表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒーラーしかいないっ!  作者: ぺろりんがー
回復ぷるぷる報復どろどろ
13/52

第13話

 頭痛と吐き気が重なり、どうにも立っていられない。ヨロヨロと歩き出すが、体が鉛のように重い。たまらず壁に手をつき、盛大に吐いてしまう。


「ぉろろろろ……ッ! ……はぁ、頭いたぁ……」


 二日酔いなんて珍しくもないけれど、今日のしんどさは歴代ワーストかもしれない。とてもじゃないけど、まともに動けそうにない。せめて腰を下ろせる場所があれば……。

 そう思って視線を巡らせると、広場の片隅にベンチが見えた。


「……た、助かった……」


 ふらつく足取りで近づくと、すでに先客がいた。

 ボサボサの長髪。手入れがされておらず、前髪が目元に垂れかかっている。顔色は悪く、目の下にはくっきりとしたクマ。痩せていて不健康そうな若い女性が、ぽつんと腰かけていた。


 ベンチの隣側。ぽっかり空いたスペースに気づき、「まあ、空いてるし、いいか」と私はそちらへ向かう。


「――カァーッ!! どっこいしょ!」


 ベンチに勢いよく腰を下ろしながら、無意識に大きな声が漏れると、隣の女性がビクッと肩を震わせた。

 ……思った以上に驚かせてしまったらしい。別に脅かすつもりはなかったんだけどな、とぼんやり空を見上げた。


「「……はぁ……」」


 ため息がシンクロした。思わず視線を向けると、彼女とちらりと目が合った。


「……大丈夫?」


「あっ……ど、どっ……どうも……。……ふ、ふふ……」


 返ってきたのはか細い声と、無理やり作ったような愛想笑い。

 全く元気がなさそうだ。顔色も悪いし、まともに寝ていないんじゃないかと思うほど、酷くやつれている。


 ……こういうの、放っておけないわね。

 私はお節介なおばちゃんモード全開で声をかけた。


「ねえ、何かあったの? あなた。そんな辛気臭い顔しちゃって、ここで何してるのよ?」


「えぇ!? ……あっ、いや、その……。ちょっと疲れちゃいまして……。色々うまくいかなくて……。ふふっ……ふふふ」


 彼女は口元を引きつらせ、無理にニタァとした笑みを作りながら、視線を泳がせている。


「あなたねぇ。人生なんて、うまくいかないのが当たり前よ。ほら、しゃきっとなさい! 背筋伸ばして深呼吸! はい、いっちに、いっちに!」


「――うぇ!? え、えっ……!」


 言われるがまま、彼女は戸惑いながらも背筋を伸ばし、ぎこちなく深呼吸を始める。目を丸くしたまま口をパクパクと動かしている様子は、まるで水面でもがく金魚のよう。けれど――数度、息を吸って吐くうちに、その呼吸は次第に穏やかになっていった。


 そして、ようやく少し落ち着いたのか、今度は彼女のほうから話しかけてくれた。


「……じ、人生……ですか。人生って、やり直し……できるんでしょうかね……?」


「――ええ、きっとやり直せるわ。私なんて、つい最近まで飲んだくれだったのに、この歳でまた冒険者をやり直してるんだから。あなたくらい若けりゃ何とかなるわよ」


「……本当……でしょうか? まだ……私も、やり直せますか……?」


「そうよ! やり直せる! 何をしてもうまくいかない時期って、誰にもあるものよ。でもね、一回転んだら――もう一度立ち上がればいいの! 転ぶたびに傷は増えるけど、少しずつ強くなれる。前より立ち上がるのがちょっとだけ楽になる。そうして成長していく……それが人生よ!」


 ――正直、自分でも説得力がないって思う。でも、こんな若い子があんな顔してたら、見て見ぬふりなんてできないわよ。

 ……これで、ほんの少しでも前を向いてくれたらいいんだけど。


 すると彼女は、パァっと顔を明るくさせて――


「よ、よかったぁー……。私、まだやり直せるんですね……! ずっと、もう駄目なんじゃないかって……思ってました……。で、でも、あなたの考えを聞いたら……少しだけ楽に……!」


 震える声で言いながらも、ほんの少し希望を見つけたように目を輝かせた。私は腕を組み、深く頷いて微笑んだ。


「……そうですよね! 大丈夫ですよね……!」


「ええ。どんなに転んだって、起き上がればいいだけよ!」


「……こんな私でも……チャンスって、ありますよね?」


「もちろん! 大事なのは、諦めないって気持ちでしょ!」


「……じゃあ! 受験に()()()()()……()()してても……まだ大丈夫ですよね!」


「そうそう! たとえ、受験に6回落ちて……も…………六浪?」


 耳慣れない衝撃的なワードに、思わず聞き返す。


「…………六浪?」


「はい……! 国立の魔法学校で、どうしても()()()を学びたくて……。でも、何度受けても落ち続けてまして……。ですが、あなたのおかげで……自信、取り戻せました……!」


「……スゥーッ。あー、うんうん。六浪って、あの……六年、受験し続けてるってことよね……? うんうん、偉いわねぇ。うんうん」


 なんて、穏やかな顔をして相づちを打っていたけれど、内心は動揺を隠せなかった。


 ――六浪!?

 何をどうしたらそんなに落ちるわけ!?

 魔法学校の受験ってたしか、専門系統の魔法で評価される仕組みだったはずだけど……。黒魔術って、そんなに難しかったっけ?


「……あのぉー……?」


「えっ? あっ、はいはい! なにかしら?」


「……遅れましたが……私、ラミシーと申します……」


 転ぶたびに傷は増えても、それだけ強くなれる――とは言ったけれど。

 その理屈が本当なら、この子、そろそろ最強になっててもおかしくない。……いや、ある意味もう……最強なのでは?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