第四話 黒島
第四話 黒島
バイクで、一応、島中を回っているが、何処も、もひとつだった。しまいに、砂のある所で、キス釣りでもいいかと思ったが、せっかくなので色々探して、やっと釣れそうな感じの場所を見つけた。ちょっと根掛かりやしそうだったが、試しにやってみた。
アジはまだ全然元気が良くて、ぢゃんぢゃん泳いでくれる。十五分くらいすると、さーっと持って行かれるのがわかった。どうもイカ臭い、家でやる奴ではなく、笑笑。引き方がスルスルなのだ。そんな大きく無さそうだったが、結構長い。止まるのを待ってちょっとだけ様子をみる。
ガッとタイミングを合わせると乗った。
まあ、ヤエンとかと違い、乗せやすいので、そんな技術は要らない。それから、シーラの子分みたいなやつと、イカをもう一匹釣り上げた。これはデカかった。ちょっとどころか大満足だった。
イカはすぐにシメて、クーラーボックスに入れて、シーラの子分はリリースした。それから、海底が砂浜っぽい所を探して、バイクで移動して、キス釣りに切り替えた。場所も狙いも変更だ。
アジは全部逃してやった。餌を青虫に切り替え、キス釣りを開始する。イカがいるのでもう十分だ。
あとはキスを何匹か釣ったら、帰ろうと気分を切り替えた、つーか上機嫌だった。イカ二匹で十分なのだ。笑いが込み上げて来る。バイクレンタルの主人に「ざまあみろ」と言ってやろうと思った。船の時間があるので残り後、一時間だ。
それからの三十分くらいは、反応無かったが、残りの三十分は結構凄かった。ダブルも二回来たし、一匹ずつのサイズもデカかった。持って帰れるサイズである。次から次へと釣れそうだったが、しょうがない、おしい、時間だ。
港に戻ると、例の子供が手を振っていた。夏休みのじーちゃんの家に帰るのだろう。車の中から何か言いながら手を振っていた。こっちも「バイバイ」と言ったが、聞こえなっただろう。
バイクを返して、「こんだけですわ」と言うと、バイクレンタル店主は「やっぱり本気でしたね」と笑っていた。
帰りの船に乗る時に、何人かが話しかけて来て、「いや〜大した事ないっすよ」と言いながら、一匹のデカいイカを見せたりして帰って来た。久しぶりに機嫌が良かったし、つーか、どっちにしろ邪魔になるので、ホテルの女将にあげた。
「すみません、邪魔になったら捨ててください。でも新鮮なんでどうぞ」と言うと、「あれ、こんなに、良いんですか」と嬉しいのか、迷惑なのかわからないが、一応受け取って貰えた。それで晩御飯の時に、イカ刺を出して貰った。キスはフライで、明日、子供の弁当のおかずになるらしい。
良かった良かったである。断られたらカッコ悪いから、捨てに行こうかと思っていたので、嬉しかった。
風呂にゆっくり入って、イカ刺しも晩御飯も堪能し、今夜は『久米仙』も『残波』も堪能した。この後、容子のキャバくらに行こうかと思っていると眠ってしまった。
次の日の朝は、気分良かった。一階のレストランで朝飯を食べて、歩いて商店街に出かけた。
以前から三線が欲しかったので、良いのがないか見たかったのである。大概は観光客用のやつなので、ちゃちいか、高価で、なかなかお手頃のものが無かった。大阪駅ビルなどにも専門店などもあったのだが、なんか自分好みのええ感じのやつが、一本欲しかったのである。
商店街を少し離れた、薄汚れた雑居ビルの一室に良さげな楽器店があった。スタジオとかも兼ねた、良くある店だった。中に何本か三線があって弾かせて貰った。
「どうですか?!」と店主が言うので、「ん〜」と言うと、「中古品でも良いものはやっぱ高いし、結局はね、適正価格になるんですよ、掘り出し物なんてなかなかないさー」と言う、「確かにな〜」と思いながら、奥に目をやると、
