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二、旅は道連れ

 聞くと、リュックの彼女は同じ大学ではなかった。S駅周辺に一人暮らしを始めたばかりらしい。

「友だちと遊んだ後、疲れていたみたいで帰りの電車で寝過ごして知らない駅に着いちゃったんです。だからS駅への帰り方が分からなくて」

 駅員に聞けばいい話では?

 コンビニでモバイルバッテリーを買って充電してスマホで調べればいいのでは?

 そう疑問に思ったものの、さっきより彼女の声のトーンが柔らかいことのほうが僕には大きい。思わず安堵してしまった。

「清水くん、面倒くさいことに巻き込まれたと思ってる?」

「いえ」

 調べたとしても土地勘のない場所ですいすいと動ける人間ばかりではない。

「この後はどうするかわかりました?」

 彼女はスマホでS駅への行き方を調べる僕を覗き込んだ。

「乗り換えないといけません」

 S駅に行くのはなかなか面倒くさい。

「何駅で?」

「K駅です。改札を出て、右に歩いていくと違う路線の改札がありますから、そこから乗るといいと思います」

「改札、出るんですか?」

「一度出るみたいです」

 彼女の表情が険しくなる。

「迷子になりそう」

「K駅からK市駅で下車して、今度は駅から出ます。歩いて、また違う路線の駅から電車に乗らないといけないらしいです」

「面倒くさいですね」

 僕は苦笑いを浮かべる。

「ほんと。都会なのに不便ですね」 

「ここは都会じゃないですから」

 彼女はさらりと言った。

 確かに、都会にちょっと近いが都会ではない。僕も思わずうなずいていた。

「それで、K市駅から歩いて何駅へ行くんでしたっけ?」

「本K駅です。そこから三つ目の駅がS駅です」

「Kばっかり出てきて目が回りそう」

 リュックの彼女は大きくため息を吐き出し、それから僕を意味ありげに見上げた。

「ご迷惑じゃなければ、本K駅まで一緒に来てもらえませんか」

「いや……」

 ここでようやく我に返った。

 僕は騙されているのではないだろうか。

 もしかしたら、彼女の背後から強そうな男が数人現れ、言いがかりをつけられ、現金から個人情報まで奪い取られるんじゃないか? 

 最低最悪の事態が頭を駆け抜けていく。

「ーーいいです。ごめんなさい」

 疑いの目を向けられた彼女は僕にくるりと背を向けた。

(あれ?)

 彼女のリュックについていたピンに僕は目を奪われた。

 僕の出身高校の校章だったからだ。

(やっぱり)

 僕らは多分、見たことのある人間だったんだ。

「あの」

 声をかけると、思いのほか鋭い視線が返ってきた。

「大丈夫です。清水くんの帰りが遅くなっちゃうし、自分で何とかするのでお気遣いなさらないでください」

「いや、違うんです」

「変なことを頼んで申し訳ないと思っています」

「あの、同じ高校ですよね?」

 彼女の言葉を遮って申し出る。

「だから?」

「いや、だから話しかけてきたんですよね?」

 僕は声が強くならないように、必死に笑顔を作る。

「何か僕に用ですか? 誰かに頼まれたんですか?」

「違いますーー気にしないで下さい。困ったら駅員さんとかに聞くから問題ないですし」

「でも、あの」

「大丈夫です。ちゃんと覚えました。本K市駅で降りればいいだけだし」

「いや違いますよ。K駅で乗り換えて、K市駅で降りて、歩いて本K駅へ行って、そこで電車に乗ります」

「ああ……」

 気が遠くなりそうな彼女をみて、僕は吹き出してしまった。

「僕も行きます」

 彼女は僕の顔を二、三度見比べてから、頭を下げた。

「ありがとう、お願いします」

 そう言ってから、何故か泣き出しそうな顔で笑った。

 


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