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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『特殊な部隊』の初陣  作者: 橋本 直
第十九章 マフィアと駄目人間

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第98話 『駄目人間』の本当の顔

挿絵(By みてみん)

 都内の街中。路上喫煙禁止区域だというのに嵯峨はそれを無視していつものようにタバコをくゆらせていた。


「神前に俺達の『特殊部隊』的なところを見せるには……まだ早かったかな?うちは『お馬鹿さん養成機関』じゃなくて、その本質はむしろかつての地球の『ゲシュタポ』や『KGB』の方が近いって……まあ、今の神前に言っても分からねえわな」


 そう言って嵯峨はタブレット端末のランからの『状況終了』のメールを見ながらそう言った。そして、画面をのぞき込んだ後、加えていたタバコを路上に投げ捨て、タブレットを愛用の『甲武国』軍用タバコ『錦糸』の入った、夏服の胸のポケットに入れた。


 東都中央銀座通り。経済で遼州の大国となったこの国の首都らしく、次々と着飾った人々が行きかう中心街だった。その大通りに面した人目で一等地とわかる場所にある、(ぜい)を尽くした建物。そこの一階には地球のイタリア系ブランドの宝石店が居を構えていた。イタリアと東和は国交がない。当然扱っているのはすべて密輸品。東和政府もそれを黙認しているのが皮肉に思えて嵯峨は苦笑した。


 嵯峨は朱色の鞘と渋めの(つば)が目立つ『日本刀』を肩に乗せたまま、じっとその前で立ち続けていた。周りの買い物客はその姿に怯えたように遠巻きにして、嵯峨の姿を眺めている。


 その姿はどう見てもマナーの悪い若い警察官が日本刀を持ってぶらついているようにしか見えない。


 すでにその姿が目に付いて警察に通報した人物がいるようだが、駆けつけてきた警察官は嵯峨が身にまとっている制服の(そで)につけられた司法局実働部隊を表す『大一大万(だいいちだいまん)大吉(だいきち)』の紫色の部隊章を見て、その場で近づかないように野次馬の規制を始めた。


「クラウゼ。俺が抜刀したら空気読んで入ってきてよ。まあ、抜くかどうかは……俺の気分次第だな」 


 そう言った嵯峨の表情にはいつもの緩んだ調子は無く、まさに『狩る者』のそれが浮かんでいた。


『了解しました』 


 嵯峨は配置についているであろう運航部を指揮する部長、アメリア・クラウゼ少佐に通信を飛ばした。そして周りの好奇の目も気にせずに、制服姿には場違いな高級感のその密輸品を扱うにはあまりに堂々とした店の中に入っていった。


 それまで店内で接客に従事していた店員達は瞬時に彼の姿に警戒感をあらわにする。外から覗き込んでいる警官が彼を制止しなかった所を見ていたのか、とりあえず係わり合いにならないようにと自然体を装いながら嵯峨から遠ざかった。


 店の中にいた客は嵯峨の手にある日本刀に驚いたような顔をしているが、すぐに店員が彼女達に耳打ちをして嵯峨から離れた場所に移動した。


 嵯峨は慣れた調子でショーケースの間をすり抜けながら、ただなんとなく店を見回してでもいるような感じで店の中を歩き回った。一人の若い女性店員が、意を決したように店内中央に飾られた貴人に似合うような高級感漂うティアラの入ったケースを眺めている嵯峨に声をかけた。


「お客様。警察の方ですよね?他のお客様が……」 


「お気遣いなく。ここで暴れるつもりはねえよ。ここのオーナー出しな。名目上のじゃねえよ。モノホンの方だ……て、そんなことあんたに言っても分からんか……おい!そこのアンちゃん!」 


 懐に手を入れたままで、じっと嵯峨の方を他の店員とは違う殺気のこもった視線で見つめていた一人の店員に声をかけた。店員は上着のポケットに入れていた手を抜くと、表情を接客モードに切り替え何事も無かったかのように嵯峨の方を笑顔で見つめた。その頬に緊張の色があることを、嵯峨は決して見落とさなかった。


「アンちゃんよう!俺みたいに怪しい人物が来たら案内する方の『本当のオーナー』、今日来てんだろ?そいつのとこまで連れてってくんねえか?」 


 嵯峨は満面の笑みを浮かべながらそう言った。


 アンちゃんと呼ばれた店員は初老の店長らしき人物に目配せををした後、両手をズボンのポケットに突っ込んで挑発的な視線を送っている嵯峨に歩み寄ってきた。


「お客様、店内であまり大声を出されても……。こちらになりますので」 


「ああ、知っててやってんだ。気にせんでちょうだい」 


 嫌味たっぷりにそう言うと、業務用通路へ向かうアンちゃんの後ろについて嵯峨は歩いていった。彼に従って従業員出入り口からビルの奥へと進む。そしてそのまま人気の無いエレベータルームにたどり着いた。




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