第三話 バートランドの子守り歌
第三話 バートランドの子守り歌
朝の十一時くらいにホテルでに帰ってきた。
あまり容子の部屋に入り浸ると、キャバの会社に怒られるからと、追い出されてしまったのだ。まあ、自分も釣りとか行きたかったし、黒島にも行きたかったので、女といちゃついてばかりもいられなかった。
水曜日には、弁護士事務所もあるし、休みも限りがあった。雌臭い生活は、大阪太融寺や、十三に行けば、山程満たされるので、急いで釣り道具屋に行った。
釣り道具屋に着くと、大掛かりなセールをやっていた。いつもレギュラーでやっているのか、今回だけなのか知らないが、そこの店員はみんな優しくて、ええ感じだったので、色々と時間かけて探しまくった。
自分は、石垣島に友人がひとりもいなかったので、釣り場のポイントがわからなかった。容子も釣りが大好きだとは言っていたが、移住者なので、ポイントまで詳しくは無いだろう。ポイントを知っているのと、知らないのでは、だいぶ違って来るのだ。そもそも知っていても、潮の満ち引きや、時間帯、気温など、一分違いで全然釣れなかったりするのだ。
自分は、船舶免許を持っているので、船をレンタルすれば、魚群探知機がついているので、わかりそうだが、そうでもないのだ。ピンポイントは難しい。それに、ひとりだとコスパが悪すぎるので、やはりバイクでうろつきながら陸上で探す事にした。
なかなか良さげな所はなかった。よくよく考えたら、石垣島ではなく、周辺の島に行けばヨイのだ。広々とのんびりしているし、それで、今日は釣り道具を揃えて、明日、朝一で船に乗って、黒島に行く事にした。
道具を揃えてホテルに帰って、コーヒーを頼むと、レストランの中に、四十歳くらいの、いかにも南米の白人の女性がいた。面白そうなので話しかけると、アメリカからきていると言う、名前は『ジュリア』。しかし元々の出身は、アルゼンチンの人らしい。だからかどうか知らないが、わかりやすい英語で会話してくれた。
結構話が盛り上がって、facebookとか交換した。所謂、USJやディズニーランドとかに来る、外国の劇団とかに属する、音楽担当の人だった。
後に、『バートランドの子守り歌』の動画を送ってくれたが、絶品だった。ポルトガルギターみたいなギター一本で弾き語るのだ。はっきり覚えていないが、ジュリアとの会話の中で、『南北戦争』の映画の話が、何かのきっかけで出たので、彼女と別れた後、自分が『アショカンフェアウェル』と言う曲を、fiddle(ヴァイオリンの別名)で弾いて動画を送った。
そのアンサービデオが、『バートランドの子守り歌』だった。彼女との会話は盛り上がったが、今から空港に行き、那覇で乗り換えて、中国に行くと言う。容子を捨てて、こっちに乗り換えようかとも思ったが、って、それは冗談だが、笑笑、今のところお友達で十分でしょう、と言う感じだった。
彼女の事を色々聞いたが、日本に来ているのは、空手の偉い先生の講習会とかに来ているらしい。そしてその後、仕事で中国に渡るのだそうだ。自分もボクシングをやっていたので、今度スパーリングをやろうと言うと、顔を殴られるのが嫌なので、絶対にやらないと言う。
まあ、女の人なのでしょうがないのかも知れないが、武道やってる意味ねぇ〜だろうと思いながら、彼女と別れて部屋に帰った。後に、中国で公演が始まったと言うメールが届いた。中国中を一年かけて回るらしい、面白そうだ。
自分は釣り道具の準備をする事にした。
黒島にはニ回くらいしか行った事がないので、そんなにイイ釣り場を見つけられないと思うが、最悪、港でイカ釣りか、砂浜みたいな所を見つけて、キス釣りでも良いし、釣竿を海に入れれたら、何処でも何でも良いのである。
本職の釣り人ではないし、全くの遊びなのだから、釣れ無くても釣れても全然構わない。
とりあえず、竿の点検でもすることにした。袋から開けて、伸ばしてみる。ぷらぷらさせてみて曲がっていないか確認した後、一度戻して、もう一度伸ばしてみる。その時に、糸を通す輪っかが割れていないかを確認する。