小型のマーチンが見えた。「えっ、リトルマーチンっすか」と言うと、
「最近のやけど、小型ギターが流行り出した頃に発売されたやつ」
「えっ、最初三万くらいで発売されたやつ?!」
「ええ」
「えっ、ええやつやん、ちょっと弾かしてよ」
「良いですよ」と意味深な笑いをしていた。
ギターを預かって、斎藤和義を一発ぶちかますと
「意外とやりますね〜」と笑っていた。(足り前だろう)笑笑
実は、このマーチンの小型ギターは抜群に音が良かった。
一度阪神尼崎でチェリーのサンバーストのヤツを見かけた事があったのだが、それ以降見ることはなかったのだ。
それから、当たりギターの話になり、このギターが見かけなくなった理由や、最近のスマートギターの性能が良過ぎる話になった。なんやかんや言いながら、もう三線など忘れてしまっていた。やはり、好きな楽器ナンバーワンはギターだった。
後は地元のバンドの話で、ライブに来てくれとか言われた。
雑居ビルを出た。一度バイクを取りにホテルに帰った。
バイクはホテルの前に置きっぱだが、しょうがない。置く所がないのだ。台風来たら即返却しなければならなかった。今のところは大丈夫だろうが。
バイクに乗って海方面に走り出した。
パイナップル畑に寄ろうかと思ったが、容子の悪口を言われそうなので、時間を置いてまた寄る事にした。島中をバイクで走っているだけで楽しいのである。明日は、弁護士事務所に行かなきゃなので、今日はバイクでぶらぶらのんびりしたいと思う。二時間くらい走ってホテルに着いた。
夜は容子の店に行った。作戦会議である。
と言っても、法的な作業は、こっちは素人なので、弁護士先生に聞けるだけの疑問をぶつけるしかないだろうという事、絶対に払ってもらうと言う強い意志が必要だった。
「妥協したらあかんで」と言うと、
「うんわかってる、元彼氏のお母さんと仲が良いから、最悪お母さんに払って貰う」と言う。
「なら、そんな難しいくないやん」と言うと、
「確実にお金欲しいのよ、もうここ辞めて、福岡に行くかも知れないから」と言う。
実は何故に容子が石垣島に来たかと言うと、彼氏とは大阪で知り合って、彼氏の出身地が石垣島だったのである。行方不明の彼氏も石垣島に帰ってるかも知れないと感めいたものがあったらしい。確かに海好きで沖縄に来ているのではあるが、捕まえるなら、石垣島でしょうと言う事であった。あとお母さんもいるし。
「とにかくさあ、内容証明とか、裁判所に申し立ての仕方とか、明日聞くにして、とりあえず今夜は早く帰らせて貰えよ、そうしないと、明日二日酔いじゃあ話にならんし」、
「うん、早く上がらせて貰う、カラオケ歌わないの」、
「阿保、もう帰るわ」と言う事で、ホテルに帰って寝た。
引き受けた以上はちゃんとやらない時が済まないA型なので、早く寝る事にした。と言うのも実は、サラ金に自分自身も苦しんだ事があったのだ。
借金があると、冷静さを失う。自分は過払い請求で助かったが、司法書士事務所の門を叩く前に何年も悩んだのである。結局、会社の先輩や友人達が相談に乗ってくれて、司法書士事務所に行ったのであるが、もっと早くに誰かに教えて貰えなかったのだろうか?!と思う事もあったのである。
それで、今度は、自分自身が相談に乗ってやろうと言う事でもないが、乗り掛かった船なら乗りましょう、と言う事なのだった。それに、話しを聞くと、元彼氏という奴は、暴力を振るうとかそういうヤカラではなく、どうも普通ぽかったので、なんとかなる感がしたのである。
とりあえず今夜は寝よう。
つづく。