろ、これ以上に増えてしまっては、たまったもんじゃない……。
「ヒーラーだけって、すっごく可愛いと思うんだよー! ふわふわしてて、優しくて、癒しオーラがあって……まさに天使って感じ? だからね、ソラソラちゃんにぴったりだと思ってねっ♪」
するとソラソラは、何やら目を輝かせて声を張り上げた。
「それにっ! こんなに可愛いヒーラーばっかりなら、パーティ名もきっと可愛いんじゃないー? ね、ねっ、教えて教えて!」
瞳をきらきらさせて見上げるソラソラに、ふと口をつぐむ。
――そういえば。
私はどう答えていいか分からなかった――というのも、まだ決まっていなかったから。
「……そういえば、パーティ名なんて考えたこともなかったわね……」
他の二人も「言われてみれば」といった顔で頷く。
そんな私たちの様子を見て、ソラソラは大げさに身ぶり手ぶりしながら声を上げる。
「えーっ!? そんなのもったいないよー! よーし、それなら今ここで決めちゃおっか! みんなが心をひとつにすれば、絶対、ぜぇーったい同じパーティ名が浮かぶと思うんだよ! 試しに、いっせいに言ってみよ?」
「いやいや、心をひとつにとか言われても――」
と私が言い終わるより先に、ソラソラは勢いよくカウントを始める。
「さん! にっ! いち――」
「――えっ、えっ! もう!?」
私はシドファ、ラミシーと視線を合わせて、慌てて息を合わせた。
「せーのっ……!」
「「「ミレ毒ミさヨッパ苦んと呪ラパ焦その愉ラシ潰ス快なター仲呪




