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法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『特殊な部隊』の初陣  作者: 橋本 直
第六章 駄目な人々

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第32話 『駄目人間』上司

 ランの部隊の部屋からしばらく歩いた先にドアがあった。この時初めて気づいたが、各部屋には札のようなものがついていた。そのランが立ち止まった部屋にもそれがあった。


「『隊長室』か……」


 自分に言い聞かせるようにして、誠はその札を読み上げた。札がついている以外は特に他の部屋とかわらない。ランはその部屋にノックをしようとして、やめる。


「言っとく。ひでーものをこれからオメーは見ることになる」


 少し怒りに震えながらランはそう言った。


「ひどいもの?」


 誠は何のことだか分からずそう返した。


「そうだ、ひでーもんだ。まあ入ればわかる。もし入隊を拒否するのは構わねーが、一応、アタシが『隊長』の面倒をみてるから、結局、アタシのところに話は回って来る。そん時は全部『嵯峨惟基が悪い』で通してくれ。頼むわ」


 ランは明らかに怒りの表情で隊長室の壁を見つめた。


「面倒をみるって……大人でしょ?ここの人って」


 ランは本当にあきれ果てたという顔をして誠を見上げてくる。


「戸籍上と見た目はな。じゃー入るか」


 そう言うとランは大きく息を吸い込んだ。誠はさすがに隊長を相手にするとあって、ネクタイに手をやり姿勢を正した。その様子をランはため息とともに見上げた。


「さっきの車の中でのアタシへの態度と言い、オメーは問題児にはならねーように見えて、火に油を注ぐタイプだな」


 そうランはささやいた後、隊長室の扉をノックした。


『いーよー入っても』

挿絵(By みてみん)

 誠にも聞き覚えのある間抜けな声が室内から響く。


 ドアの中を見たランは頬を引きつらせながら、足を踏みしめて室内に入っていく。誠もそれに続いて隊長室の中に入った。


「おい、駄目人間」


 ランがそう言い切った。隊長室のドアを入ったばかりの誠にはその言葉の意味が理解できなかった。


「駄目人間だよ、俺は。そんな事、十分理解してるから。今更、指摘しないで……ふーん、そうなんだ……次はここでお話を聞こうかな……」


 隊長室の大きな机の前にランと並んで立った誠は目の前の大きな机の向こう側に座っている男に目を向けた。彼こそが誠を『嵌めた』張本人。すべての悪の元凶、嵯峨惟基特務大佐その人だった。


 嵯峨はピンク色の表紙の雑誌ようなものを読みながらタブレット端末をいじっている。その目は眠そうで、これまで誠が見てきた嵯峨の姿が母に会うためにそれなりに取り繕ったものだったかを感じさせるほど緊張感のかけらもないものだった。


「駄目人間。常識人だったら勤務中に風俗専門誌の鑑賞なんてしねーんだよ。自重しろ、バーカ」


 一応は上官である。冷や冷やしながら誠はランに目をやった。軽蔑を通り越し、汚物を見るような目がそこにあった。


「すること無いんだから仕方ないじゃないの。時間は有限だよ。有効に使わなくちゃ……お金があればなあ……小遣い三万円の身じゃ雑誌を買ってチェックするのが関の山だ……お金ないかな……東都の古道具屋にでも行ってガラクタを骨董品にでっちあげて成金に売ったら茜の奴に怒られるし……俺のお得意の琵琶のCD出しても買うのは学校位だから印税なんて期待できないし……」


 ランは大きなため息をついた。


「時間がどうこうなんて話をしてんじゃねーんだよ。仕事中はちゃんと仕事をしろって話をしてんだよ」


 ランは初めてこの光景に立ち会った誠から見ても、何度も同じセリフを繰り返してきたことがよくわかるようにすらすらとそう言った。


「あのー隊長が読んでる……のは……もしかして……」


「そんな遠慮して隊長なんて呼ばなくていいよ。駄目人間とか脳ピンクとか呼んで。俺、プライドの無い男ってのを売りにしてるから。これ?ソープランドとかピンクサロンくらい知ってるよね?大人なんだから」


「はあ、一応……行ったことは無いですけど」


 誠は多少興味があったが、シャイな誠と風俗店は縁もゆかりも無いモノだった。


「詳しく説明すると隣の『風紀委員』が怒るからやめとくわ。そしてこれがその情報誌。結構、しっかり取材してくれてるから便利なんだ……店に行く金は無いけど行った気分になれる。良い目の保養だよ」


 嵯峨はそう言うとタブレット端末を机に置いた。


「これでいいんだろ?中佐殿」


 未練たっぷりと言う感じで嵯峨は渋々端末から手を放す。


「そのピンク雑誌をアタシの目の届かないところに置け。どこでもいい、アタシの視界から消せ。つーか、オメー死ねよ。死んでくれ。宇宙から消えてくれ、消滅してくれ。ホント、マジで」


 ランはまさにごみを見るような視線でそう言った。


「ピンク雑誌ねえ……まあお前さんの見た目じゃそう言う意見しか出てこないわな。もっとも俺はロリコンじゃねえからナイスバディ―の熟女にしか興味がねえの。だから、熟女専門の店しか興味ねえんだ」


 ここまで駄目な人間が母の知人だということに誠はショックを受けていた。変な大人だとは思っていたが、ここまでひどいものを目撃したのは初めてだった。


「つまんねー御託(ごたく)を並べるんじゃねー。駄目中年!」


 さすがのランもキレた。これまでで、見た目は幼女で口は悪いが、ランは伝説のエースにふさわしい大人物であることは誠にもわかった。


 その上司が勤務中に風俗情報誌を堂々と読んでいる男である。


 誠は室内を見回した。その光景がまたイカレテいた。


 一番目に付くのは壁際にある日本の鎧である。日本史の知識が無い誠にもはっきりとそれとわかる黒い鎧がある。まずこれが目に付く。その隣には和風の弦楽器、たぶん『琵琶(びわ)』と呼ばれているもの、そしてその隣にはギターが置いてあった。この二つはあってもいい、好きなら弾いても人間性を高めることはあっても(おとし)めるようにはならない。


 その他は雑誌の山。多分ギャンブル系の雑誌なのだろう。目の前でランに威嚇(いかく)されて嵯峨はオートレースの予想紙を隊長らしい大きな机にある袖机の引き出しに座った。


 他にも戸棚が二つあるが、どうせろくなものが入っているわけではない。


『こいつは……正真正銘の駄目人間だ』


 誠は軽蔑の目で嵯峨を見つめながら、どんな啖呵を切って辞めてやるかを考えていた。




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