ご飯事件
妻ちゃんが猫になったのかどうかは、とりあえず後で考えることにして。
猫がいるわけだから、この子用のごはんを買うことにした。
とりあえずコンビニでいくつかのエサを買う事にした。
好みとかわからないしね。
猫がとりあえず飛びついてくる系のエサをいくつかみつくろった。
「袋はいりますか?」
と訊ねられる。
思わず
「大丈夫です」
と答える。
しまった…
買い物袋を持ってきてないのに…。
僕はパーカーのポケットにエサをつっこんだ。
うちのマンションはペット禁止だから…
こんなところ見つかったら。
やばいな。
誰にも合わない事を祈ろう。
幸いエレベーターには誰も乗っていない。
よかった。じゃあ行こう。
「おーいちょっとまって。まって」
その呼びかけに思わず、開くボタンを押してしまう。
「ごめんごめん。おおきにな」
男が入ってきた。
見た事のない顔だ。
男は僕の部屋の三階下で降りていった。
よかった―
だいじょうぶだった。
安心していると、お隣さんが外にでている。
「あーどうも」
と声をかける。
「今日は暑いね。奥さん元気?」
と世間話をしてくる。
うわーこの人…
話長いんだよな
と思っていると
コロンと猫缶がころがった。
そしてお隣さんの元へ
「あれこれ猫缶じゃないですか」
「あっそうなんですよ。今度猫を題材にした話を書こうと思ってて。
一度猫缶をリアルで食べてみようかなと思ったんですよ」
ととんでもないことを言ってしまった。
どーしよー。
「いやーそれは面白いですね。作品が出来上がったら教えてください」
と言われてしまった。
うーん
これセーフなのかアウトなのかよくわからんな…。
とりあえず会釈しつつ
家に入った。
相変わらず妻はおらず
黒い猫(妻ちゃん?)がいるだけ。
やっぱこれ妻ちゃんなのかな?
僕は黒い猫にまず
猫缶をあげることにした。
カシャという音とともに
猫缶独特のニオイがした。
始めは興味をもったが
完全に無視された。
カリカリ…
CMでやってるやつ…
いろいろだしたけど
完全に無視…
正直
すごい勢いで食べるのかなと思っていたから
ショックだった。
お腹空いてないのかな?
僕はとりあえずラップで包み
冷蔵庫に入れておくことにした。
グー
僕もお腹が空いてきた。
妻ちゃんがいないので
ご飯は炊いていない。
仕方がないので
乾麺のうどん+油揚げ+天カスで
ぶっかけうどんを作ることにした。
黒い猫は基本ずっとなついてくるが
料理中もなついてきた。
カワイイな。
僕は妻ちゃんのことを思い出していた。
妻ちゃんとは恋愛結婚だった。
売れない時はいろいろ苦労かけた。
売れてからも忙しくってあんまり構ってあげられなかった。
基本的に妻ちゃんはツンなので、
あまり寂しいとは言わない。
でも寂しいんだろうなとは思っていた。
もしこの黒猫が妻ちゃんなら。
普段からこれくらいのテンションで甘えたかったのかもしれない。
ゆであがったうどんを冷水で締める。
熱々のうどんが冷水で固くしまっていく。
僕は割としっかり目にしめるのが好きだ。
どんぶりにうどんを盛り、油揚げと天かすをのせ
めんつゆを薄めてかける。
問題は薬味をわさびにするか、ショウガにするか…。
今日はさっぱりといきたかったので。わさびにすることにした。
テーブルにうどんを運ぶと
テーブルの上に黒い猫が鎮座する。
「ミャーミャー」
とまるで
「くれくれくれ」
と言わんばかりにアピールしてくる。
えっ猫にうどんとか大丈夫?
と思いながら
僕は恐る恐る、うどんの一口分を猫用の小皿に移して置いた。
「……食べるかな?」
一瞬だけ鼻先を寄せた猫は――
ずるっ、ずるるるっ、と勢いよく啜り始めた。
「え、マジで?」
妻ちゃんがぶっかけうどんを好んでいたのを思い出す。
これはやっぱり……妻、なのでは……?
すこしとりわけ与えることに
めっちゃ食う。
妻もぶっかけうどんが好きだった。
そういえば妻とたまに
有名うどん店でぶっかけうどんを食べていた。
このレシピもその店のアレンジだった。
たしかあそこは紅葉おろしも入っていたけど
うちでは入れてない。
ちょっと大根の風味が強くなるからね。
しかしこの食いつき
猫がぶっかけうどん食べるか?
これは、やはり妻なのではないか…。
僕はそう思った。