第七話 ライブハウス
第七話 ライブハウス
土曜日の朝が来た。
前の晩、隆と遅くまで飲んで、酔った勢いでデリヘルまで呼んでしまった。隆のオススメのデリヘル嬢は、やっぱり大阪出身だった。長身で身体が彫刻みたいに綺麗だった、大当たりだった。ちゃんと隆は恩を返してくれた。笑笑
二日酔いと眠いのを我慢して起きたが、外は雨が降っていた。バイクは前の日に返していたので、空港に向かうだけだ。
着替えて荷物を持って降りた。
下のレストランで、オーナーに、釣り道具一式プレゼントと言うか、押し付けて、笑笑、朝のモーニングを食べていると、容子がやって来た。
真向かいに座って、傘をくれた。
水玉模様の黒い傘だ。実は、十年経った今でも家に置いてある。容子に、
「わざわざ傘を持って来たのかよ」と言うと、
「まさか、あなたの顔を観にきたのよ」と、笑いながら言った。
「どうせ、大阪で逢えるだろ」
「そうね、楽しみにしてるわ」
奥さんがいたらこんな感じなのかと想いながら、最後のコーヒーを飲んで、ホテルを出た。
雨の中をバス停まで歩いて、容子はバスが来るまで待ってくれた。やっとバスが遠くに見えて、到着する間に、自分の傘を畳んで、容子とキスをした。相合い傘でキスだなんて、大学生の頃しか経験なかった。「学生さんかよ」と言うと、「おっさんのロマンチスト」と言われてしまった。
笑いながらバスに乗り込んだ。窓側に座って、容子に手を振った。
空港に着いた。雨が降っていたので、飛ぶのか心配になったが、遅延もそれほどなかったので、石垣島名物ロケットスタートで帰らせてくれるだろう。
関空に向かって飛行機は飛び立った。
それから、二週間が過ぎて、容子と大阪で会う事になった。石垣島のキャバクラも焼肉屋も辞めたらしい。お金も返して貰ったので、一旦大阪に帰って来たとの事。職場が梅田にあったので、帰りにヨドバシカメラの一階のテラスで待ち合わせした。
久しぶりの大阪はどうなんだろうか?!
阪急からヨドバシまで歩いて行くと、容子が見えて来た。
「浦島太郎さん!」と言うと、携帯をいじりながら上目遣いで睨まれた。
「隆と、キャバ行ってデリ呼んだでしょう!!」
「笑笑、バレた?!」と言うと、
「隆がチクった」と言って来た。
「隆は、石垣帰って就職したわよ」、
「ええなぁ〜 若いとすぐに仕事があって」、
「そうね、おっさんとは違うわ」笑笑、
「偉い攻撃的やなぁ〜 え、まさか、嫉妬してんの?!」と言うと、「幸せね〜」と言った。
「いやぁ〜 デリの女の子の身体、彫刻みたいに....」、「もう、ええて」と言われて黙ってしまった。
「飯何処行く?!」
「東通りの、安っすい居酒屋でいいわよ、石垣でいっぱいお金使ったでしょ?!」、
「まーねぇ〜、しかしなんか生活臭いなぁ〜、まあ、でも、とりあえず安い所に行こか?」で、東通り商店街の、超糞うるさい学生だらけの店に入ってすぐに後悔した。非常にうるさいのだ。まあ、でも、腹減っていたので、ハイボールと、サイコロステーキを頼んだ。これなら立ち飲み屋の方が良かったかなぁ〜と思いながら乾杯した。
「これからどーする?!、俺ら付き合うか?!」、
「いいけど、裏切らないでね、裏切ったら56す」、「こはいわ!!本当にやりかねんわ」と言うと、「普通にしてくれたらいいわ」と言う。
「借金しないでね」、
「隆ぢゃねぇ〜よ」、と言うと笑っていた。それから色々話したが、うるさいので、「尼崎まで行く?!」と言うと、「遠いわ、今日は梅田でイイ」と言うので、立ち食い寿司に行って、ちょっとだけ、ライブハウスに寄る事にした。
ライブハウスは東通りの端の方にある、『カタルーニャ』と言うライブハウスだ。とても静かな店なので、ゆっくり話すのはイイ。容子は、自分とはイメージ合わないわと言っていたが、自分はスペイン民謡とか、クラッシックギターも好きなのであった。
中に入るとマスターは相変わらず元気だった。
「城さん、元気そうですね、今日はお連れさんもいらっしゃる、お客さん少ないから、後で歌ってもイイですよ」と言う。
「でも、マスター、譜面見て歌ったら怒るやん」と言うと、「城さん、もうそれ辞めたんですよ、最近の子はねえ、暗譜が出来ないんですよ、なので、もう諦めて、なんなら、最近流行りの曲の譜面も買って来てます」と言う。一応この店は、老舗で、全国的にも、結構有名な店なので、そんなんでイイんかなぁ〜と思いながら、実は昔、学生の頃に、この店で歌った時に、自分のオリジナルですら、普通に譜面見て歌っていたら、「仮にもステージに立つ人間が、譜面見ながら歌うとは何事やねん、暗譜するのは当たり前やん」、と、客の目の前でこっぴどく怒られたのである。
そんな事があったのに、よくそんな事が言えるなぁ〜と思ったが、笑笑 「マスター、えらい柔軟になりましたねぇ〜 俺、散々怒られたのに」と言うと、
「まーまー城さん、時代は変わったんですよ」と、(てんめ〜あんだけ怒りやがって、よー言うわ)笑笑と思ったが、ホンマにマスターは柔軟になってしまっていた。
美味いバーボンを二杯飲んで、しゃあないなぁ〜と容子の手前、「ぢゃあ、なんかやりますわ」と、
ギターを握った。陽水でもやります。と言って、
『紙飛行機』と、『とまどうペリカン』の二曲を聴き語った。容子はカラオケ聴いてるので、全然驚いていなかったが、他の客は意外とやるねぇ〜と言う顔をしていた。せっかくなので、マスターが買って来た、歌本から、『ミスチル』と『バックナンバー』の曲を譜面を見ながら歌った。手拍子が出来ていた。
昔の感じでやっていたら、誰も若いお客さん来ないのだろう。最後は一階まで、マスターが送ってくれて、「また来てよ、城ちゃん」と言われ、阪急もJRも地下鉄も一緒くたになってる駅まで歩いた。
続く