セール品とか偶に輪っかが、足りなかったりする時がある。バス釣りのサオなら元々輪っかが多いので、一個くらい足りなくても半年くらい気づかない事もある。
それからリールも出して竿につけてみる。リールは極力良いのがイイ。遊びなら三千円くらいで十分だ。今回はとりあえず、アジを港で釣って、『ぶくぶく』に入れて、バイクでちょっとキツそうな磯を探して、『泳がせ釣り』をしたいと思う。
バイクはもう、レンタルの予約をしている。以前お世話になった所で、十分や二十分オーバーしても、文句言わないおおらな人が経営している。
以前、時間違えてオーバーして帰って来た時、「あー全然大丈夫よ、追加料金なんか取らないよ」と言ってくれた優しい人だ。港まで迎えに来てくれて、バイクを置いてる所まで連れて行ってくれる。
クーラーボックスも買った。これは主に餌とジュースを入れるやつで、最初から大物などが釣れる訳がないので、半分飾りだ。でも、道具入れや、餌の臭い防止にはイイ。
もちろん餌も既に買ってある。
サビキ用のエビは、冷凍庫から普通の冷蔵に移して、青虫と一緒に置いてある。釣ったアジを生かしておく『ぶくぶく』は電池を入れて、動作確認もする。女と遊ぶのも楽しいが、釣り道具を触っている時は至福の時間なのである。後は糸切りバサミも二つ確認して、仕掛けもナイフも余分に揃えた。
その晩はワクワクして、ウヰスキー呑んで、とっとと寝た。次の日の朝、早めに港に向かう。バイクはホテルに置いて歩いていく。夏の朝は気持ちが良かった。港に着いて、ソーキそばを食べる。美味いので、殆ど毎日食べているが、八重山そばとの違いが何か最初はわからなかった。
それと沖縄そばもそうだ。あとスパムも入れたりするバージョンもあるが、それは、尼崎で知った。笑笑、尼は友人達の両親の出身が、沖縄、鹿児島など九州の人が多いのだ。自分もそうだが。
朝飯も食ったし、船を待っていた。朝一だったので気持ちが良い。船が到着し、夏休みの家族連れ達と一緒に乗った。船は意外と高速だった。
最近の船は早い。どんどん高速になってデザインもカッコ良くなっている。その分安定性がなくなって来てるように感じるのは気のせいか?!自分も時々、レンタル船で、新西宮や、須磨から出港するが、船が最新になればなるほど、高速にはなるが、安定性が不安なのである。歳取って来たのかも知れないが、横波だけは注意している。まあ、かっちり計算されて設計されているのだろうから、おっさんの戯言だと思って欲しい。
窓から綺麗過ぎる海を眺めながら、黒島に向かった。黒島の港に着いた。いつものレンタルバイクの人が迎えてくれた。いつもより釣り道具が多かったので、「今回は本気ですか?!」と言われてしまった。いつも釣れてないので嫌味かよと思ったが、そんな事はないだろう。
とりあえず契約書を書いてバイクを借りた。今のバイクは優秀なので、五十ccで十分だ。港でまず子供や、じーちゃんらが釣ってる横におぢゃまさせて貰い、アジを釣り出した。子供やじーちゃんが多い所はアジが釣れる。珍しいのか子供は、『ぶくぶく』を見て話しかけてくる。
「どれくらい持つの」、
「そーやなぁ〜 アジの数によるけど、七、八時間は持つよ」と言うと、「いいなぁ〜欲しいなぁ〜、じーちゃん買ってぇ〜」とか言っている。
「それは大物を釣る時の、餌用の道具だから、アジを持って帰って、フライにして食べるなら、クーラーボックスで良いんだよ」と言っていたが、夏休みにだけ遊びに来る子供には、面白いのだろう。
二十匹くらい釣ったが、釣り過ぎた。子供と色々喋り過ぎてしまった。まーアジは死んでもクーラーあるから死に餌にしよう。
「もう、おっちゃん、磯の方に釣りに行くわ」と言うと、「えーっ、また今度教えてぇ〜」とか言っていた。『ぶくぶく』の塩水の量を少し減らし、ファスナーを閉めて、バイクの足元乗せて、ゆっくり走り出した。本当は、近くでも良かったのだが、子供が面倒いので、遠くに離れる事にした。
続く