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ヒーラーしかいないっ!  作者: ぺろりんがー
傷は癒えても因果と二日酔いは残る
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第1話

 ――魔王が討伐されて、私たちのパーティは解散することになった。


 広間の窓から差し込む夕陽が、床を黄金色に照らしている。

 そこに集まった私たち7人は、これからそれぞれ歩む道を思いながら、まるで遠くの未来を見つめるように静まり返っていた。


「長かったようで、あっという間だったな……」


 リーダーの剣士ギルがぽつりと呟く。彼は腰に差した長剣の柄に軽く手を添えながら息をつくと、ゆっくりと私たちを見つめた。


「残党狩りの任務はおよそ片付いて、国からの新しい依頼もない。俺たちがこのまま冒険を続ける理由は、もはや無いだろう。だから……ここらで解散ってことにしようと思う」


「――ちょっと待って! 私はまだ納得いってないわよ!」


 思わず声を荒らげた私を、仲間たちは困惑した顔で見つめる。無理もない。魔王が討伐されてから、世界は平和を取り戻しつつある。魔王討伐隊として結成された、このパーティの大仕事は終わったのだ。


「ミレミ。あんたがヒーラーとしてここまで支えてくれたこと、みんな感謝してるよ。でも……もう大きな戦いもないし、みんなそれぞれ別の道を歩きたいんだ」


 弓使いのフェイが、どこか申し訳なさそうに口を開いた。軽口ばかりの彼だが、こんな真面目な顔をするのは珍しい。


「そうなの、ミレミ。私はね、つい最近に王立学院の研究員に招かれたの。魔法の新しい可能性を知りたいし、もっといろんな研究をしていきたいの」


 魔術師のシャルロッタが黒髪を揺らしながら、横から割って入るようにそう言った。


「ちなみに今後、オイラは辺境の村を守ってやりてぇんだ。魔王軍に襲われて、家も家族も失った奴らが、今もまだ苦しんでる。そいつらの手助けをするのが、オイラの役目だと思ってる」


 タンクの盾使いフォードが、拳を握りしめて語る。頑丈で正義感が溢れる彼の言葉には、強い熱意がこもっていた。


「わ、私は……実家の商会を継ぐことになりました。お父様に相談して、ようやく決心が……。で、でも、冒険で得た経験は、きっと役に立つと思ってます!」


 おどおどしながらも、シュネーが真っすぐな目で言った。その表情は不安と希望の入り混じったものだった。


「…………」


 盗賊のアルマは、いつものように無言だったが――その目には、どこか覚悟のような光が宿っていた。


 だけど、私は――。


「それでも、いきなり解散だなんて……。私、このパーティでまだ、みんなと一緒に――」


「ミレミ、もう充分にやり切ったよ。魔王討伐にだって大きく貢献したんだから、堂々と胸を張っていい。そして、これからは――自分の幸せを考える時が来たんじゃないか?」


 ギルが真剣な目で私にそう告げる。うまく言葉が出てこない。そんなの、私にだってわかっている。魔王が消えて、この世界は平和になった。世界の命運を左右するような任務は、もう存在しない。

 ――だけど、みんなと肩を並べて戦うことも、もう終わってしまうのだと思うと……すごく寂しい。


 しばしの沈黙のあと、ギルがふっと笑って言った。


「それにな、ミレミ。おまえも俺たちも――ほら、もういい年なんだからさ。そろそろ人生設計ってやつを考える頃だろ? 例えば……()()とか」


「…………は?」


「そうそう! いやぁ、やっぱ結婚ってのはいいもんだぞ! 俺も先月、王都で式を挙げただろ? ……ほら、新しい家族ができると、なんつーか、人生観も変わるんだよな!」


 弓使いのフェイが照れくさそうに笑いながらそう言うと、隣に座る魔術師のシャルロッタがすかさず相槌を打つ。


「フェイの言う通りなの。それに……()()ってものがあるの。私はまだ若いから焦らなくていいけど、ミレミくらいの歳になるとそろそろヤバいの」


「オイラの親父もよ、『孫の顔を見せろ』ってうるせぇしな。戦いばっかだけじゃなく、きっともう落ち着けってことなんことなんだろうよ」


「――ちょっ、みんな! うるさいわよ? そんなことより今は――」


 思わず声を上げる私に、フェイがにやりと笑う。


「でもほら、ギルもさっき言ってただろ? ミレミもずっと冒険だけに打ち込んできたんだし、自分の人生を考える時期じゃないか……ってことよ! 結婚って選択肢も、案外悪くはないぞ」


「そ、そうですよ! あの、その……ミレミももう長年も冒険してたんですから、歳もそれなりに――」


「そうなのそうなの! 婚期が――」


「結婚が――」



  ◇◇◇◇



「――大きなお世話だっつってんだろ、このクソ共がぁっ!!」


 勢いよく酒瓶をカウンターにドンと置く。

 ここは、街はずれの冒険者ギルドに併設された酒場。受付も兼ねていて、いわゆる"冒険者たちのたまり場"になっている。マスターがいつものようにグラスを拭きながら、半分呆れたようにこちらを見ていた。


 ――パーティ解散から、3年後。

 かつて魔王討伐隊のヒーラーだった私、ミレミは……今や、アラフォー独身の飲んだくれへと成り下がっていた。

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