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 あの人が死んでからはや3日、家には沢山の友人知人が線香を上げる為に家を訪ねて来るのが日課になっていた。

 インターホンが鳴った時、長井瀬名は今回もそうだろうと思い洗い物をする手を止めて足早に玄関に向かった。

 ドアを開けて客人を迎えた瞬間、瀬名は久々に見た懐かしい存在に思わず口元が綻ぶ。

 葵色の髪に黒い瞳、そして何年経っても変わらない小柄な姿の少女が立っていた。


「……お久しぶりです。ケルカ様。」


「久しぶりじゃなセレーナよ。また無駄に背が伸びたか?」


「そちらこそ相変わらずちんちくりん

 な姿で安心しましたよケルカちゃん?」


「貴様ら人間の成長が速すぎるんじゃ。それに妾は姉妹の中では末っ子じゃが立派なレディーじゃぞ。もっと敬わんか」


 少女、ケルカは不満そうに鼻を鳴らして言い放つや靴を脱ぎ捨て家の中にズカズカと入り込む。


「……おかえりなさい大精霊様。」


 扉を閉めて追いかけて見れば少女こと、ケルカは冷蔵庫を開けてガサゴソと何か食べ物か何か無いものかと漁り始めていた。


「ぬ、冷蔵庫の中何にもないんじゃが?」


「貴女が来るなんて聞いてないんですから仕方無いじゃないですか」


「なんじゃ文句でもあると言うのか?急な客人に対しても何時でも対応出来るようにしておるのが嫁の勤めという物じゃろうて。」


「何ですかその小姑見たいな嫌味は……」


「はんっ妾からすればお前なぞまだまだクソガキじゃわ。」


「じゃあそのクソガキからのお願いですがさっさと帰っては頂けませんか?」


「お~?嫌じゃが?妾はもう少しここでのんびり過ごすと決めたんじゃからな。ほれ、茶の1杯でも寄越せ」


「分かりましたよ……それじゃ用意しておきますので冷蔵庫を勝手に漁るのを辞めて大人しく待ってて下さいよ。」


「早くするんじゃぞ!あと煎餅もじゃ!!」


 無遠慮所か無神経極まる姿に瀬名は呆れながら台所に行き茶の用意を始める

 この人、いやこの少女の事は苦手である。苦手を通り越して嫌と思いたい程だ。

 雑事や面倒臭い事は全て私達に丸投げするし、やたらと年長者を敬えと言い出す。挙句、戦闘の時なんて馬車の中でうたた寝をしてたのを覚えている。不満を言えばキリのない程。見た目も相まってクソガキその物。今の私の方が立派な大人である。

 

 茶の用意を終えてふとケルカの方を見ると冷蔵庫から取り出したであろうハムやソーセージ、挙句の果てには野菜までテーブルに置いては口いっぱいにボリボリと食べ散らしている。


「…………やらんぞ。」


「いりませんよ…。」


 食い物を守る様に抱きしめる少女の姿にため息を漏らしながらテーブルに茶を置いてケルカの向かいに座る。


「それにしても、随分と遅かったじゃないですか」


「…………妾も感傷に浸りたくなる。そういう事じゃよ。」


 食べかけのハムを一枚くわえたまま、ケルカは口をもごもごと動かしていた。けれどその目は、どこか遠くを見ていた。

 瀬名はそれを見て、無意識に背筋を伸ばす。


「……大精霊である貴女が珍しいです。」


「妾にだって、感じる心はある。……長井新太は、妾にとっても特別な存在じゃった。」


 それきり、しばらく沈黙が落ちる。茶の香りだけが、ほんのりと空間に広がる。

 どちらからともなく湯呑みに口をつけ、また沈黙。


 その空気を破ったのは、ケルカだった。


「妾が来たのは、ただ線香を上げに来ただけではない。……永井瀬名いやセレーナ・アーシェント。」


 ピシリと緊張が走る。

 瀬名は湯呑みを置き、静かにケルカの目を見つめた。

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